第15話 歯車って言うのは行き成り合うようですが、何か?

 ~ダリルside~


 私は久しぶりにアトリエに訪れた。

 理由はとっても簡単♪ 

 ミランダが歌劇用のエロ小説の執筆を始めていると言う情報をオスカーから貰ったから。

 ミランダの好きなアップルパイを朝から焼いてきて、少しでも元気になって欲しくて訪れたんだけれど――。



「え? ヴィヴィアンさん、筆を折ったの??」

「らしいっすよ。ずっとアトリエに閉じこもって泣いてるそうっす」



 私からアップルパイを受け取ろうとしたオスカーからアップルパイを奪い取ると、詳しく聞くことにした。

 ミランダは忙しい為、情報収集をしていたオスカーが、ヴィヴィアンの部屋を片付けている掃除員に聞いた話らしい。

 ずっと部屋に閉じこもり、原稿も放り出して、ベッドに布団を頭からかぶり、すすり泣いているのだとか……。掃除員が心配して問いかけたところ「もう小説なんて書けない」と嘆いていたらしいの。



「……それは」

「何があったのかは知らないっすけど、ミランダが小説を発売してから、割と直ぐだったらしいっすよ」

「……そう」

「それで、アップルパイは」

「悪いけど、ヴィヴィアンさんに食べてもらうわ。また焼いてくるから許して?」



 そう言ってウインクすると、オスカーは呆れた様子ではあったけれど、扉を開けて「頑張ってくださいっす」と応援し、私が部屋を出るのと同時に静かに扉を閉めた。

 あの日――懇親会の前に私はヴィヴィアンさんとお話しした。

 あの後、黒薔薇の会にヴィヴィアンさんが向かったと言う情報は既に諜報部に入ってきている。

 そこから塞ぎ込んでいるとしたら――そう思い、私はヴィヴィアンさんの部屋をノックしたけれど返事はない。

 ただ、すすり泣く声が微かに聞こえてきて、私は居ても立ってもいられず乙女の部屋を開けて中に入った。

 毛布に潜り込んですすり泣くヴィヴィアンさん。

 机の上の原稿には日付が書いてあり、もう随分と執筆していない事が分かったわ。



「ぐす……っ 誰?」

「私よ、ダリルよ」

「――!?」



 私の返事にヴィヴィアンさんは布団をガバリと取り払い、真っ赤に晴れた目のまま私を睨みつけてきた。

 ――怒っている。誰に?

 ――憤っている。誰に?

 ――誰に、貴女は呆れているの?



「その様子だと、少しは持ち直したようね」

「出て行ってよ……今は貴女の顔なんて見たくもないわ!!」

「まぁ! そんな事を仰らないで? 貴女のスッピンを見たくらいで引いたりしないわよ」

「またそうやって私を馬鹿にしてっ!! あの人たちもそうよ!! みんな私を馬鹿にするの……みんな私を利用するだけ利用して捨てるの……誰も私を認めないの、誰も私の小説なんて上辺だけでしか読んでないの!! 嘘ばかり、嘘ばっかりよ!! こんなに惨めになるなら小説なんて最初から書かなければよかった!!」



 最期は悲鳴に近い声で叫び私に枕を投げつけてくるヴィヴィアンさん。

 それをキャッチすると、彼女は毛布を被ってまた泣き始めてしまった。



「呆れたわね……黒薔薇の会が、あなたの小説を読んでるとでも本当に思っていたの?」

「……何故それを」

「あの方たちの活動方針知ってるの? リコネル王妃が庇護する小説家、及び童話作家、そして絵師を潰す事よ? よくそんなところに貴女行けたわね」

「え!?」



 知らなかったのだろう。

 毛布を跳ねのけ、ドレスもしわくちゃのまま私に駆け寄ると、信じられない様子で私を見上げてきた。

 もし本当に知らなかったのだとしたら、一体何が理由で彼女を引き入れたのか……。



「ど……どういうことなの……だって、小説を語り合うって聞いて入ったのに、いつの間にか」

「誹謗中傷のレターを書くことを主としたソーシャリティに成り代わっていた」

「その通りよ!!」

「でもね、元々あのソーシャリティは、リコネル王妃を気に入らないと言う集団の集まりなの。サロン主人であるアリィミア・ダライアスは、その最もたるリーダーなのよ」

「……え?」

「貴女、元々騙されて入れられた挙句、情報を聞き出されていただけの被害者よ」



 この言葉にヴィヴィアンさんは床にペタリと座り込み、数分間呆然としていた。

 信じられないのかも知れない。

 けれど、一体誰が彼女を引き込んだのか……誰が彼女を陥れようとしたのか。

 指示を出したのは間違いなくアリィミア・ダライアス。

 けれど、あの女とヴィヴィアンに接点はない、では一体誰が二人の間を取り持ったのか。



「だって、わたくしを誘って下さるお手紙が届いたの……」

「それは何時?」

「わたくしが……リコネル王妃のコンクールで優勝して直ぐよ……。貴女の小説を応援したい方々が集まっているって……ミラノ・フェルン作家は悪だって……貴女の小説のすばらしさを集まっている皆さんに語りましょうっていって……お誘いの手紙が」

