セシルの行方

 窓口でクエスト達成の報告手続きを終えたロベルトは、爽やかな笑顔で振り向き、高らかに宣言する。


「今日はワタシのおごりだ! 酒でも料理でも、好きなだけ注文してくれたまえ! 冒険者も一般市民もギルドの職員も、今日はとことん楽しんでくれ! おい、外にいる街の人々にも伝えてくれ!」


 それを聞いた仲間が外へ出て、群衆に声をかける。

 外ではワーッと歓声が沸き起こり、人々はドアからなだれ込んでくる。


 俺はタイミングを見計らって、そろりと外へ退散しようとしていたのだが、体の小さなフレアを庇いながら人の流れに逆行するのは不可能だった。

 フレアが人に押し潰されることが心配なのではない。

 うっかり機嫌を損ねようものなら、街が吹っ飛ぶ大災害が待ち受けているのだ。

 その結果、俺たちは再び中へと押し戻されていく。


 ドンと誰かの背中にぶつかった。


「おっと、すまねえな」

「おう、大丈夫かおっさん?」


「…………」

「…………」


「うわあぁぁぁあーッ、アンデッドがでたあぁぁぁあー!!」

「しーッ! しーッ! 大声出さねーでくれ!」


 運の悪いことに、相手は元仲間のタンクだった。

 全身を甲冑で固めたガッチガチの男だ。


「あ、あんた魔獣に喰われて死んだんじゃねえのか!?」

「ところがどっこい。生き残っちまったんだなー、これが!」


 俺は眉根を下げて、やれやれという仕草を見せてやった。

 これくらいの嫌みの一つや二つは言ってもバチは当たらないはずだ。


「おい、どうした? そのおっさんは……」

「よう、大将。その節は世話になったな」

「レ、レン!? あんた生きていたのか!」


 ロベルトも来てしまった。

 これはもう腹をくくるしかなさそうだ。


「魔女を討伐したんだってな。おめでとさん!」

「ぐぬぬ……」


 勇者とタンクは苦虫を噛み潰したような顔で睨んできた。

 そりゃそうだ。

 お前らは俺に魔獣の相手を押しつけて、道半ばで退散したんだもんな。

 俺が証言すれば、嘘がバレバレになるもんな。


「まあいいや。どうせ俺はパーティを追放されちまったんだから、お前らが英雄になろうが、嘘を付いた罪で国外退去の処分を受けようが、もう関係ない。ただ、俺の冒険者カードだけは返してくれ!」


「冒険者カード?」


「俺のリュックに入っているはずなんだ。それが無いとギルドとの取引ができねぇーんだよ」


「あんたのリュックは……そういや、森を出たあとはセシルが持っていたなぁ……」


 タンクがアゴに手を当てて言った。


 よかった! セシルも無事に帰って来ているのか!


 だがギルド内を見回してもその姿は見えない。

 神官服は目立つから、いればすぐに目に飛び込んで来るはずなのに。


「セシルはどこだ? おい、ロベルト! まさかセシルの身に……」


「彼女は街へ戻るなり、寄るところがあるからというので、別行動の許可を出している。あんたが心配するようなことは何もない!」


「そうか、なら俺のやるべきことは一つだな」


「もうセシルに構うな! 冒険者カードなら、後で窓口に届けておく!」


「ん? なんで俺がセシルに関わるのを嫌がる? そういえば、俺を追放宣言したときも、セシルが一緒にいたときだったよな……なぜだ?」


 俺は首を傾げた。

 

「レン! いちばいくのー!」


 急にフレアがグイッと俺の手を引いて歩き始める。

 どうやらこいつの興味は、人間の食文化に一択に絞られるらしい。 


 そうこうしているうちに、ギルドの建物内は人でごった返し、飽和状態になったことで返って動きやすくなり、俺たちは堂々と外へ出ることができたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る