第9章 国の暗部③

 車から降りる前、篤を病院に連れていった捜査官から電話があった。

 手術が無事終わったという連絡だった。


 …良かった。

 篤とも電話越しで話が出来た。

とっとと事件を解決させて、うまいもの食わせろと言っていた。


 俺達が事務所に戻ると、そこには総理補佐官がいた。

 「おかえりなさい。話は聞きました。皆さんお疲れさまでした。」

 そういえばこの人、いつの間にかいなくなってたな。

 「…あんた、どこ行ってたんですか?」

 「あなた方が発った後、官邸に戻りました。総理に報告があったもので。」

 …もう誰を信じたら良いのかわからない。

 あの声の主、こんな大それた事が出来るなら、どう考えたって政府の、しかもかなり上の立場の人間だろう。

 「そうですか。それで黒幕はわかったんですか?」

 「いえ、全く。」

 だろうな。

 わかってたら今ごろ捕まえに行ってる。


 「ただ、わかったこともあります。」

 「なんですか?」

 「あの地下壕は都内の興和清真工業という会社の所有物でした。」

 「え?その会社の人が犯人ってことですか?」

 クレアが総理補佐官に聞く。

 「いえ、犯人に協力はしていたかも知れませんが。」


 政治家が関わってるということだろうか。

 「あの会社は和田外務副大臣へ献金をしていますから。」

 政治献金か…だがそれだけで証拠にはならないだろう。

 「外務副大臣が犯人って言いたいんですか?」

 補佐官は首を横に振った。

 「ですからわかりません。私はあくまで可能性の話を申し上げています。」

 チッ、公務員ってのはコレだから…

 「それに副大臣の名前が出たからといって、大臣が関わってないとは言い切れません。この国の公職組織は縦割りですからね。」

 「大臣の命令で副大臣が動いている可能性もあると?」

 「その通りです。」

 「信じらんない!なんで国の偉い人が悪いことするの?!」

 「クレア、やめときな。」

 「うー…」


 クレアが言うように政治家がみんな性善なら誰も苦労はしないんだがな。


 「大臣や副大臣を任意かなんかで引っ張っれないんですか?」

 「それで素直に喋るとでも?」

 軽蔑するような視線を向けてきた。

 確かにその通りだ。しかし、

 「この事件はある種のテロだろ?金の動きを追ったり出来ないのかってことですよ。」

 「それには礼状がいります。」

 「なら、ぐずぐずしてないで取ってくださいよ!」

 「裁判所に、大臣や副大臣が犯人かもしれないから、礼状を発行してください。と言えばもらえるとでも?」

 「くっ…!」

 なら、どうしたら良いんだ!!


 「気持ちはわかります。私も思いは一緒です。だからこそ今は冷静に対処せねばなりません。

 無論、犯人を特定でれきば手加減などするつもりはありませんよ。」

今は何も出来ないってことは良くわかった。

 「わかりました。でも主犯がわかってもまた非公開の捜査になるんでしょ?」

 「そうなります。あなた方には、高橋なる人物を追ってもらいたいのです。」

 高橋が人物かどうか怪しいものだけどな。まぁ、細かいことは良いか。

 「彼を野放しにするのは危険すぎます。」

 「わかりました。でもどうやって探すんです?」

 俺が質問をすると、pcで打ち込み作業をしているオペレーターの所へ案内された。


 「彼は分析官の間中といいます。」

間中と呼ばれた人物は俺の方に首をやり、

 「どうも。」

 と、一言だけ。

 「彼は民間から引き抜いたホワイトハッカーです。高橋の居所は追跡出来ています。」

 「相手は人間じゃないのにどうやって?」

 「彼は姿は消せますが、どういうわけだか体には僅かに熱源のようなものがあるようです。」

 ん?

 「ヤツに熱源があるんですか?」

 「そのようです。先程の戦闘の際にも彼の体から熱源の反応が出ていました。」

 死んだやつから熱源?そんな馬鹿な…

 「それを、衛星から熱感知して追ってるんだよ。」

 コイツ、ガム噛みながら仕事してんのか。

 「温度が気温よりも低いところで推移してるから逆に探しやすいの。…わかる?」

 「あぁ、もちろん。きっと君の説明が上手いからだな。」

 俺は嫌味を言ってやった。こういうヤツは苦手だ。

 「そりゃどうもー。」

 クソ…腹立つ。

 「あ、そいつ、中目黒の廃業した飲食店の中に入ったよ。一人みたいだ。」

 「おい、晃。なんだあいつ。」

 「優秀な分析官だそうだ。」

 「あのさー、嫌味言う暇あったら、捜査官連れて捕まえに行ったら?」

 こ、この野郎…!

 『はっ!』

 ん?クレアの声か?

 「いて!!」

 間中は頭を押さえてキーボードに突っ伏している。

 クレア、"声"で、攻撃したな?

