十六巡目

 私にはもう分かっている。

 後輩君との勝負に何故負けるのか。


 それは私が弱いから…ではない。

 祭壇がないからである。


*****  *****  *****


 後輩君はヤミテンを覚えて、さらに手がつけられなくなった。ちゃんと安めのときはオープンリーチ、高めのときはダマでテンパイと使い分けをするのが憎らしい。


 しかし私とて、無策に彼を野放しにするつもりはない。その日、準備していた作戦を決行する。


 後輩君、同僚A氏、同僚B氏。卓を囲む三者が私の行動を観察している。


 


 雀神の祭壇を作り、供物を捧げる。これにより私は雀精霊の加護を受け、ツモ運が大きく向上する見通しである。


 高度な計算に裏付けされたあまりにも高度な技術に、高度過ぎて場の面々はぐうの音も出ない。


 さて、供物は何がいいかな。お菓子はたくさん買ってきた。


「先輩…あの」

「何よ」

「それ邪魔です…。親決めのサイコロが見えません」


 雀卓の中央に埋め込まれているサイコロエリアは、私の持ってきたサイコロたちによりすっかり覆われていた。


「サイコロならいくらでもあるから安心して」

「そこはまったく心配してないです」

「さて準備完了。始めるよ」

「ええっと…」


 何故か困惑する三者を他所に、私は意気揚々と対戦に臨む。


*****  *****  *****


 東場が終わった。

 なんと私は暫定トップ。ツモ良し、誰かに振り込むことも無し、順風満帆にことが進む。


 このまま楽勝に逃げ切れるなぁと思っていたら、ついに後輩君のが来る。


「オープンリーチ」


 いつもなら負けパターンに突入するところである。しかし今日は違う。


 祭壇よ、我を守りたまえ。


「私もオープンリーチね」


 追っかけでリーチをかける。


 以前は四度勝負に出て、四度敗れた。

 しかし今日は負ける気がしない。


 私のリーチ後、一巡目。後輩君ハズレ。

 私もハズレ。


 二巡目。後輩君ハズレ。

 私もハズレ。


 そのとき、サイコロの祭壇が気がした。


 三巡目。後輩君ハズレ。

 私もハズレ。


 四巡目。後輩君ハズレ。

 そして私のツモ順。牌を引く。


 その瞬間、祭壇が


 え?

 驚いたまま、ツモった牌を見ると…。


 後輩君のアタリ牌。


 そんな馬鹿な。祭壇が破壊されるなんて。

 サイコロの数が足りなかった?

 それとも供物が安すぎたか…。


 私が悩んでいると、後輩君が頑張って卓上に散らばったサイコロを片付けていた。


「後輩君ありがとう」

「いえ、これくらいは大したことじゃ…」

「次は倍の高さにサイコロを積もうと思うんだけど手伝ってくれる?」

「嫌です!」


 やはり後輩君からすれば祭壇の力は脅威なのか。仕方なく私は一人で祭壇を再構築することにする。


 しかし間もなくして、祭壇は同僚A氏とB氏に除去された。


 貴様ら、そんなに祭壇の力が怖いのかー!

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