一杯の酒

 一月三日。

 年末年始も特に休み無く仕事をしようやく定休が回ってきたのでワンカップ片手に温い正月番組を眺める。

 知らないお笑い芸人が知らない芸を披露して気がつく世俗との乖離。そして思い出す昨年も同じ事を考えていたなという記憶。というよりここ十年くらいずっとそんな感じだ。いつの間にか聞かなくなったラララライだの当たり前だのラッスンゴレライだのとったフレーズはどこへ消えたのか。消耗品じゃないのだからもう少し長く使ってほしいものだ。


 しかし、一瞬とはいえ芸人は当たれば輝けるが、俺のような底辺の人間はそうもいかず、ずっと這いつくばって搾取され続けなければならないと考えると、酷く落ち込む。昔、あれほど侮辱していた契約社員という立場となってしまった今の自分を情けなく思う。


 ワンカップが不味くなった。思えばこの瓶に入って売られている酒も、若い頃は軽蔑の対象だった。だが飲んでみると意外といける。馬鹿にしたものじゃないし、この値段で飲める酒を売れる企業努力には頭が下がる。


 そう、ワンカップは凄いのだ。ともすれば、契約社員の俺も、満更捨てたもんじゃないかもしれない。そう思っておこう。新年早々景気の悪い話はなしだ。明るく、希望を持って、今年の初めを酔っていこう。


 でも、今年こそ、安定した職に……



 いかんいかん。

 飲もう飲もう。

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