第3話 天使が現れた

土地の女神 ルナール視点


私は下級神ルナール。

私は落ちこぼれである。


それは何故か?


それは創造神を父に持つのにその力は下級神止まりだからだ。


兄弟も両親も私を可愛がってくれた。

神族とは仲間意識が強く同族を互いに守る習性がある。

しかし、私と違って他の兄弟は皆揃って上級神であるため常に疎外感があったし嫉妬もあった。



私は同情の中で生活するのが苦でしかなかった。

私が上級神になろうと努力しても『焦らなくてもいいよ』とか『神にも向き不向きがあるから』と私に同情の言葉しかかけられなかった。


それでも私は上級神になることを諦めなかった。

魔法や魔道具作りなど自分の能力と違ってもその知識を吸収していった。

しかし、そんな努力があっても下級神になるところで終わった。


父曰く、『階位とは壁、その壁を乗り越えるなにかがなければ上級神にはならない、お主の兄たちは壁が低く、お主は高かったのであろう』と、そんな言葉が私には運がないのだと言われているようで腹がたった。


そんな怒りと焦りの中で私は同期の女神が私の救いだった。

彼女は数いる武の女神の一人だか身体にコンプレックスがあり、それ故に神々や信者から同情の声が聞かされていた。

互いに同情という刃物が刺される為、2人きりの時は愚痴を言い合い時には手合わせでストレスを発散していた。


いつしか私は彼女に惹かれていた。

いつか告白しようと思っていた。


しかし私はその願いは叶わなかった。


神は常に神界にいるわけではない、創造神様が作った人間界を守る為に降り立ち、世界が壊れないように動くことが其々の神に与えられた仕事である。


私の仕事は大地の魔素を世界中に循環することだ。

世界樹と呼ばれる発生する濃度が濃い魔素を均等に世界に流すのが仕事だ。

魔素は生物にとって大量にあれば毒だが、適切に与えれば身体は丈夫になり、そして魔法が使えるようになる。


私はある日、急激に魔素減った国があることに気付いた。


リンクス聖国


知識族という魔力や身体能力が低いが頭が他の種族より良い種族である。

彼らは自分達を人間と呼び、他種族を亜人や魔族と呼び嫌っているそうだ。

そんな知識族の一つに勇者教という異世界から呼び出した転移者を祀っている国がリンクス聖国だ。


詳しくはわからないが神々から加護を受け伝説の魔獣を討伐したとか、魔族から国を守ったとか、伝説やら最強やら何かと話しを大きくしたり嘘だったり胡散臭い宗教だ。


だが胡散臭いくても調査をして上級神に報告して対応を考えなければならない。

それも私の仕事だから。


リンクス聖国に潜入は簡単だった。

魔素が消え、国を守る結界どころか兵士も動けない状態なのだ。

身を隠す魔法を掛けて王城の中まで進んだ。


玉座の間に着くと玉座に座る老人と中級神並みの魔力を持った青年が話していた。


私は直感的でここに居てはまずいと思い離れようとした。


すると後ろから、

「女神様は覗きが趣味なの?」


振り向くと先程、老人と話していた青年が私の肩に手を置き笑いながら話しかけて来た。

私は青年に触れられたところから異物が入れられる感覚があった。

私はすぐに青年から距離を取り触られた場所を確認すると、そこには黒い文字が浮かび上がっていた。

私はそこで呪印だと気づいた。


「グッ⁉︎」


そして痛みとなって身体に広がってきた。


呪印は呪術師という職業が使う魔法で、文字で相手の魔力を縛り自由を縛る。

神であっても魔力はある為、呪印は対神には有効である。


「こんな簡単にうまくいくとは思ってなかったよ。」

青年はパチンと指を鳴らすと黒い檻が現れ私の周りで組み上がっていった。


おそらく、前もって用意していた魔術だろう。

私がここにいた事は最初から気付いていたと考えるべきであろう。


「女神様、今後俺の奴隷として働いて下さいね。」

青年は満足した顔すると私の手足に鎖付きの枷がつけられて動けなくなった。


青年がゆっくりと笑顔で近づいてくる。

私を青年を思いっきり睨め付け、

「神を舐めるな‼︎」と、私は大声で青年を威嚇した。


すると私の周りが光出した。


私は呪印で身体が痛み始めてからずっと魔法を構築していた。

それは転移魔法である。

青年が何か言う前に私は檻ごと消えた。


気がつくと私は暗い空間にいた。

転移は成功したがミスった。

転移する座標を間違えたようだ。

その為、私は通称、虚無の世界にいた。


虚無の世界は世界の始まりであり終わりである。

父はそう言った。


知識書では、知識や概念など様々なモノがここに集まり、ここで消えると言われている。

私は一度ここに来たことがある。

それは、初めて転移魔法を使ったときだ。

あの時は父が近くに居て、転移で引っ張り出してくれた為すぐに助かった。

それ以来、術式と座標の確認は時間を掛けてしていた。


だが今回はそんな余裕もなかった。

もし、あの時に転移をせず、戦っていたら呪印で力を封じられ負け、奴隷契約をさせられ飼い殺されていただろう。


しかし今の状況も悪い、呪印で力を抑えられ手足は鎖で動けない。


そして神は寿命が無く、ゼロの世界には時の概念が存在しないので私は朽ちることもない。

つまり、詰みである。

ここから出れず、動くこともできない。


私はそこにいるだけの存在になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は昔の出来事を夢で見ていたようだ。


私は何年ここにいるのか?


