継承アリス
スエテナター
前編 新たな継承者
第1章 裕次郎の死
第1話 訃報
裕次郎が息を引き取ったと聞いて私は慟哭した。こうなることは二年前からはっきりと決まっていて、いつこの瞬間が来てもいいように頭の中で何度もシミュレーションをした。裕次郎を失った後の喪失感も私なりに想像していたけれど、いざその瞬間が来てみると、底なしに深く心を抉られた。
裕次郎がいなくなった。私の目の前から消えた。
思った以上に私は動揺した。裕次郎を責めようとする黒い感情が湧き上がり、なぜ、どうしてと頭の中でぐるぐると疑問が回った。
私は裕次郎の選択を受け入れたはずだ。アリスの付き人になり、残りわずかの人生となっていた彼の選択を理解していたはずだ。それなのに私は今、裕次郎の死を責めている。
裕次郎は優しい人だった。私のことを大切に思ってくれていた。でも、私はそんな裕次郎に相応しい人間だったのだろうか。いつか嫌われて拒絶されそうで怖かった。
結局裕次郎は最後の最後まで私を大切にしてくれた。私の心が喪失感に耐え切れなくなるくらい、大切にしてくれた。拒絶されたことなんて一度もなかった。
もう一度、会いたい。
裕次郎はどこへ行ってしまったの。
ずっとそばにいてくれたのに。
私はスマホを開いた。真夜中の三時だった。
裕次郎の死を伝えてくれた拓真君のことが気掛かりだった。
裕次郎の後を継いだ子だから、二年後、拓真君も裕次郎と同じようにこの世を去ってしまう。自分が種を呑ませる、少女アリスとともに。
訃報のショックからなかなか返信ができなかったけれど、涙が引いたのを見計らって、私はメッセージを打った。
『教えてくれてありがとう。まだ信じられない。』
送信ボタンを押すと拓真君もまだ起きていたようで、すぐに既読のマークがついた。
『僕もです。信じられません。』
早い返事だった。そのメッセージに続き、死に際の裕次郎の様子も教えてくれた。
『種熱でどんどん体温が上がって、数時間で四十度を越えました。酷くなっていく一方だったので病院に運ばれましたが、そのまま息を引き取りました。屋敷では裕次郎さんのアリスもほとんど同じ時間に亡くなりました。』
少女アリスの付き人は、アリスに死の種を呑ませた罪を受け入れ、その少女とともに死期を迎える。裕次郎もある一人の少女に種を呑ませ、彼女をアリスという名の人形に仕立て、その付き人になった。
アリスとなった少女は種を呑んでから二年が経つと、瞳から新しい種を落とす。そして生涯の役目を終え、付き人とともにこの世を去る。そんな習わしがあるのだった。
どの少女も種を差し出されると与えられた運命を疑いなく受け入れ、その種を呑むと死んでしまうことも分かっていて、種を呑むのだそうだ。アリスになった後は新しい種が瞳から零れ落ちるのを待てばいい。運命をともにする付き人もいるので孤独に苛まれることもない。残りの二年の人生を、静かに生きていく。
拓真君は裕次郎のアリスが生んだ種を引き継ぎ、新たな付き人になろうとしていた。
『明日、そっちに行ってもいいかな。』
そうメッセージを送ると、
『大丈夫ですよ。待ってます。』
と返事が来た。
こんなに生命を冒涜する理不尽な死があるだろうか。
私はスマホを置いてベッドに倒れた。
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