第13話 三人の司祭

 12人の司祭がいると聞いていたのだけれど、私と正樹を出迎えてくれたのは三人だけだった。この三人が司祭なのは服装を見れば何となくわかるのだけれど、三人とも私達とそう年齢が変わらないように見えた。


「申し遅れました、私はこの統一法王庁に残されている司祭の一人、ユウキと申します。こちらの女性が猫沢で、こちらの少女がえみりです。我々もお二方と同じ転生者ですが、冒険に出てはいないので少し違う立場かもしれませんね。ところで、本日はどのようなご用件で参られたのでしょうか?」

「えっと、特にこれといった用件は無いのですが、ここに来ればこの世界に来た目的でも見つけられるのではないかと思いまして。なんか、すいません」

「いえいえ、そう言った方は結構多いんですよね。戦闘職でもなく生産職でもない、かといって技術職でもない我々がこの世界で何をすればいいのかわからないって、私もそうだったのでわかりますよ。いきなり、神官になりましたって言われてもこの平和な世界で何をすればいいし、神に仕えると言ってもこの世界にはもしかしたら私達転生してきた者よりも神様の方が多くいたりしますからね。転生した先の世界が争い事のほとんどない平和な世界だったりするし、その平和になっている要因が神が支配せずに天使が管理していないからって言うのも、思っていた異世界と何だか違いますもんね。私は、異世界に行ったとしたら日々が戦いに終われていると思っていたんですけど、ここでは自ら仕掛けても相手にされない場合もありますから困ってしまいますよね。そんな事は置いておいて、これからどうしましょう?」

「そうですよね。私はどうしてこの世界に来たのかわかりませんが、異世界ってのはもっと殺伐としている物だと思っていました。そんな世界で巫女は何をすればいいんでしょうね?」

「うーん、ここには巫女がいないのでアドバイスを差し上げることは出来ませんが、何かこの世界を救ってみるというのはいかがでしょう?」

「平和なのに救うんですか?」

「ええ、平和と言いましても日常には不満に思う事や困っていることなどもあるでしょうし、それを少しずつ解決していくというのはどうですかね?」

「そうですね。平和な世界と言っても困っている事はあるでしょうし、特にやる事も無いんで頑張ってみます。ありがとうございます」

「サクラ様の悩みが解決の方向へと向かっているようで何よりです。正樹様は何かお悩みがおありでしょうか?」

「僕はこれと言って悩み事は無いのですが、あるとすれば、どうやったらみさきをもっと幸せに出来るのだろうかといった事ですかね」

「みさき様と言いますと、お連れの踊り子の方でございますね。お二人の関係性を伺っているだけではございますが、とても幸せそうだと伺っておりますよ。正樹様が亡くなった後もみさき様は正樹様の事を一番に思っていらっしゃるようでしたし、逆の立場だったとしても正樹様はみさき様の事を一番に思っていらっしゃると思いますが」

「それはそうなんですけど、せっかく異世界に来たのだから向こうで出来ないような事をしないといけないかなと思いまして。ところで、神官は結婚したらダメとかってありますか?」

「この世界の神は信徒を増やす方法が人を生き返らせるといった事でありますし、結婚しているかどうかは問題ではないのですよ。もっとも、今では人間と悪魔の戦闘がほとんど行われていませんし、たまに出てくる天使を討伐するくらいしか信徒を増やす方法も無いのですけどね。そう言えば、お二人の仲間に神がいらっしゃいますが、あの方は妖精ですよね?」

「僕もその辺はわからないんですが、元々ルシファーさんの仲間だったみたいですよ。ルシファーさんは命を与えることが出来るみたいなんですけど、生き返らせることは出来ないみたいなんですよね。妖精のリンネさんは死んだものを蘇らせることが出来るみたいなんですよ」

「なるほど、ルシファー様とおっしゃいますと、この世界を創りかえた伝承に残っているお名前になるのですが、文献にはリンネ様という名前もございませんし、妖精と共に行動していたという記録も無かったと思いますので、同じ名前で能力が高い方なのでしょうね」

「ねえ、そんな話ばっかりじゃなくてエミリもお話ししたいんです。二人は戦闘が苦手みたいですけど、仲間の人は強いんですよね?」

「うん、ルシファーは強いし、みさきも素手で鉄を破壊できるくらいに強いよ」

「そうなんですか。エミリも久しぶりに強い相手と戦ってみたいからお手合わせしたいです。ずっとここで世界を見守って来たんだし、少しくらいいいですよね?」

「エミリさんは戦うのが大好きですものね。私もたまにはいいのではないかと思うのだけど、ユウキさんはどう思うのかしら?」

「私もそれは構わないと思いますが、お二人のお仲間が承諾していただかない事には何とも言えないですよね。それに、下の街で退屈しておられる方の暇潰しにもなると思いますよね」

「司祭の方が私の仲間と戦うんですか?」

「ええ、エミリさんは司祭ですけれど、世界で唯一の戦闘に特化した司祭なのですよ。戦闘に特化しているだけありまして、その腕前は確かなモノなのですが、お二人のお仲間はいかがでしょうかね?」

「ルシファーさんは戦っても負けないと思うけど、みさきはちょっと不安かな。もちろん、負けるとは思っていないけど、怪我をしたら大変だしね」

「例え、全身の骨が砕けようと、全身の腱が切れようと、我々には特別な技法がありますのでもとに戻すことも可能ですよ。不幸にも命を落としてしまったとしても、この世界には生き返らせてくれる神様が無数にいらっしゃいますからね。自信がないなら遠慮していただいても構いませんが」

「ちょっと待ってください。私達が勝手に判断出来る事でもないですし、二人の意見を聞いてからでもよろしいですか?」

「ええ、もちろん。それとは別にお願いもあるのですが、聞いていただいてもよろしいでしょうか?」

「お願いって何ですか?」

「エミリさんと戦うかどうかは別にして、それだけお強いのでしたらこの世界に湧いている天使を討伐していただきたいのです」

「天使を討伐ですか?」

「この世界を支配しようとしている天使を少しでも減らしていただけると助かるのです。今の世界は安定して平和ですし、今の世界を壊してまで一人の神を信じろと言うのは無理な話だとはございませんか?」

「確かに、この世界は今の状態でも幸せそうですよね」

「そうなんです。それを急に外からやってきて私達を支配しようとしているのです。それも、圧倒的な武力を背景に強引に事を推し進めようとしていたのですよ。と言っても、その戦いが起こったのは私達がやってくるずっとずっと昔の事だったそうですがね。今でもその神はこの世界を自分のものにしようと天使を送り込んできているみたいなのですよ。お二人のお仲間にも天使はいるようですが、ほとんどの天使は見境なく襲ってきますのでお気を付けくださいね」

「それについても仲間と相談して決めていいですか?」

「もちろん、協力していただけるかどうかはご自由ですので」

「ちなみに、その神の名前って何て言うんですか?」

「名前ですか。私達にはその神の名前を聞き取る事も理解することも出来なかったのですが、世界を支配しようとする邪神に名前なんて必要ないですよ」


 この世界は悪魔と人類が共存しているように見えるし、人間以外の人類も共存共栄しているのだ。そんな世界を支配しようとする神はいったい何者なのだろうか。それを邪神と言い切っていいのだろうか。

 私の思っていた神様像はこの世界では少し違うようだし、その辺も上手く考えていきたいと思った。



「あのね、エミリは早く戦いたいのです」

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