第3話・魔王様、見られる。

魔王であるキースと、その配下のベルは人間ではない。



見た目や服装は冒険者が身につけていたものを模倣しており、正体がばれる可能性は低い。



だが、注目を集めている以上、正体がばれた可能性も考えられる。



「そこの美男美女のお二人さん!

 ちょっと寄っていかないかい?

 カップルにはサービスするよ」



2人が警戒しているのを他所に、屋台を開いているふくよかな体型をしたおばさんが声をかけてきた。



「俺達のことか?」



「そうそう!

 あなた達以外、誰がいるんだい」



おばさんがそういうと大声で笑う。



それを見て警戒を緩める。



おばさんの反応から察するに正体がばれたわけではないとわかったから。



それに話しかけてくれたことによって、注目されていた視線が分散している。



ただの客寄せとはいえ、助かったのには違いないので感謝の意味も込めて立ち寄ることにした。



付き人にそれを伝えようと目配りすると、頬に手を当て、体をくねらせているベルの姿があった。



「――キース様と恋人同士だなんて、そんな恐れ多い。

 ――でも、周りからそう見られているなら・・・恋人のフリをしてもいいのでしょうか・・・」



ベルはキースの視線に気づいておらず、ボソボソと何かを語りながら妄想の世界に入り込んでいる。



ベルにとって『カップル』という言葉が妄想の引き金になったようだ。



少し待てども一向に戻ってくる気配がないので、仕方なくベルの手を取り屋台に導く。



「キ、キース様っ!?」



キースのその行動で、驚いたように一瞬でベルが正気に戻った。



「屋台に寄ってみるぞ」



「かしこまりました。

 ――お手数おかけして申し訳ありません」



ベルは繋いだ手を凝視しながら、顔を赤く染めて言った。



「気にするな。

 それより話を聞いてみよう」



ベルが正気に戻ったことで繋いだ手をそっと離す。



「あなた達、見ない顔だけど旅人かい?」



屋台に近づくと早速おばさんが話しかけてくる。



「――あぁ、今日この街に来たばかりなんだ」



旅人ではないが、そのまま勘違いしてもらっている方が話が進むと思い否定はしない。



「やっぱりそうかい!

 そりゃ注目を浴びるわけだ」



「どういうことだ?」



おばさんは2人が注目を集めていたわけを知っているようだ。



「そりゃ、あなた達みたいな容姿のいい二人が連れ添って歩いていたら注目を集めるさ」



2人は見た目や服装には注意を払っていたが、元々人間離れした容姿の良さには気づけていなかった。



注目を浴びていたのはそんな理由だったのだ。

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