第5話 とある勇者の悲劇

勇者 ユウヤ 視点


俺の名前はユウヤだ。


高校のオカルト研究部の部室で、部員5人と悪魔召喚の儀式を試みたところ、魔法陣が光り出し逆に勇者召喚で知らない場所に居た。


そして、俺の目の前に王冠を被り赤いマントを付けた太った爺さんが玉座に座っているから王様だと思う。


「おお!!来たか勇者よ。」


爺さんはにこやかに話しかけてくる。

俺はとりあえず膝まずき頭を下げて爺さんから声を掛けられるのを待った。


小説で位の高い人から声をかけられるのがマナーだと書いているのを見た事があった。

ここは待つのがいいだろう。


「ふむ、自分の立場をわきまえておるようだのう。」


爺さんは少し驚いたように言っているのがわかった。

まぁ、普通は状況分からず無礼な行動に出るからなぁ。


「貴様、名はなんと申す。発言を許可する。」


爺さんは今度は偉そうに名前を聞いてきた。

態度がコロコロ変わるな爺さん。


「はっ!ユウヤと申します。」


俺はあえて苗字を名乗らなかった。

こういう世界のお決まりで、契約魔法とかで道具にされる可能性があったからだ。

今は情報収集と生きる術を得ることが重要だ。


「我々は魔族達に襲撃され、多くの土地を奪われた。貴様には魔族を倒し、奴らに支配された土地を取り返して貰いたい。そもそもこの世界は我々の祖先が・・・・」


爺さんが言うには魔族を殺して土地を取り返してくれば褒美を与えるということだ。

長い自慢話を聞き流しつつ次の行動を考えた。


長い話が終わり爺さんが何か必要な物はあるか?と聞いてきたので、戦う技能と魔法の使い方を知りたいと言うと爺さんが騎士団長と筆頭魔導士に教えられる事になった。


後から聞いた話だが俺を召喚する為に、他国の勇者や鑑定持ちの商人や呪術士など多くの優秀な人材を生贄にしたようだ。

そのお陰なのか俺は一ヶ月経たないうちに生贄された奴らの技能を身につけ超人になった。


特に俺オリジナルの奴隷契約のコンボがお気に入りだ。

それで国中にいる猛者達を奴隷にした。やり方は簡単だ。

まず分身体を作り出す。その分身体に呪印を仕込んで近づく。

分身体には気配も魔力を最低にしているので警戒はするけど、相手は攻撃出来ない状況だ。そしたら射程内まで進み発動させ相手に呪印を付ける。

呪印が発動したら、全身に痛みと共に呪印が巡り相手の力を封じる。


あとは檻で相手の動きを奪い、心が折れるまで拷問し奴隷契約をする。

相手の了承を得ないと奴隷契約が出来ないのが面倒だが、その過程も楽しいので駒を手に入れる苦労として必要な労働だと思っている。


次の獲物を探していると魔力感知に引っかかるヤツがいた。


姿は見えないがそこを鑑定すると女神と表示された。


女神を奴隷に出来たら最高だなぁ。


よし、呪印を女神用に改良して試すかな?

失敗したら逃げればいいし。


俺は軽い考えで作戦が練った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今、俺は国王の爺さんと遠征について話している。

こういうエライ人と話していると気になって野次馬のように覗くからだ。


予想通り事前に出していた分身体が女神を見つけたようだ。

後は俺が魔力を出して女神を釘付けにして分身体で呪印を埋め込んで、楽しい楽しい契約会が始まるはずだった。


油断していた女神に呪印を打ち込み、魔法で檻を出し拘束までした。

なのに、俺本体が向かうまでに檻ごと消えやがった。


魔力感知、鑑定、呪印の繋がりでも追跡を試みたがわからなかった。


仕方ないので俺は忘れることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それから5年経ち、俺は勇者教という組織を立ち上げた。

世界中にいる勇者を集め、平和を守る正義の集団だ。

俺達はお布施が多く納める善良な国の味方だ。今では俺たちが勇者とわかると崇めるようになった。

 

2年前くらいに俺のオカルト研究部の部員3人が別の国で召喚されたことを知った。


他の2人については分からなかった。

まだ召喚されてなのか、それとも死んだかか、部長としては探さないとなぁ。


今、俺は他の勇者と話し合いをしている。

勇者は俺たちと同じ世界から呼び出されているらしく人間国の半数は勇者を所有しているらしい。

ここで話し合っている理由は魔族領に攻め入る戦力が整ったということで段取りの最終確認を行っている。


全く、爺さんに奪い返せと言われた土地を調べたら8割が魔族領じゃねぇか。

しかも、ご丁寧に人間領の境界線には分厚い壁が在るみたいだ。


爺さんに聞いたら、壁は知らなかったみたいだし、奪われた土地は何処だと地図を見せてもこれ全てだと魔族領全域を指した。

ボケているんじゃね?この国と隣接してねぇじゃん。

という訳で領地奪還のつもりが世界征服に変わったので大量の戦力を集める羽目になったわけだ。

 

