十二巡目

 ドラに頼っても強いしドラに頼らないでも強い。でも打ち筋を見ていると今もなお初心者丸出し。それが後輩君である。

 気に食わないのは、同僚A氏とB氏にはあっさりと負けることである。これではまるで私だけが弱いみたいじゃないか。


 弱いのか?

 いやまさか…。


 弱くないことを証明するためには勝つしかない。私は今日もいつものメンバーとともに卓を囲む。


*****  *****  *****


 後輩君が困っている。

 その場合、私はどうするべきか。


 正しく助言した場合、その助言に従いパワーアップする。

 嘘を教えた場合、その嘘を跳ね除け、難しい役または難しい待ちで見事に仕上げてくる。

 どうしようもない。


「あ、ポンです!」


 後輩君が發で鳴く。そしてそのあと困ったような顔をする。さて、恒例の質問タイムの時間だ。


「先輩、こういうときどうしますか?」

「……」


 私は無言で首を横に振った。そろそろ自分で考えてみたらどう?


「分かりません! 教えてください!」


 後輩君は私のアイコンタクトを0.2秒くらいで理解すると、0.3秒くらいで分からないと答えてきた。ちょっとは考えろよ…。

 というか、これだけ場数を踏んで、まだ自力で解決しようとしないのは問題だと思う。


 そんな彼に負け続けている私はもっと問題だと思う。


「うーん。何に困ってるの?」


 ここで問答を続けても意味はなさそう。仕方なく助け舟を出す。


「つい發で鳴いてしまいました。でも他に役がないんです。ドラもなくて…こういうときどうするんですか?」

「うーん。状況によるかな。対子トイツがあれば対々和トイトイを狙うし、ドラに近い牌があればドラを待てる形に持っていく。染められそうなら混一色ホンイツかな」

「どう判断するんですか?」

「手配とツモと他家の捨て牌を見ながらだけど…分かる?」

「分かりません!」


 分からないかぁ。

 でももうこれ以上は助言のしようがない。


「なので、一緒に見てもらえますか?」

「何を?」

「何を切ればいいのかずっと見てて欲しいです」

「…………」


 それもう麻雀じゃないよ。

 でも同僚A氏とB氏は黙って頷いている。見てやれって意味だと思うけど、それでいいのかお前たち…。


「じゃあ私の分は…面倒ですけどAさんとBさんが交替で打ってください。もし手を抜いて負けたら…私、狂乱するから気をつけてくださいね」


 同僚A、Bがぞっとしたような顔をした。それを見て任せて大丈夫だと判断する。


 さて。後輩君の現状は。

 鳴いた發が3枚。萬子マンズは1と8が一枚ずつ、筒子ピンズは7と9が一枚ずつ、索子ソーズは2が一枚、4が二枚、8が一枚。字牌は中と北、西(ともにオタ風)が一枚ずつ。合計十四枚。


 決め打ちは難しい。

 まずは一萬イーワンを切る。


 次のツモ。三索サンソーを引く。これは混一色に行けるかもしれない。八萬パーワンを切る。


 その次。七索チーソー。ああこれは最短で混一色をアガれるかもしれない。なんという引きの良さだ。切りは九筒キューピン


 その次。六索ローソーを引く。普通ならそろそろ萬子、筒子を引いてしまって手が止まる頃だが、まるでその気配はない。切りは七筒チーピン


 揃ってはいないが染まりはした。


 その次。八索パーソーを引く。西切り。

 その次。三索を引く。北切り。


 この時点の手牌。

 發三枚、中一枚、あとは索子で、233446788。

 一向聴イーシャンテン


 普通ならこのままでも満足な結果である。しかし、後輩君の運気なら、もっと大きな仕事ができる気がする。


 次ツモ。また八索を引く。中を切ってテンパイした。その次のツモ、後輩君は五索ウーソーを引いたが、


 後輩君が首を傾げている。余計なこと言うなよ?


 ちなみに同僚A、Bには序盤の捨て牌から混一色だと悟られている。だから彼らは索子をまったく切ってこない。ただ後輩君の引きの良さがあれば鳴きに頼る必要はないだろう。


 次のツモ。六索を引いたので、七索を切る。


 その次。二索リャンソーを引く。


 まじか…。ほぼ最短で緑一色リューイーソーテンパイしたぞ…。

 待ちは六索と八索。


 よしこのままツモアガリしてしまおう。同僚A、Bは索子を警戒してるから振り込んでくることはない。ツモアガリすれば親の同僚A氏が一番打撃を受ける。

 ふはははは。死ねばもろともじゃー!


 と、思ったら


 あ、馬鹿!

 なにをする!


 私が止める間もなく、リーチを宣言した私の代役である同僚A氏は


 あー。


 あーあ。


 私が五索切ってるし筋だから大丈夫だと思ったんだろうな…。たぶん同じ状況なら、私も同じ行動を取っていたと思う。


「ロン…です」


 私が言うと、同僚A氏は絶望感に満ちた表情で私を見た。まるで至近距離でライオンに気付いた草食動物のよう。

 そんなに怖がらなくてもいいんだよ?


 私は牌を倒した。緑に染まった美しいアガリ。

 同僚A、Bは呆然。

 後輩君は何も分かっていないのでにこにこしている。


「あははははははははははははははは!」


 私?

 笑いが止まりません。


 人の牌を操って、自分に役満直撃とか、古今東西聞いたこともないマゾプレイである。


 そして言うまでもなく。

 狂乱が始まるのであった。

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