初めての調理

 とは言うものの、俺は『魔女の盟約』がある限りフレアから逃げることはできない。だから、何とか折り合いを付けて生きていく方法を探らねばならないのだ。


「まあ……あれだ。ここはひとつ気を落とさずに、また獲物を獲りに行けばいいと思うぞ? 俺がちゃんと魔力制御のレクチャーをしてやるから、次はちゃんと焼いて食おうな?」


 優しくフレアに話しかけてみた。

 つい上から目線の言い方をしてしまうのは、俺がおっさんだから仕方がない。


 フレアが狩りに行っている間に、俺は小枝をせっせと集めて、たき火の準備をする。肉を芯まで火を通すためには調理専用の魔道具があればこんな苦労をしなくて済むのだが、無い物をあれこれ言っても始まらない。

 

 ちょうどたき火の準備が済んだころ、フレアがさっきよりも一回り大きな獲物を担いで戻ってきた。 

 あいつは小柄なくせに、自分の背丈の何倍もの獲物を軽々と持ち上げる怪力の持ち主らしい。筋肉に魔力マナの流れは感じないけれど、人間の魔道士がつかう身体強化魔法とは別次元の魔力が加わっている可能性もあるが。


「んじゃ、まずは焼きやすいように解体するぞ」

「かいたい……??」

「解体をやったことがないのか? じゃあ俺がやるから見ていろ!」


 脚の付け根に短剣を差し込み、胴体から切り離すと、ムラサキ色の血がしたたり落ちる。だが俺は勇者パーティに所属して数々の魔物と戦ってきた百戦錬磨の冒険者。決して血を見るのが苦手なわけではない


「レン……顔色が変なの」

「大丈夫だ!」


 四本の脚を切り離し終えると、次は内臓の除去だ。

 魔獣によっては毒性のある餌を食っていることもあるから、内臓を除去することは調理の基本中の基本だ。

 腹に剣を突き刺し、切込みを入れていく。


「レン……顔色が人間じゃないみたいなの」

「心配な……い……ウエーッ!」


 内臓から親指大の寄生虫がピチャピチャと跳ねながら出てきた。

 あまりにもグロテスクな状況に、俺は倒木の陰まで走ってゲロを吐いた。


「かいたい……わたしに任せるの」

「えっ」

「ウインドカッター!」


 俺が振り向いたときには、魔獣がちょうど良い大きさに分割されてブロック状の肉片となって山盛りになっていた。

 なんか、すごい魔法をさらりと使いやがったぞ?

 骨ごとぶった切った肉ブロックなぞ、俺の知っている解体とは全く違うけれど、これはこれでアリだろう。

 周囲の倒木も一緒に切れてしまったし、俺の命も危なかったことについては目をつぶろう。


「かいたい……これでいいの?」

「ああ、上出来だ。じゃあ次はまきに火を……」


「フレイム!」


「話は最後まで、聞けェェェー!」

 

 苦労して集めた薪は、一瞬にして消し炭となった。

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