「それは誰から?」

「……アリィミア・ダライアス」



 ――あの女、何処までもリコネル王妃を陥れる気で動いていたのね。



「その手紙、まだ持ってる?」

「えぇ……アリィ様からは直ぐに処分するようにって言われてたけど、他人から手紙を貰ったのが初めてだったから持ってるわ」

「見せて頂戴」



 そう指示を出すと、ヴィヴィアンさんは立ち上がり、鍵の付いた箱から一通の手紙を取り出し私に手渡してきた。

 中を拝見すると確かに、言葉巧みにサロンへ誘う内容が書かれてあり、封もダライアス家の物であることが分かる。



「自国の王妃を陥れようなんて……ふざけた真似が良くできるわね」

「ごめ……ごめんなさい……」



 思わず怒りの篭った声を出してしまい、ヴィヴィアンさんを怖がらせてしまったけれど、私は小さく溜息を吐いて冷静さを保とうと頑張った。

 ――騙された若き小説家。

 ――陥れられた若き小説家。

 ――純粋が故に。

 ――哀れな故に。

 ……誰よりも嫉妬深いが故に。



 嫌だわ……まるで昔の私を見ているかのよう……。



「ヴィヴィアンさん、貴女の事は既にリコネル王妃はご存じよ」

「!?」

「それでも、貴女に何も言わなかったの。責めることが出来る立場ではない、一人の小説家として応援する立場にあるのだと仰っていたわ」

「……リコネル王妃様……」

「でも、貴女がご自分でサロンでの悪事をやめることを、そして、その悪事を皆に伝えることを頑張ってもらいたかったの。ただ、これはあくまで願望であって、難しい事だとも仰っていたわ」

「……」

「けれど、貴女が残していてくれたこの手紙。そして貴女と言う存在が、リコネル王妃を陥れようとしている集団に立ち向かうための切り札になりえるかもしれないの」

「わたくし……が?」



 此処まで語ると、ヴィヴィアンさんは顔をようやく上げ、涙をポロポロ流しながら私を見つめてきた。

 少しだけ希望の宿った瞳を見つめ、私が頷くと、ヴィヴィアンさんは涙を乱暴に拭い、私を真っ直ぐに見つめ直した。



「その手紙、そしてわたくしがして来た事、そしてあのサロンでの会話……リコネル王妃様にお話しします」

「いいえ、まだ早いわ」

「どうして!? このままでは相手の勢いが増長してしまうだけですわ!」

「良いのよ、増長して。膨らんだところでパーンッと割らないとね? そう、一匹残らず集めてパーンッてしちゃうの♪ その為には貴女にはまだまだやってもらう事があるわ」

「わたくしに出来る事なら何でも……と言いたいところだけど……ごめんなさい。わたくし、小説が書けないわ……」

「何故?」

「……自身が無くなってしまったの。心が晴れないの……馬鹿にされて、認められもせず、ただただ今は虚しくて……悲しくて……書けなくなってしまったの」

「それなら、書けるようになる場所を用意してあげるわ。ついてきて? ただし、全てを決めるのは貴女に任せるわ」

「え? え??」



 そう言うと私は彼女の細い腕を掴みドアを開け、隣のミランダの部屋にノックもせず入っていった。



「ぬああああああああ!! 純愛の難しさよおおおおお!!」

「その純愛! 合作小説で出さないかしら!」

「何!? おお、これは純愛恋愛小説の達人ヴィヴィアン氏ではないかね!! なになに? 純愛の指南をしてくれるとな!? 是非手伝ってくれたまえ!! さぁ今すぐ!!」

「ええええええ!?」



 お互いスッピンで化粧もせず、ズタボロな状態の小説家二人が、今この時、しかも何かの歯車がカッチリ合うかのように進み始めたような気がした。





======

まさかの、合作!!


ヴィヴィアン氏の事を心配していた読者様、少し安心出来たでしょうか。

強引(ダリル)と強引(ミランダ)が合わさると最強になる。


次回?からは、私が小説を書くときにどうやっているのかなどを交えて

進んでいく事になります。

他の作家さんはどうなんでしょうねぇ。

取り合えず、私の小説執筆はこう動くー的に書いていくので

「私と違う!」等ありましたらコメントあるといいなぁ(笑)


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