私は毎日、頭の中で魔法の開発をして時間を潰していた。疲れたら寝て、起きたら魔法の開発をして時々家族や彼女の事を考えていた。


最初は呪解を目指し研究をしていたが、進行を遅らせる事が出来たが呪解までには至らなかった。


さて、今日はどの魔法の研究をしようかと考えていると檻の外で見覚えがある魔法陣が見えた。


それは私の守護獣のタダルにあげた魔道具が出す魔法陣だと気づいた。


ドサッ!?


何かモノが出てきたようだ。

大きさ的にタダルではない。


魔道具はあの子が危険な時に原因を最果ての地など遠くに転移させる魔法だ。

それが何故か私のところに来ているのだ。


しかも今の私は動けず何も出来ない状態なのにだ。

そんなことを考えているとゴキュゴキュと音が聞こえて来た。


あの子何送って来たの!?


私は恐怖でパニックになりながらあの子を恨んでると、パリンと世界が割れ白い世界になった。


「えっ⁉︎」


光がない空間なのに明るくなったのだ。その光景に呆然としていると何故か赤子が居た。


赤子も私に気づいたらしくハイハイで近づいてくる。

私は警戒はしていた。

だって産まれて間もない赤子が目を開いてハイハイしているのだ。


女神の私でもおかしいくらいわかる。

しかし長い間、誰とも話さなかった為に警戒心より好奇心が勝った。

「おいで。」と言ってしまった。

と言っても手足が鎖で繋がれている為抱くことも出来ない。

私のバカー!!


すると赤子は私の鎖に近づき口を付けゴキュゴキュ飲み始めた。

唖然とする私を余所に鎖と繋がっている檻が透明になり砕けた。


パキン!?


へっ?


私は思わず変な声が出てしまったが、すぐに歓喜溢れて赤子を愛しく感じた。


私は動けるようになった身体で赤子を抱いた。


赤子は私の肩に吸い付いた。

ゴキュゴキュと立てる音を聞き、私も飲まれるのかと受け入れることにして赤子の頭を撫でた。


だって消えるだけの存在に成り下がった私だものこの子の養分になるのも悪くないと思い始めた。


しかし、いつまで経っても力が吸われる感覚はなかった。それどころか呪印で押さえてつけられていた力が戻ってくる感覚がした。

腕を見ると呪印が薄く消えていき身体の痛みも消えていった。


しかし赤子をまだゴキュゴキュと何かを飲んでいた。

私は訳が分からず赤子を抱き頭をさらに撫でた。


するとキュポンという音がしたが相変わらずゴキュゴキュと飲んでいた。

最後にぷはぁという可愛い声が聞こえると赤子は口を肩から離し私に笑顔を向けていた。


すると私の中に愛情が湧き上がった。

神族ではないのにとてもとても愛しく感じた。


私は自然とこの言葉を口にした。

「来てくれてありがとう。助けてくれてありがとう。私はあなたを愛したい、だから私の子供になって欲しいの?」


赤子は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。


そして眩しい光を出した。

目を開けると抱いてた赤子は居なかった。


「赤ちゃんどこいったの⁉︎」


赤子が消えた恐怖と心配で辺りを見回した。

するとお腹からトントンと音が聞こえた。

お腹を触るとあの子がいる、そう思えてホッとした。


私は少し時間が経って、これからのことを考えてた。

まずはこの虚無の世界からの脱出である。

脱出不可能と思ったが、この子が虚無の世界を食い散らかしたこととタダルが使った魔道具の繋がりとこの子が私にくれる魔力のお陰で出れそうだ。


次に心配なのが、あの青年とリンクス聖国だ。

この子が私の呪印を消してくれたからすぐには見つからないはずだ。


あとは私が魔獣の森に住めば、もしあの人達が気付いても手が出せないはずだ。

魔獣の森は魔導族や獣人族側の土地に囲われており、知識族の土地から遠い。

それに魔力が豊富なので魔法切れの心配もない。

それにいざとなれば魔獣の森なら母の力も借りられる。


私は内心わくわくしながら術式を起動させ、虚無の世界から脱出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る