第4話 勘違い


「……うん」


「なら尚更は話し聞いてあげるわよ? いくちゃんと仲直りしたくないの?」


「そりゃ育枝とは――」


 その時、俺の血圧が急に上昇した。

 育枝とまたあんな風に毎日を楽しく過ごしたい、そう思っただけで俺の心臓が反応する。

 逆を言えばそれだけ落ち込んでいた為に、希望が見えたから。

 そう考えると我ながら結構メンタルボロボロなわけで……。


「ん? どうしたの? 最後まで言わないとわからないんだけど」


「いや、今のなしで……」


「なによ! 昨日久しぶりにいくちゃんに連絡したらそらにぃと色々あって今元気ないからって言われて一方的に電話は切られるしメールは無視されるし。心配だから聞いてあげたら兄妹揃って!」


 琴音は大きくため息を吐いた。

 てかそんなに俺からの告白嫌だったのか。

 だったらなんで育枝……、あんなにいつも俺を勘違いさせるような行動ばかり取ってたんだよ。


「…………」


 琴音は黙る俺を見て冷たい視線を向けてくる。

 いや琴音の事はかなり信用も信頼もしてる。だけどやっぱり俺の中では育枝が一番だったわけで、その育枝を本気で傷つけたと思うと誰かに言って『よし! これで解決!』ってわけには中々いかない。こんなことを思う時点でかなりのバカなのかもしれないが、俺は俺の力で仲直りしないとな、とも思っている。だってそれだけ…………大切な存在だから。最初から誰かの力を借りて『はい! 解決』ってのは何か違う気しかしない。育枝がそれを望むなら俺は受け入れるしそうする。だけど俺からってのは何と言うか……。


「バカだね。兄妹の縁ってそんなにか弱い物なの?」


「え?」


「え? じゃない。ヒントを言うなら血は繋がってなくてもくうちゃんといくちゃんは兄妹。後は自分で考えろ、このバカ兄貴!」


 ――バタンッ!!


 そう言うと琴音が勢いよく窓を閉めて、あろうことかカーテンまで閉められてしまった。


「琴音……」


 こう物事が上手く行っていないときは、全てが上手く行かない。

 今だってせっかく琴音が手を差し伸べてくれたのに、自らそれを拒みあろうことか琴音を怒らせてしまった。感情の制御だけで精一杯のせいで琴音まで傷つけてしまった。これはしばらく誰にも会わない方がいい。もし会えば俺は更に誰かを傷つけてしまうかもしれない。琴音には悪いが後日気持ちの整理がついてからしっかりと謝りに行くことで許してもらう事にする。


「あらあら、お姉ちゃんも素直じゃないな。くうにぃ朝からゴメンね」


 下を向き落ち込んでいると、別の声が窓の外から聞こえてきた。

 顔を上げると、琴音の隣の部屋にいる亜由美だった。

 姉と同じく深い青色の髪で姉が腰下まであるロングヘアーなのに対し亜由美は肩下までのミディアムショートでよくハーフアップにして髪を結んでいる。身長は百五十センチと琴音より四センチ低く、胸は流石姉妹と言えよう。程よく成長しており、歩くと揺れ、服越しでもハッキリわかるぐらいに成長している。琴音とは明確に違うのは亜由美の方が客観的に物事を見れる事からいつも落ち着いており冷静さがあることだ。また女子力が高く、最近の流行り物やファンション、後は甘い物には目がない。


「まぁお姉ちゃんはくうにぃといくの事になると何処か感情的になりやすいから。それで本当はどうしたの?」


 どうやら俺と琴音の会話をずっと聞いていたらしい。


「二人の事が大切だから心配なんだよ。私もいくから連絡が返って来なくて心配してたんだ。それで今日くうにぃに色々と聞こうと思ってたんだけど、まさか二人が当事者だったとは正直驚いたよ……」


 亜由美は俺に気を遣ってか、俺の様子を見ながら慎重に言葉を選びながら俺の心を刺激しないように優しい言葉とトーンで話しかけてくれる。

 俺が悩み困っている時はいつも一歩身を引きながらも俺が何かを言いやすいように配慮をしてくれる。それでいて親身になって色々と話しを聞いてくれたり、何かを手伝ってくれるとても優しい女の子である。


「あはは……。ありがとう。別に琴音や亜由美を信用してないから言えないとかじゃなくて何と言うか今は少し自分で色々と考えたいと言うか……」


 まさか一つ年下の幼馴染にまで心配されるとは、正直俺の立場ないな。亜由美は人の話しを途中で否定したりしないので俺の中ではかなり話しやすいのだが、さすがに今回ばかりはかなり言いづらい。なんて言うか『妹に手を出そうとして笑顔で振られた俺』とか幾ら何でも恥ずかし過ぎて言えない。

 てかそうやって考えると俺は連休明けどうやって学校に行けばいいんだ……。クラスのほぼ全員が俺が育枝に振られたのを見てたんだよな……。


「そっかぁ。それならいいんだけど、もし一人じゃどうしようもなくなったら私を頼っていいからね?」


「あぁ、ありがとう。亜由美はいつも俺の味方でいてくれる。本当に助かってるよ」


「ううん。それはちょっと違うよ」


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