エクスプロージョン

「……あんたは一体何者なの?」

「俺はレン。ただの人間だ」

「ただの人間? ふざけないの! ただの人間がそんなことできるわけがないの!」


「そういうお前だって、魔女の血なんぞ数パーセントしか引いていない、ほぼほぼただの人間・・・・・だろうが!」


「――っ」


 俺の言葉にフレアはビクッと肩を動かし、唇を噛んだ。



 ――遙か昔、世界には七人の魔女がいた。


 魔女はその圧倒的な力で魔族と人類を隷属させた。

 やがて彼女らは人間の男と恋に落ち、結ばれた

 魔女の素質は一子相伝。

 子を宿した魔女は、力を失い静かに老いていく。


 世代交代を重ねるにつれ、魔女の血は薄くなる。

 現存する魔女は、例外なく何らかの不具合を抱えている。

 フレアが魔力の制御ができないように――

 


 今思えば俺の母さんが男の俺を産んでしまったことは、不具合の一つだったのかも知れない。


 男の俺には魔女の素質は受け継ぐことができなかった。

 そして俺のせいで母さんは死に、俺はのうのうと生き延びている。


 だが――


 そんな俺にも、存在意義があるのだとしたら―― 



「フレア――ッ! 俺を信じて魔法を放て!」


 初めて俺は魔女の名前を呼んだ。


 ビクッと反応したフレアは、杖を振り上げ――


「காற்று ஆவி, நெருப்பு ஆவி――」

 

 人間には理解不能な、魔女固有の言語での詠唱を始めた。

 不思議なことに『精霊…風…火…大地』と部分的に理解できる単語も混じっているように感じる。

 俺が魔女の子だからなのか、それとも前世の記憶が関係しているのかは分からない。


 フレアの詠唱が始まったとたんに、森の木々はざわめき、鳥たちが一斉に空へ舞い上がる。

 空は轟き、大地は振動し、風が吹き荒れる。


「இந்த ஒரு புனித――」


 フレアの全身が光に包まれ、それが杖の先端に一気に吸い込まれていく。


「――ந்த. エクスプロージョン!!!」


 フレア渾身の大魔法。


 これ、まともに食らったら、俺もろともお前自身も、跡形もなく消し炭になるレベルだろ!


 だが、上等だ! 受けて立ってやる!


変換チェンジ!!」


 杖の先端から四方に炸裂するはずのエネルギーの全てを一方向に収束。

 そう、天空へ向けて解放してやったのだ。


 しかしその衝撃はすさまじく、俺たちの身体は枯れ葉のように上空へと吹き飛ばされてしまった。


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