第46話 きみの力が欲しい

 びびった。まさかテスラが魔法を使えたとは思わなかった。っていうか、本人は苦手だとか言ってるけど、これってかなりの才能だよな。魔力が桁外れ。肉体も相まって、戦闘力だけなら相当なものだぞ。これなら、スピネイルも――。


「人間風情が! 魔王の瞳の力を侮るなよ!」


 スピネイルの胸部にある魔王の瞳が輝いた。すると、周囲に発生していた重力が消える。


「む……これは、どういうことだ?」と、困惑するテスラ。


 いったいどうしたのだろうか? 魔王の残骸には、それぞれ秘められた魔力があるとか聞いたことがある。もしかして、魔法をかき消す力があるとか?


「この私に、奥の手を見せたのが運の尽きだ!」


 大地が隆起する。現れたのは、さっきぶっ潰した魔物たち? いや、土を使ったダミーがわらわらと湧き上がってくる。っていうか、これって俺の魔法じゃねえか。


「これが、魔王の瞳の力!」


 なるほど。『見た』魔法をコピーする能力か。それで、テスラの重力を相殺するように反重力を起こした。そして、俺の土魔法を真似して、100近い魔物を再現した。


「うん。けど、下手くそだな。色ついてねえし」


 俺の場合だと余裕があるから、土中の鉄分や砂、土、結晶などを使って色まで再現する。なんだったら、質感だって再現する。けど、スピネイルにはそこまでの余裕がなかったようだ。


「い、色など関係ないわッ!」


 ならばと、俺も大地魔法を使用。同じ数の砂の魔物を出現させる。こっちはちゃんと色も付けてやる。俺の方が強そうだ。


「「「「グァアァァァオオオオ!」」」」


 そして演技力。吠えたりさせるのも、声帯パーツをきちんと再現している証拠なのだ。まあ、数を増やせば増やすほど、操作に意識を割かれてしまうから大変だ。俺は慣れてるけど。いかに魔王の瞳でコピーしたところで、魔力と器用さは所詮スピネイルである。いや、これを再現するだけでも凄いんだけどさ。


「や、やれ! とにかく倒せ!」


 魔物を象った土が、一斉に戦いを始める。まるで怪獣大戦争だ。うん、俺の召喚した魔物の方が強いけど。終わるまで時間がかかりそうなので、俺はさらに900体ほど出現させる。


「ななななななッ!」


「おまえも出現させたらどうだ? 真似できるんだろ?」


 少し嫌味だったかもしれない。これだけの魔物をつくったら、さすがに魔力が枯渇してしまうだろう。


「う、ぐ……真似、できる――かああぁぁあッ」


 スピネイルが、直接襲いかかってくる。たしかに早い。かなりの手練れだ。でも、次の瞬間スピネイルが消えた。いや、正確には派手に吹っ飛んだ。あまりに早く吹っ飛んだので、消えたように見えた。目で追うのがやっとだった。


「殴り合いなら、私の得意分野だ」


 テスラの拳一閃。相変わらずお強いこと。スピネイルは、漆黒の魔王城へと突っ込んでいった。まるで大砲でも撃ち込んだかのように。


「やりました?」


「あれぐらいでは死なんだろう」


「じゃあ、あとは俺がやります。テスラ様は休んでいていいですよ。ボロボロじゃないですか」


「ふん。ボロボロなのは服だけだ」


「ならば、テスラ様がやりますか? あまり無理はしないでくださいよ」


「――いや、おまえの力を借りたい。頼みがあるのだ」


 意外だった。彼女のことだから、手を出すなとか言ってくると思ってたのに――。


          ☆


 ――許さん――。


 スピネイル・クラージュは選ばれし人間だ。世界最高の魔物操作魔法を使える大魔法使い。やるべき使命。果たすべき運命がある。国王陛下が表の王なら、スピネイルは裏の王だ。魔物という忌むべき存在を支配し、魔王の残骸をも支配下に置くことができる。唯一、人間でありながら魔物を統べることができる。この力で、国王陛下のお役に立つのだ。


 選ばれし人間には使命がある。与えられた力で、世界を平和に導く。テスラのように才能のないゲスが、努力だけでのし上がろうとするのは許せない。それは世界に対する冒涜である。


「テスラァアァァァァッ! リィィィィィクッ!」


 スピネイルの崇高な志を、あのふたりに邪魔された。もう許さない。あのふたりは殺す!


 城の中まで吹っ飛ばされたスピネイルは、天井を睨むと、ぶち抜くように跳躍した。幾層にもなるそれらを貫き、屋外へと出る。そして、屋根の上に着地すると、最後の封印を解放する。


 ――魔王の残骸、最終形態。


 スピネイルは、まだ余力を残していた。魔王の残骸の力をすべて解放してしまえば、自我が薄れる。下手をすれば異形から元に戻れなくなる可能性だってある。だが、知ったことか。あのふたりは異物だ。このラシュフォールという国にあるゴミ。放っておいたら、国がメチャクチャにされる。ソレを止めるのは――スピネイル・クラージュしかいない。これは使命だ。裏の王になりうるスピネイルの使命――。


「グウァアアァアオアアアッァァッ!」


 雄叫びを上げ、能力を解放する。全身の筋肉が隆起し、身体がさらに膨張していく。十メートルはあろう禍々しき怪物。翼が出現し、手足の爪が鋭く伸びる。肩から茨の如きトゲが出現。全身に数え切れないほどの瞳が出現する。魔力がみなぎってくる。


「ククッ! フハハハハハ! コレナラ! コレナラアイツラヲ――」


 その時だった。スピネイルは、上空にある『巨大な物体』に影を落とされていることに気づく。


「ナ、ナニアレ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る