第51話 屋敷と集落

「なんでもいいんだけど、まー君ってあの屋敷の中に入っていたんだよね?」

「うん、僕はあの屋敷の近くをうろうろしていたら門が開いて中に入ることになったんだよね。それまではみさきたちと一緒でどうやっても中に入れなくてどうしようかって思ってたんだよ」

「ねえ、なんでまー君だけ中に入ることが出来たの?」

「さあ、その辺はよくわからないけど、僕があの屋敷の中で隠された地下室を見つけて絵の中に閉じ込められた少女を開放することが出来ると思われたからじゃないかな」

「二人の話に割り込むようで申し訳ないんだけど、その少女って集落の人が言っている魔女と関係あるのかしら?」

「魔女ではないと思うな。どちらかと言えば、魔女の被害にあっている屋敷の娘さんって感じかも」

「その女の子ってまー君に何か変なことしてないよね?」

「変なことって?」

「変なことは変なことよ。まー君の事だから大丈夫だとは思うけど、とにかく、大丈夫って言ってくれればいいからさ」

「ああ、それなら大丈夫だよ。みさきが心配するようなことは何もないからね」

「良かった。でもね、まー君から女の匂いがしたのはどういうことなのかあとで教えてもらうからね。その体が答えてくれると思うんだけどな」


 僕はみさきが依然と変わらないようなので少し安心していた。一度、一週間ほど会えない期間があったのだけれど、その時は少しだけ面倒な感じになっていたので今回も心配だったのだ。その心配は杞憂に終わったのだが。


「ねえ、マサキがいた屋敷って私達も中に入ることが出来るのかな?」

「たぶん大丈夫だと思うよ。と言ってもさ、僕もどうやって門を開けてもらうのか知らないけど、行ってみたら何とかなるんじゃないかな」

「自分もあの屋敷の中に入れるんっスかね。周辺を探ってみた感じっスけど、自分たちはあの屋敷に拒絶されているような感じがしてるっスよ。ルシフェル様たちと対峙した時のように悪魔サイドの強固な結界に阻まれていた時みたいな印象をあの屋敷から受けるんっスよね」

「確かにね。あの屋敷って門があくまではどんなことをしても中に入ることが出来なかったもんね。今もあの門を通って中に入れるかわからないしさ」

「ここでうだうだ話をしてても何も変わらないんだし、ご飯を食べたら集落の人ともお話しましょ」


 マヤさんがそう言って目の前にある食事に手を伸ばしていた。僕もそれに続いてご飯を頂こうと思っているのだけれど、さっきから僕の膝枕で休んでいるみさきが邪魔して食べづらいのだ。


「ねえ、あとでまたしてあげるから今はご飯を食べようね」

「うん、わかったよ」


 みさきは僕のお腹に顔を押し付けるように抱き着くと、そのまま少し止まっていたのだけれど、満足したような笑顔で僕の隣に座り直して食事を始めていた。もともと食事を必要としていないミカエルは特に何もしていないのだけれど、マヤさんは心なしか僕に向ける視線がさめているように感じてしまった。

 食事は美味しかったのだけれど、あんまり食べなれたものではなかったのでどのような食材を使っているのか気になっていた。みさきの話ではこの近くでとれる動物や魔物を使った料理だとのことなのだが、魔物も調理してみれば意外と美味しいのだと思えた経験だった。


 食事も終えて僕たちは集落の人を呼んで話し合いを行うことになった。話し合いと言っても何かを言い合うのではなく、お互いに知っていることの情報をすり合わせる作業といった方が近いのかもしれない。

 僕はこの世界に来てから手に入れた情報はあの屋敷の事だけだったので知らないことが多かったのだけれど、この集落はもともとあの屋敷を監視する目的で作られたものらしい。

 あの屋敷には三人の強力な魔女が住んでいたらしい。三人の関係は不明なのだが、仲が悪いわけではなく協力して冒険者や住人を殺して回っていた。国や教会も動いてはいたのだけれど、その強力すぎる魔女の力に対抗する手段もなく何十年と怯える暮らしが続いていたのだ。

