第12話 本日、臨時休業!
ミーニャが城から戻ってきて数日が経った朝、自宅を尋ねてきた者がいた。
「あ、姉御! お仕事が入ったんですよ、初仕事ですよ!」
玄関を開けた途端に飛び込んできた少年の声に、台所にいたアインラハトは慌てて玄関に向かう。ミーニャを馬鹿にした魔法士の少年の話はマイネから聞いている。少年の知り合いなど彼以外にいないだろう。だが、随分とウキウキしているのは気のせいだろうか。聞いていた話と違うようだが。
だがまたミーニャに文句を言うなら、きちんと守ってやらなければ。
「ミーニャ、お客さんってこの前話に出てた魔法士の子じゃあ…あれ?」
アインラハトが玄関に顔を出すと、ミーニャの前にはのっぽの黒髪の剣士がいた。
「あ、初めまして、お兄さん。俺はカテバル=ポトリングといいまして、今代勇者パーティの剣士をさせていただいています。ええと、今代勇者さまにお仕事の依頼がありまして」
なぜか冷や汗をかいている。
青い瞳は始終きょろきょろとしているが、どうしたのだろうか。
「え、と。あ、そんなところで立ち話もなんなので、中へどうぞ」
「すみません、このまますぐにでなければならないんです」
「え、朝ごはんも食べていませんよ?」
「でも今から向かわないと間に合わないんです。手違いで依頼が私達のもとに届くのに時間がかかってしまって。聖女さまは先に現場へ向かっているので追いかけていく形になりますし」
「そうですか。じゃあお弁当にするので、道中でも食べてください。どちらまで行かれるんですか?」
「カイデ街道のほうです。途中の平原にリザードマンが現れたとかで」
「リザードマン?! だ、大丈夫なんですか?」
カイデ街道は王都から西に向かう道の一つで、主要都市ダイレルへ通じる街道だ。通行人も多いため、道にモンスターが出れば早急に討伐しなければならない。
だが、そこに現れたのがリザードマンだとなれば話は異なってくる。
カイデ街道は湖沼地帯にあるため、蜥蜴人にはかなり有利な戦場になるのだ。
沼地に逃げ込む前に素早く倒す、もしくは沼から出てくるまでじっと待つかの戦法になるため時間がかかる。しかも彼らの表皮は硬く、剣はなかなか通らない。水辺の戦闘は火系統の魔法は威力が落ちるためほとんど使えないので、雷系の魔法を使うことになるが、沼地がどこまでも広がるので、広範囲の雷攻撃が必要だ。
しかも一部のリザードマンは鱗に帯電できるため、雷撃はもろ刃の剣となる。
つまり、厄介な相手ということだ。
「数はたいしたことがないので、魔法で蹴散らしてやると魔法士が息巻いてましたから安心、安全です。念のため、勇者さまにも同行していただく形になりますね」
「わかりました。ミーニャ、気をつけてな。ちゃんと仲間の言うこと聞くんだぞ、安全なところで大人しくしてるんだからな」
「お義兄ちゃん、リザードマンって何?」
「トカゲの大きいやつだな」
「トカゲのオバケだ!」
「そうだな。オバケかもしれないな」
喜ぶミーニャの頭を優しく撫でると、にこにこと笑う。
彼女は爬虫類は平気だが、蜘蛛やムカデのような足の多い虫を嫌うのだ。相手がトカゲでよかったと胸を撫でおろす。
「では、行きましょうか」
「うん、行ってくるね、お義兄ちゃん」
カテバルと連れ立って、二人は馬車に乗り込んだ。
それを見送って、アインラハトは朝ごはんをお弁当に詰めた。
パンに肉を詰め、卵を挟んだ簡単サンドイッチだ。
「よし、完成だ。おっと、休業の札を表に出しとかないとな」
いそいそと出かける準備をしながら、そうひとりごちるのだった。
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