お陰で5年も周辺国の吸収や戦力集めに費やした。


さて、作戦の段取りとして、境界線上の壁は特殊らしく一部壊してもすぐに修復されるらしく壊した入るのは不可能らしい。

だが、壁の両端だけは魔族領に侵入は可能みたいなので、俺たちはここから近い西の入り口から進む事となった。


会議も大詰めを迎え解散が目前となったとき、俺に異変が起きた。

最初はプチっと何か紐が切れた感覚があった。

すぐに気にならなくなったのでほっとくと、次に身体が後ろに引っ張られた。

丈夫な椅子に座っているので倒れる事はないが、側から見たら上向いて遊んでいるように見えるだろう。

だが、この体勢から動けないのだ。


キュポン!?



その場にいた人物が全員が聞こえるほど大きな音が鳴り響いた。


その瞬間、俺の身体の何かが消える感覚が襲って来た。

その感覚が次第に強くなり、目に見えて俺の身体が衰えている事がわかる。

皮膚は水分が無くなりカサつき、腕は細くなり木の棒に見え、髪は白髪になったと思ったら抜けた大量にだ。


その光景を見ていて勇者達は驚愕した顔で俺を見ていた。

そんな中、部員の1人の真里ちゃんが俺に近づこうとしていた。

だが、同じ部員の荒垣に危険だから待てと止められていた。

いや、助けろよ。


俺は助かりたくて、掠れ声で勇者達に命令をした。


「俺に....魔力を....くれ。」


それを聞いて勇者達は渋っていたが、部員達が必死に説得したことでなんとか分けてもらえることになった。


いざ、魔力注入になった時には俺の魔力は空で意識が無くなる寸前だった。


勇者達が魔力を注入し始めたのを見届けて俺の意識は落ちた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺が目を開けると俺の部屋だった。

お布施が貰えるようになって世界中の一級品を集めた自慢の部屋だ。


俺が起き上がろうとするが身体が動かなかった。


俺が不安になっていると、真里ちゃんと荒垣と部員の野木沢が入って来た。


3人とも顔は真っ青だったが、俺を見て落ち着いたようだった。


「あが...」


俺がどうなったと聞こうとするが顔も動かなかった。


「部長、これを付けて下さい。」


と首輪を取り付けた。


なんだこれはと思うと、首輪から光が出て空間にスクリーンが現れ、ナンダコレハと表示された。


「これは喉を潰された捕虜から情報を聞き出す魔導具っす。

部長の心が丸裸になるっすけど、しょうがないと思って諦めて欲しいっす。」


野木沢が暗い表情で言った。


「部長、ご自身の状況とあの後のどちらを聞きたいっすか?」


俺は迷わず、カラダと表示した。


野木沢と荒垣は部屋の大きな鏡を俺の目の前に来るように持った。

そこに写る俺は、俺の知る俺ではなかった。

鏡に映る俺はミイラのように皮膚は薄く、骨が浮き出ていて、知らない人が見れば死んでいるように見えるだろう。


つまり俺は生きた屍だという事だ。

普通ならここで殺してくれと諦めていただろう。

だがここは魔法世界、きっとエリクサーなどの万能薬があるはずだ。


「万能薬ですか、確かにいくつか存在したようですが、手に入れるのが困難なうえ、その身体の原因も分かっていないので効くかもわからないそうです。」


それでも可能性があるなら探して欲しい。


「わかりました。数人残っている勇者に依頼しますね。」


ん?数人残っている?

勇者は30人は居たはずだがどういうことだ?


「それは、次で話すつもりだったすけど、部長を助ける為に魔力注入した勇者全員が魔力欠損症で倒れたっす。

彼ら意識は戻っては来たものの、魔力は回復せず原住民より弱くなったそうっすよ。

俺らも魔力注入するつもりだったすけど、荒垣部長に止められて注入する振りをしたっす。」


まさか勇者を大量に失うとは思わなかった。


「あの状況が尋常じゃなかったのからな。無駄に犠牲を増やしたくなかったのだ。

実際お前の駒達は国中で干からびて死んでたようだぞ。

今回の騒動で各国からの苦情が引っ切り無しだ。

今後はお前の代わりに俺が動くことになる。

お前は棺桶で寝てろ。」


俺の地位を荒垣が継ぐ!?棺桶で寝てろ!?

ふざけるな!?


俺が暴れようとしてもスクリーンに文字化けした言葉しか表示されなかった。

ちくしょう。


「部長落ち着いて下さいっスよ。今の部長は死体みたいなもんですから、うっかり埋葬されちゃいますよ。w」


冗談に聞こえないぞ....野木沢!?


「とにかく今は魔族領侵攻は凍結、お前の治療、混乱の沈静化が決定事項ということ覚えておけ。」


荒垣がそう言うと、行くぞと2人を連れて部屋を出て行った。


暇になった俺は天井の装飾の数を数えることしかできなかった。









 

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