三人の夜話会

ロッドユール

第1話 夜話会

「夜話会?」

 真理と未希が、咲を見る。

「そう、私たち三人、せっかく知り合ったんだし」

 咲が笑顔で二人を見返す。

「何?夜話会って」

 真理が訊いた。

「かんたん。お話をするの」

「お話?」

「うん、お話」

「お話って・・、どんな?」

「なんでもいいのよ。あるでしょ。みんなそれぞれ。なんか、いろいろ。例えば、私の学校でこんな怪談話があったとかさ。こんな奇妙な体験したとかさ。あるんだよ。けっこう、人それぞれさ。あたしたちも十九年も生きてきたわけだし」

「なんでもいいの?」

「うん、なんでもいいの。自分では大したことないって思ってる話でも、人が聞いたら、へぇ~ってことって結構あるんだ」

「ふぅ~ん」

 真理と未希は顔を見合わせた。

「ほんとなんでもいいんだよ」

「う~ん」

 そう言われても、いきなり他人に話をするなんて初めての経験で二人は戸惑った。

「私の田舎では、よくやるんだ」

「へぇ~、田舎の風習としてあるんだ。それがまず驚きな話だね」

 真理が驚き、隣りの未希を見る。すると未希も真理を見て頷く。

「でも、おもしろそうだね」

 真理が再び咲を見た。

「でしょ」

 咲がそれに笑顔を返す。

「さあ、電気を消して」

「電気消すの」

 真理がまた驚く。

「うん、私の町では電気を消してろうそくを一本真ん中に立てるの。町ごとに細かく違うの」

「町単位でやってるの」

「うん、そうだよ」

 咲は当たり前のように言う。

「へぇ~、ローカルな催しってのは、いろいろあるもんだね」

 真理が感心して、未希を見ると、未希も大きく頷いていた。

「さっ、始めましょう」

 咲が言った。

「うん」

 それに二人が頷く。

 三人はこの春から同じ大学の、同じ寮の部屋で暮らすことになり、明日は日曜日ということもあり、一緒に夜更かししていた。 

「なんか怪談話するみたいだね」

 電気を消し、豆電球の小さなオレンジの明かりになると、真理が少し興奮気味に言った。

「そして毛布をかぶる」

 咲が言った。

「う~ん、なんか演出がいい感じだね」

 真理が楽しそうに毛布をかぶりながら言った。

「あっ」

 真理が、その時突然被りかけていた毛布を跳ね除け、大きく叫んだ。

「わっ、びっくりした」

 咲と未希は驚き同時に体をのけぞらせた。そして、そんな真理を目を剥いて見つめる。

「そうだ、ろうそくあったんだ。ママが、なんかあった時のためにって、荷物に持たせてくれたんだった」

 真理は自分のバッグをガサゴソとやりだした。咲と未希の二人はその後ろ姿を見つめる。

「あった」

 しばらくして、真理が突き出した右手には大きな和ろうそくが握られていた。

「お、大きいね・・💧 」

 未希が困惑気味に呟く。

「う、うん・・💧 」

 咲も困惑気味に頷く。真理の取り出した和ろうそくは子どもの腕ほどもあった。

「さあ、始めましょ」

「う、うん・・」

 三人の真ん中にその大きな和ろうそくを立て、火をつけると咲は部屋の電気を再び消した。三人はろうそくを真ん中にして、等間隔に顔を突き合わせるようにうつ伏せに寝転がると、毛布を被った。

「順番はどうするの?」

 真理が訊く。

「サイコロ」

「サイコロ?」

「うん、こんなこともあろうかとちゃんと持ってきたんだよね。エッヘン」

 咲が胸を張るようなしぐさをする。

「ろうそくは忘れてたよね」

 そこに真理が鋭く突っ込みを入れる。

「うん、それが私なんだよね」

 それに対し、素直に咲は舌を出し笑った。

「じゃあ、1と2が出たら私、3と4が出たら真理、5と6が出たら未希ね」

「うん」

 真理と未希はうなずいた。

「じゃあ、行くね」

「うん」

 真理と未希が同時に答えると、咲はサイコロを投げた。咲が投げたサイコロは毛の短い絨毯の上をコロコロと小気味よく転がっっていく。

「あっ、1だ」

 三人が同時に言った。

「咲からだ」

 真理と未希が咲を見る。

「じゃあ、みんな初めてだし、この夜話会の話をするね」

「うん」

 真理と未希は同時に頷いた。

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