 そんな時に一人の冒険者が何の前触れもなくこの地に降り立ったのだ。その冒険者は漆黒のマントに身を包み、自分の身長と同じくらいの大きな鎌を持っていた。

 冒険者は一人ではあったのだけれど、強力なはずの魔女の力を難なく受け流すと、その鎌を使って魔女の首をはね落としたのだった。

 国や教会の力をもってしても耐えることしか出来なかった魔女の力をあっさりとねじ伏せ、わずか二日のうちに三人の魔女の首をはねてその命を奪ってしまったのだ。

 魔女の力は強力なもので命を奪われて終わるものではなく、魔女の体から魔力が抜けると、魔法エネルギー体として再び冒険者の前に立ちはだかった。

 しかし、冒険者はその魔法体も難なく討伐したのだけれど、その魔法体は命があるわけではないので何度倒しても冒険者の前に立ちはだかるのだった。

 何度倒してもよみがえる魔女を相手にしていた冒険者に疲れが見え始めたころ、一人の神官が魔女を巻物に封じ込めることに成功したのだ。その巻物は屋敷のどこかに隠されているとのことなのだが、その場所は隠した神官とそれに付き添った冒険者しか知らないとのことだった。


「初めのうちは屋敷にも自由に出入りすることが出来たみたいなんですが、いつからか結界が張られて中に入ることが出来なくなったんですよ。なんでも、神官様の話では封印されているはずの魔女の力で結界が出来ているのではないかということなんです」

「封印されている魔女って肉体は無いんですよね?」

「私も直接見たわけではないのですが、そのように伺っております。神官様は冒険者様たちと一緒に魔女の封印をより強固なものにしていただけるのでしょうか?」

「僕にそのようなことが出来るかわかりませんが、僕たちにはミカエルがついているから大丈夫だと思いますよ」

「はあ、我々にはわかりかねますが、よろしくお願いいたします」

「マサキと自分の力を使えば封印とかはできると思うんっスけど、そんなに都合よく魔女を見つけることが出来るっスかね?」

「大丈夫、あの子に事情を話せばきっと魔女が封印されている場所を教えてくれると思うよ」

「屋敷の中まで皆様と一緒についていくことは出来ないのですが、屋敷の周りに我々も待機していていいでしょうか?」

「何かあっても守れないと思うんですけど、それでもいいなら」

「ありがとうございます。皆様のお邪魔にならないようにいたしますので、どうかよろしくお願いいたします」


 僕たちは集落の人達と一緒に屋敷へと向かうことになったのだけれど、翌日の朝からではなく今から出発するとのことだった。話し合いは意外と時間がかかっていたようで、外を見ると夕日が差し込んでいるのが見えた。

 集落の入口から屋敷まではそれほど離れていないので時間はかからないと思っていたのだけれど、先ほど歩いていた道と違ってずいぶんと時間がかかっているように思えた。上りと下りでそんなに変わるものなのかと思っていた。


 僕たちが屋敷の前にたどり着いた時には太陽も完全に沈んでいた。屋敷に灯りは無く、上空に輝く月の光でうっすらとそのシルエットが浮かび上がっていたのだけれど、僕はその光景に違和感を覚えていた。

 固く閉ざされた門がゆっくりと開いていったのだが、一人が何とか通れそうなところで門が止まった。僕が先に入ってみさきがそれに続き、マヤさんとミカエルが中に入ったところで門が大きな音を立てて閉まった。


「我々は中に入ることは出来ませんが、魔女の封印をよろしくお願いします」


 僕はそれに頷いて答えると、三人を引き連れて屋敷の中へと入っていった。玄関は開いていたのだけれど、中に入ると外から見た様子と異なり、明かりがしっかりと灯されていた。


「ねえ、なんで外から見た時と違って明かりがついているの?」

「さあ、何か理由があるんじゃないかな?」


 僕がそう答えると、みさきは僕の腕に強く抱き着いていた。少し痛かったけれど、何とも言えない心地よさを感じていたのだった。

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