 「なんだ、今の!!」

 分析官の間中はキョロキョロしている。まぁ良い気味か。

 「クレア、バレたら大変だぞ。」

 「晃にムカつく態度とり続けてたからつい…」

 「でも、ありがとな!」

 思わずクレアの腰を抱いてしまった。

 「あっ♡続きは無事に戻ったら…ね♡」

 「あぁ、絶対生きて帰らないとな!」

 俺達がいちゃいちゃしてるのを見てた間中と目が合ったが慌ててすぐ目を反らされた。


 おっと、お坊ちゃんには刺激的だったかな。


 俺の元へ捜査官が走ってきた。

 「黒衣君、高橋の居場所がわかったから一緒に来てくれ!楠本さんも!」

 「あ、はい。相良さんと林さんは?」

 「彼等は他で問題が起きた時の為に待機してもらう事になった。」

 確かに相手がどう動くかわからない以上、悪霊に対抗できる俺達が全員外に出るのはリスクがでかいな。


 「了解だ、行こう!」

 俺が答えると、捜査官が振り向いた。

 「頼むぞ、スーパーヒーロー!」

 調子が良いな。

 「…私がスーパー…?…ええ!任せて!!」

 …クレア、アメリカ人の血が騒いでないか?

 捜査官がクスッと笑ったのを俺は見逃さなかった。

(なんか恥ずかしい…。)


 現地には俺とクレア、捜査官の武田と飛下の4人で向かう事になった。


 俺達は捜査官が運転する装甲車で現地に急行した。


 『彼の反応はまだ、例の飲食店の中だよ。』

 間中の追跡が正しいならこの建物の中に高橋がいることになるな。

 「了解、今から中に入る。」

 早朝なだけあって自動ドアは閉まったままだ。

 武田さんは入り口に待機して、飛下さんが何かの細い器具を自動ドアの繋ぎ目に差した。

 なるほど、ハンドル付きのバールだったのか。

 グリッグリッグリッ…

 ドアに大人一人通れるくらいの隙間が出来た。

 武田さんが手で合図を出す。

 飛下さん、俺、クレア、武田さんの順で中に入る。


 今回は捜査官はもちろん、俺とクレアもガスブローのアサルトライフルにフラッシュライトを装備している。

 気分は俺も捜査官だ。

 ガタッ

 『?!』

 不意に物音がなり俺達は音の出所を探した。

 …なにもないな。

 「…みんな。」

 ん?武田さんの声だ。

 彼の元に行くと、入口から入って突き当たりのところでしゃがんでいた。

 「どうしたんスか?」

 「これを見てくれ。」

 俺もしゃがんでみる。

 被害者か?何かが横たわっていた。

 …どういうことだ。

 相当腐乱しているが間違いない、高橋本人だ。

 「これ、罠じゃないよね?」

 クレアか。

 確かにその可能性はある。

 「武田さん、少し下がりましょう。」

 「そうだな。」

 俺達は高橋から少し離れた。


 飛下さんが高橋の写真を撮っている。

 「武田だ。ターゲット発見。写真を送るから照合してくれ。」

 『了解。』

 だが、おかしい。分析官の間中は、高橋は移動していると言っていた。

 死んでいたら、熱源反応なんてないはずだ。


 『届いたよ、少し待ってて。』

 死体を何のためにここへ置いたんだ?

 「…?!」

 くそ、やっぱり罠だった!

 「みんな!離れろ!!」

 俺達は急いで店の外に出た。

 バゴォォォォン!!!

 店内で爆発が起きた。


 「…っ。クレア!」

 「だ、大丈夫。」

 クレアが立ち上がった。

 「く、くそっ。また爆発か!

 …飛下?!」

 飛下さんがいない?

 俺は周囲を見渡したが、確かに見当たらない。

 「あ、晃!」

 ん?

 「どうした?!」

 クレアが青ざめながら指を差している。

?!

 「これ…腕だよな。」

 千切れた腕には捜査官全員が着ていた部隊の腕章が付いていた。

 「…とび、した?

 飛下!嘘だろ!!どこにいる?!」

 『今の音は何?!』

 「高橋の罠だった。あいつ自爆したよ。

 飛下捜査官は間に合わなかった。腕だけでも連れて帰るよ。」

 『了解…』


 …あれはどういう意味だったんだ?

 「晃、どうしたの?」

 俺は武田さんに聞こえないよう小声で

 「高橋のやつ、爆発する直前に目を開けて俺を見て笑ったんだ…くそ!!」

 「え…笑った?どういうこと?」

 「あいつは既に死んでるはずだ。なおかつ姿を自由に変えられるからな。腐乱死体のふりなんてお手のものだろ。」

 「ていうことは、浩一はまだピンピンしてるってこと?!」

 「あぁ、死んでるんだけどな。」

 「あいつ、何人殺したら気が済むの!」

 武田さんがこちらに歩いてきた。

 「…人が集まって来ている、警察が来る前に戻るぞ。」


 車内は誰一人喋ることはなかった。

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