第一章 嵐前の静けさ

第10話 話題のニュース



「なんじゃこりゃーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 疾風新聞の見出しにて。

『【奇跡の空】が復活? 某作家がその正体を告白!?』というタイトルが世間のいや……ご近所全体を驚きの渦に巻き込んだ今朝俺はマスコミではなく、俺の正体を知っているご近所の奥様達から逃げる為にお隣の幼馴染の家に来ていた。


 四月二十九日。

 白雪を振り、育枝に振られた俺は学校内で俺がかつて話題になったWeb小説家だと言う事がバレた。そしてそんな美味しい話題を年頃の男女が黙っているわけがなく、今SNSで【奇跡の空】がまさかの同じクラスだった、本が友達と言っても良さそうな地味キャラ野郎が実は……!? と言った注目の的になっていたと知ったのは今さっき。

 なんか朝から近所の人が俺の家の周りに集まっているなと思っていると、亜由美から電話が来て、「SNS見た方がいいと思うよ」と言われ確認。俺が昨日色々と死んでいるうちにSNSはあろうことかフィーバー状態。慌てて俺は亜由美に頼み家の裏口からコッソリと出て、幼馴染の家のそれも玄関からではなく、裏口からコッソリと家に上げて貰った。亜由美のご両親とは昔から仲が良いので『ゆっくりして行くといいよ』と言って事情を察してくれた。


 そして今まで私立蓮華高校は特に話題となるような事がなかった。白雪のように作家で学生と言う生徒は始めてではないし、昔はアイドルが学生として在学とか留学生がうちの学校に来る事とかも当たり前だった。だから幼馴染の琴音と亜由美の留学だって生徒達の中ではまぁある意味普通だなぐらいの感覚だったわけだが今回ばかりはどうやら普通だなで終わらせてくれないらしい。


「てか凄いね。学校一の美女を振り、学校一可愛い女に振られた男――【奇跡の空】! って今googleとyahooでも話題のニュースになって、話題の検索ワード第一位だよ。これどうするの?」


 亜由美はスマートフォンの画面を見せつけるようにして座卓の正面に座る俺に言ってきた。どうするもこうするも俺が一番それを聞きたいのだが。てかなんで学校一の美少女と学校一可愛い女は秘匿なのに対し何故俺だけこんなにピンポイントである意味有名人扱いになっているんだ。何かが可笑しい……。そもそも俺にマスコミの知り合いなんていないはずなんだけどな……。


「う~ん……困ったな」


「まぁとりあえず落ち着くまではここにいなよ」


「いいのか?」


「うん。それで少しは心の整理ついた?」


「少しだけ……」


「そっかぁ。なら良かった」


 亜由美はそう言って笑顔を向けてくれた。

 この笑顔に俺は少なからず安心感を覚えた。

 それにしても八畳の亜由美の部屋は若い女の子の部屋と言うよりかはとてもシンプルで実用性を考えられていた。部屋の片隅にウサギのぬいぐるみがあるぐらいで後は特に可愛い系の物はなく、整理整頓された部屋となっていた。一つ気になるのがあるとすれば部屋の片隅に白い加湿器があってそこからラベンダーの香りがすることだ。なんかこうさり気なく女の子の部屋って感じがする所がまた好印象と言うか昔から変わってないと言うか。


 それにしても亜由美近くで見ると、大人びたよな。

 細い身体ではどうしてもダボダボになる一回り大きめのパーカーを来ているのだが背伸びをしたりすると大きな胸の膨らみがなんとなく浮き出てくる。そのなんとなくがまたエロく家では眼鏡を掛けているのだがその赤色の眼鏡とハーフアップにされた髪が亜由美の顔を一段と可愛く見せている。俺はこの辺は詳しくないが、俗に言う小顔効果? とか言う奴が影響している気がする。


「ところで、くうにぃ」


「なんだ? 亜由美」


「ちなみにこの学校一可愛い女って誰?」


 亜由美は首を傾げながら聞いてくる。どうやら短期留学していた為に詳しい情報が欠如しているらしい。だけどこれを言えば何で俺が育枝と気まずい関係になり今もこうして悩んでいるかがバレてしまうかもしれない。いや普通に考えてバレる可能性しかない……。義理とは言え学校一の美女を振って学校一可愛い義妹に振られたって色々アウトだろ。それにな……昨日落ち込んだ俺の心はある解を導き出しそれを安定剤にしてるんだぞ。それは、今なら白雪に癒しを求めれれば甘やかしてこの心の傷を癒してくれるんじゃないかとな……。そして願わくば誠心誠意真正面からもう一度チャンスをくれと懇願すれば初恋が成就し幸せになれるかもしれんと……。つまり俺は告白する前の二人の美女の間で揺れ動く状態に戻ってしまった。我ながら最低だなとは思う。こんなに心が揺れ動いて。だけど初恋を簡単に諦められない俺もいるし、最近自分の中で好きになった相手と結ばれたいって思う俺もいるんだ。てかそもそも相手が悪すぎる。普段なら絶対に振り向いてさえくれない二人が俺の近くにいてくれるんだ。心が多少なりとも動くのは仕方がないことだろう……。


 そして二つの答えが俺の中に生まれた。


 ――初恋はとても甘くて強力な依存性のある毒だと


 ――恋は理屈じゃないと。故に心が先に揺れた方が負けだと


「あれ? くうにぃが答えれないって事は……もしかしていく?」


「…………」


 俺は首を縦に動かして頷く。

 あぁー恥ずかし過ぎる。

 顔を朱色に染める俺を見て、亜由美はゆっくりと近づいて来て下を向く俺の顔を覗き込む。


「いくのこと好きだったの?」


「うん……」


「そっかぁいく可愛いもんね。ならくうにぃの初恋っていくだったの?」


「ぅ……ッ!?」


 あぁーダメだ……。

 バレたくない……。

 でもこの雰囲気言わないとダメだよな……。


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