第38話 作戦会議


「なら決まりね。私達は【奇跡の空】を中心とした今の【奇跡の空】を支える全員でいくわ。それが【奇跡の空】の完全復活に繋がると信じているから。ですから大久保さんと鈴原さんに一つお願いがあります」


「はい?」


「なんでしょう?」


 白雪は一度立ち上がり、深々と二人に対して頭を下げて言う。


「今回二人の姉妹については何も聞かなかった、何も知らなかったと言う事にして頂けませんか? 彼女達は私と違って高校生活があり一般人です。彼女達が望まない間は世間には黙ったままにしてはいただけないでしょうか」


 白雪は二人の高校生活を守ろうとしていた。

 その熱意が届いたのか。


「確かにな。ここで強引に言って【奇跡の空】が辞退となるとそれはそれで本末転倒……だが、これをただで見逃せと言うのもな。いや待てよ……もしここで恩を売っておけば来年以降も協力してくれるかもしれない……」


 大久保さんは腕を組んで一人ブツブツと呪文のように何かを言っている。

 俺は七海をチラッと見るが、七海は大久保さんの答えを待っている。

 鈴原さんも「大久保さん?」と呼んでいるが、中々返事をしてくれない。

 しばらくすると、大久保さんが一度咳ばらいをした。


「わかりました」


「え? 大久保さん」


「ですがこれだけは書かせて下さい。かつて【奇跡の空】の作品のイラストを描いたイラストレーターも今回【奇跡の空】に協力すると。私達もこれが仕事です。この文言だけでもと思いますがいかがでしょう」


 大久保さんは俺と白雪の後ろにいる琴音と亜由美に視線を飛ばす。


「……はい。それだけなら私は構いません」


「私もお姉ちゃんと同じです」


「では二人の許可がおりましたので、交渉成立ですね」


 そして大久保さんは鈴原さんに向かって。


「すぐに各先生に連絡並びに三人の先生による勝負の準備をするぞ。それと記事の内容の文字起こしだ。いいな?」


「はい! これは気合い入れないとですね!」


「……そう言えば、お前【奇跡の空】の大ファンだったな。確かうちの面接の時に志望動機でそんな事を大声で自信満々に言ってきたのを今思い出したよ。今から名刺を渡してしっかりとパイプでも作って今回は無償で利用されてこい。やりがいはかなりあると思うぞ?」


「はい。では住原さんちょっとこっちに来ていただけませんか?」


 こうして俺達の話し合いはようやく終わった。




 翌日の朝。


「それで早速だけどイラスト描くための道具は私の担当が用意してくれるみたい。【奇跡の空】と共作する事になったって言ったら急いで準備していきます! って大喜びだったわ」


 つまり白雪は自分の担当者を言いように使い利用したのだ。

 まぁ俺が言うのはなんだけど、失敗さえしなければ【奇跡の空】と作品を作るってだけで売名行為にはまぁ少しは良い影響を与えるのだろう。少なくとも知名度は上がると思う。

 と俺は昨日早速動いたと思われる疾風新聞の朝刊を見てそう思った。

 その隣でインターネットを見ている亜由美が言う。


「うわー、『【奇跡の空】振った相手に再アタック! これは仕事を利用した逆告白の布石か!?』『本を使ったアタックの新境地!』『やっぱりあの美貌には勝てず、まずは仕事仲間からの仲直り作戦なのか!?』『あの二人が手を組むってことは実は【奇跡の空】も彼女のお願いには負けた! つまり二人は本当は恋人同士!?』等々めっちゃ噂になってるね」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 俺のイメージがぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺は予期せぬ事態に混乱し頭を抱えて発狂した。

 そうだった。

 世間はその話題で今ホットだったんだ……。すっかり忘れてた。。。


 そんな俺を置いて女子だけの作戦会議が始まる。


「とりあえず私と空哲君でシナリオはしっかりとこの二日間で完成させるわ。内容は私が昨日の夜中に作ったこの原稿がメインとなるわ。一応これだけでも作品としての完成度は私なりにはかなり高い。後はここに私の作品にケチしか付けずあそこでわーわーわめいている天才Web小説家様が着色やら肉付け等の細かい事をやってくれると思うわ。それに合わせて琴音と亜由美ちゃんで一枚の表紙だけで構わないわ。イラストお願いね。文字数は四万文字前後。投稿サイトは前に空哲君が使っていた投稿サイトに二日後アップするわ。審査はそれから読みに来てくれたユニークユーザー数、ブックマーク数、評価を点数化して物で決まって制限時間は四十八時間。作品をアップしたら皆はほとんど見守るだけになるけどね。吉野もそれでいいって昨日あの後コンタクトを取って了承してるわ。当然鈴原さんにも勝負の内容場所は伝えて、『手配は任せてください』って許可を頂いているわ」


 七海は簡潔に今の状況を説明する。


「それで私と義妹(いもうと)は空哲君を支えるから小町は琴音と亜由美ちゃんを支えて。私はそれから担当来るから別室でちょくちょく会いながら自分の原稿も進めるわ。何か今なら嬉しくて書けそうだし」


「だからなんで『いもうと』ってあんたに言われないといけないのよ」


「だって私が空哲君と結婚したら住原七海になるのよ。当然でしょ?」


「だからなんで結婚する前提なのよ!」


「それはほらネット上でも今噂されてるし、もしそれが実現したら空哲君が私に愛の告白をするからに決まってるでしょ♡」


「可愛く言わないでよ、気色悪い……」


「失礼ね。半分は冗談よ」


「なによ、文句でもあるの?」


「大有りよ!」


「でも貴女振ったわよね?」


「それでもダメ!!! アンタがお姉ちゃんとか義理でも嫌!」


「貴女我儘もいい加減にしなさいよ? 私だって義理でも貴女を妹に持たないといけないのよ。そこはお互い様でしょ?」


「だから結婚する事を前提に話さないで!」



 …………。


 ………………そして二人の戦いが始まってしまった。



 そんな二人のバカみたいな口喧嘩と未だに一人発狂を続けている男には干渉する気がないのか琴音と亜由美と小町は少し離れた所に別で集まりなおして作戦会議を始めていた。


「……ってなわけで私が表紙と挿絵一枚を作る。んで亜由美が二枚の挿絵を作る。これは育枝から情報を聞き出しながらくうちゃんの作品にあったイラストになるわ。小町は基本的には私と亜由美のカバー。簡単な作業は全部任せる事になると思う」


「わかった。七海先輩は表紙だけの一枚でいいって言ったけどそれじゃやっぱダメだよね。ここはサプライズ形式でくうにぃの作品を全面的に魅力的にしていこ。私久しぶりにワクワクしてるから本気で行くよ」


「わかったわ。必要に合わせて私も七海や育枝ちゃんから住原君がどんな作品を書いてるか聞くね。それにしても同時進行とは……。大丈夫かな?」


「大丈夫ですよ。私達はくうにぃの事を良く知っていますから。それにくうにぃの作品って実はそんなに縛りがないので。ね、お姉ちゃん?」


「そうね。細かい事はとりあえず道具の確認をしてからだね」


 そうして別の場所での会議も一先ず無事に終わった。

 それからお昼ご飯を食べ全員が一斉に動き出した。


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