第30話 ブリーフィング②

「それでは続けます。……ターミナス粒子は、出力上昇に伴い青、黄、赤と色が変化していきます。一般的には最高出力の際は赤色と言う事になりますね。……ですが実際にはもう1段階上があります。赤色にまで出力上昇したターミナス粒子のパワーをさらに上げて行くと、ターミナス粒子の収束力場しゅうそくりきばが急に不安定になりそれ以上は出力が上がりにくくなります。ですが、近年その不安定になる力場を安定させる装置が開発され、もう1段階出力が上げられるようになりました。その際、ターミナス粒子の色は白色になり、その性質が変化する事が分かりました」


「「「性質の変化?」」」

  

 ルーシーの説明に聞き入っていたクルー達が合いの手のように聞き返す。 


「はい、それは白色のターミナス粒子は粒子同士の繋がりが非常に強く、粒子の拡散崩壊を起こしにくくなり、さらに下位のターミナス粒子の力場をたやすく侵食・破壊するというものでした。その性質変化が〝ヴェル現象〟です」


 ルーシーの説明が終わると、作戦室はクルー同士の会話で途端にざわざわし始めていた。

 『アンデッド小隊』の4名も、他のクルーと同様に驚きを隠せないでいる。ヴェル現象がよく分かっていなかったユウとマリクは特に衝撃を受けていた。

 そこにさらにアリアからの説明が加えられ、再びクルー達を驚かせることになる。


「今までの実験ではヴェル現象を可能にする装置は大規模で、実戦で使用できるレベルではありませんでした。……ですが、『シルエット』技術開発部によってその装置を戦艦に搭載可能とするダウンサイジングが行われました。そして、そのヴェル現象を利用した特殊砲〝ヴェルブラスト〟をこの<エンフィールド>は搭載しています。理論上〝ヴェルブラスト〟ならば、例え超遠距離からの砲撃でもターミナス粒子の拡散は起きにくく、資源衛星リザードのターミナスレイヤーを貫通し、本体にダメージを与える事が可能です。………本作戦では、ヴェルブラストによる砲撃でリザードの妨害電波発信装置を破壊し、その直後にイーグル級3隻と本艦の戦力で一気に敵戦力を鎮圧していく流れになります。作戦は今から16時間後……明日の1200ひとふたまるまるに開始します。以上です」


 ブリーフィングが終了すると、参加したクルー達は自分達の持ち場に戻って行った。

 皆ヴェルブラスト関係の話題でもちきりであり、そのトンデモ武装の性能には正直半信半疑であった。

 それは、百戦錬磨の『アンデッド小隊』の面々も同様であり、この後に控えている作戦が心配でならない。


「ヴェルブラスト……か、そんなとんでもない武装が都合よく扱えるものなのか?」


「……確かに。でも他の方法は思いつかないですし、信じるしかないですよ隊長」


 怪訝な表情をするマリクとケイン。その後ろで、ユウとルカはブリーフィング後にルーシーに教えてもらったパスコードで<エンフィールド>の重要機密項目に端末からアクセスし、そこにあるヴェルブラスト関連の資料に目を通していた。

 すると、ある項目に目が留まる。この艦の開発スタッフの所に見知った名前があったのだ。


「兄さん、どうやらこの艦の開発にレナが関わっているみたいよ」


「なにっ!? あの天才少女が?」


 レナ・メドスは『シルエット』技術開発部に所属する才媛で、現在16歳にして白い死神こと<Gディバイド>を開発した天才少女だ。

 彼女は『シルエット』の様々な兵器開発に関わっており、この組織の機動兵器の技術レベルを一気に押し上げた。

 もし、彼女がいなければ『シルエット』は兵器の質・量ともに『地球軍』に劣り、木星圏はその全エリアが既に占領されていただろう。

 そんな彼女の名前が<エンフィールド>の兵器部門の開発スタッフの欄にあったのだ。


「<Gディバイド>を開発している裏で、こんなトンデモ武装の件にも関わっていたのか、あいつは……もう、凄いの一言しか出ないな……」


「隊長、レナが関わっているのなら、たぶん大丈夫でしょう。中途半端な仕事はしない性格ですから……問題はやりすぎる面がある事ですが……」


 <Gディバイド>はレナ・メドスが初めて主となって開発したオービタルトルーパーであり、『シルエット』の最新技術が盛り込まれた機体である。

 非常に高性能な機体なのだが、問題は性能を追求しすぎたため、まともに扱えるパイロットがいなかった事である。

 紆余曲折を得て、ユウがパイロットとなり何とか扱えたため、実質彼の専用機となっている。

 今でこそ何の支障もなく扱えてはいるが、最初はそのパイロットの生命を無視した機動性に苦戦させられた。

 そういう〝やりすぎ感〟が否めない彼女が関わった兵器故に、破壊力に関しては心配はいらなそうであった。

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