おっさん、迫られる

 結界障壁の内側には俺とロベルト、そして二重の障壁で守られた立会人のリズしかいないはずだった。

 それなのに今、神官服姿のセシルが堂々とこちらに向かって歩いている。


「セシル……お前どうやってあの結界の壁を越えてきた?」


「えっと……この杖で突いたら穴が空いたんです。あれ、意外と壊れやすいんですね?」


「は? そんな馬鹿な……」


 おいおい、マジかよ……

 魔女が立ち上げた結界障壁が壊れやすいなんてことがあるかよ!


 俺が怪訝な視線をセシルの手元に向けると、杖の魔石がほんのり青く光って見えた。


「そんなことより、レンさん! この決闘、私にも手伝わせてください!」




「「はっ?」」




 図らずも俺とロベルトの声が重なってしまった。

 俺を視線で牽制しつつ、ロベルトは口を開く。


「き、きみは何を言っているんだ!? これは男と男の決闘であって、女の出る幕はない! 危ないから下がっていろ!」


「私は下がりません! だって……レンさんは防具も付けていないのに、ロベルトさんは勇者の鎧に勇者の盾。それには初級魔法だけでなく物理攻撃も跳ね返す術式が編み込まれているはずです。そんなのずるいじゃないですか!」


「うっ、しかし……これは勇者となった俺の手足のような物だから……」


「だから、私がレンさんの手と足となって戦うんです! さあ、レンさん! 私を自由に使ってください!」


 グイッと迫ってくるセシルの背景に、口をあんぐりと開けて放心状態のロベルトの顔が見える。なんだこの状況は!?

  

「ま、まあ……一旦落ち着けよセシル……」


「落ち着いてなんかいられませんよ……。 私……レンさんに、もしものことがあったら……生きていられませんからッ」


 と、なぜか涙目でグイグイ迫られている俺。

 この娘が考えていることは、おっさんの俺にはよく分からん。


 だが、それはそれで好都合。

 こうなったら作戦変更だ。


「よーし、今からお前は俺の手足となってもらうぜ! 後から泣いてもしらねーからな?」


「――――ッ!」


 セシルの顔にぱあっと笑顔の花が咲き、同時に杖も青く光った。

 

 

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