閑話 対策を強く求める!(カーティ視点)
「ですから、緊急に対策を講じることを求めます!」
カテバルが、ずらりと並ぶ面々を前に力説すれば、困惑した空気がざわりと揺れた。
「カーティさんも随分と必死ですね」
「まぁ、姉御に一度殴られたからヤケクソなんだろうけど……」
「後ろ、うるさいぞ」
自分の後ろでこそこそ話を始めたナウロとマイネを叱りつければひとまず二人は黙った。
カテバルたちは、緊急の御前会議に出席している。城の会議室に、王や大臣たちなど国の主要人物たちを一同に集めて貰った。
かつて自分が務めていた第一騎士団長もいる。副官に当たる男で、後を任せられるのは彼しかいないと見込んだ。その男の前で恥も外聞もなく、滔々と現状を訴える。
なんと滑稽かと思わなくもないが、なりふり構っていられない。
あの勇者は心底、ヤバイ。
「とにかく、義兄を彼女が戦闘している近くに立ち入らないように策を検討していただきたい」
「あー、そうはいうが、今一つ状況がわからないんだが…勇者が戦わなくなるというのは、つまり怖がりなのかな?」
勇者は基本的に労務大臣の管轄になる。そのため、一番に口を開いたのも彼だ。
「随分と小さい女の子でしたから、まぁそういうこともあるかもしれませんな」
はっはっはと柔和な顔を更に和らげて観光大臣が頷けば、隣の外務大臣も追従する。
「なるほど。つまり、強がっているけれど身内が近くにいると甘えてしまうということか」
「そんな可愛いもんじゃない!」
のんびりとした雰囲気を叩き壊すように、カテバルは声を荒げた。
その場の面々がびくりとするほどに。
「それまでは虫けらを退治するように淡々と戦闘をしていたんです。力量的にも歴代勇者の中でも群を抜いて最強でしょう。実力はあるんです。ただ、彼女の義兄の前では大人しいんですよ。か弱いふりをして、一切戦おうとしないんです!」
「やはり、状況がよくわからないが……」
なぜわからないんだと怒鳴り付けたいのを必死で堪える。
お前たちも沼地に向かって殴られてみろ。絶望しか感じない筈だ。実際、カテバルは絶望した。
仲間の剣士を殴る勇者がどこにいるというのか!
リザードマンはほぼ、ミーニャに倒されていたから襲われて瀕死にはならなかったが、沼地で溺れかけた恐怖は深い憎悪となって腹の底で渦巻いている。
絶対に自分を殴り飛ばしたことを後悔させてやると心に誓う。
「とりあえず、状況の把握は置いておいて、どういう対策がとれるのか検討してみてはいかがでしょう?」
第一騎士団長がおずおずと提案した。
勢いがないのが残念だが、提案の内容には賛同する。さすがは自分が見込んだ男だ。
持つべきものはかつての部下である。
カデバルはきりりと表情を引き締めた。
「私の提案としましては、騎士団総動員による義兄の監視と隔離を要請いたします」
「できるかああぁっ!」
大臣一同の総ツッコミがその場にこだますのだった。
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