Monte Carlo -6-

「……おかしいな。レオナルド、俺は相棒の美女さんも一緒に呼んだはずだが?」


「ああ、クソ女か? アイツは遅刻の常習犯だ。どうせ花でも摘んでんだろうよ。デカい方の花を」



ガムを噛みながら品のないジョークを飛ばすあたり、彼の育ちの悪さが伺える。


いくらこちらが頼んだ助っ人とはいえ、その態度はあまり好きになれない。


エドガーが一つ溜め息を吐くと、その苛立ちが放出されたかのようにして煙草の副流煙が立ち上った。



「……で、なんの話だ?」


「ああ、報酬の金額を伝えるつもりで呼び出し…」






  バタンッ!






「お給料の話ですか!? お給料の話なんですよね!? ねぇ!?」








荒々しくリビングのドアを開ける、もう一人の問題児。


黙っていれば美女なのだろうが、その女はインターホンの使い方どころか、ノックという行動の存在すら頭にないらしい。



 


「おお、クソ女。ラフレシアは摘めたか? デカくていい香りのするヤツ」


「はい? やはりレオさんの頭にはお花畑が広がっていらっしゃるんですね」



この女がハイヒール以外の靴を履いているところは見たことがない。


膝下まで覆う編み上げのハイヒールブーツ。


脚線美をこれでもかとばかりに強調したタイトなジーンズ。


右手にだけはめた黒い手袋。


同じく完璧なボディーラインを際立たせるタイトな赤いチューブトップに黒いパーカーを着合わせる。


身体つきは華奢だが背は高く、ハイヒールと合わせればバンダナ頭の大男と並んでも小柄に見えない。


そしてトレードマークのウザ長い金髪。


歩みに合わせてフワフワと揺れるほど柔らかな髪質のようだが、その深い光沢は髪の一本一本が純金と言われても疑わないほどだ。





「すみません、エドガーさん。睡魔とリトルスターウォーズしておりまして、なんやかんやで負けちゃいました」


「は?」



小さくあくびをしながら、指示してもいないのに二人掛けソファーの右側に腰を下ろした。


普段から少し垂れた穏やかな目付きは、その眠気のせいか更にトロリとしている。




ヒューガ・エストラーダ。


会合はこれが初めてではないが、面と向かうたびに疑ってしまう。


本当にこの間の抜けた女が、ストリートレーサーひしめくミラノにおいて最速と称されているのかと。


本当にこの女が、噂に聞く「670馬力の女」なのかと。



 


「……まぁいい。レオナルド、ヒューガ、寝ずによく聞け」


「おう」

「……はぁい……」


「報酬の話だが」


「おう!」

「はい!!!!」



エドガーはノートパソコンのエクセルを開いた。


アゲラトスの払う報酬額はエドガーの匙加減ではない。


あらかじめコンピューターにプログラミングされた算出方法で厳密に練り出し、所定の口座に振り込まれるといった仕組みだ。


コンピューターの結果が出るのは翌日以降となるので、その額の予想をまとめたのがエドガーのエクセル。


エドガーの瞳が左から右へと流れる。



「まずはレオナルドの収だな。

 基本給20,000ユーロ。

 ターゲットの殲滅報酬が5,000ユーロ×二人で10,000ユーロ。

 ターゲットの生存報酬は一人軽傷、一人死亡だから10,000ユーロの(×0.75)+(×0)の計算で7,500ユーロ。

 合計37,500ユーロ」


「オーケー。悪くねぇ額だ」



 

「次にヒューガの収だ。

 基本給20,000ユーロ。

 ターゲットの殲滅報酬が同じく二人で10,000ユーロ。

 生存報酬は二人とも死亡で(×0)+(×0)でナシ。

 合計30,000ユーロだな」


「はぁ……分かってます。レオさんより報酬が低いのは仕方ないですよね」


「額が不満か?」


「いいえ、額は。ちなみに私達の『収』というのはどういった意味合いで?」


「おー、よく気付いたな」



エドガーは役目を終えた煙草を、大理石の灰皿の底部に押し付けた。


そして流れるように次の煙草を取り出し、ライターで火を灯す。


灰色に濁った煙を吐きながら、エドガーはエクセルの画面をスクロールした。


煙草の臭いに慣れていないわけではないが、レオ、ヒューガ共に怪訝な表情を浮かべている。



 

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