第4話 -侍、異国?の街を行く-

 馬車に揺られる道中、袖すり合うも他生の縁……なのかは不明なところではあるが、お互いの話で会話に花が咲く。

この国は、パトリア皇国と呼ばれる大陸でも1、2を争う大きな国で今いるところはその交易が盛んな中継地区のリンサイテスという場所だそうだ。


本当に知らない場所にいて混乱を隠し切れないでいる侍。


「大丈夫ですか? お水、飲みます?」


「かたじけない……」


革袋に入った水を一口含み心を落ち着ける。


「その様子ですと本当にここがどこでどうやって来たか記憶にないんですね」


「ああ、拙者は日本と呼ばれる島国の函館から江戸へと帰る道中だったはずなのだがフリア殿は、そこがどこがどこだかはわからない……でござるか?」


「フィリアです! でもお力になれずすみません。ただ、町でだれか知ってる人がいるかもしれませんね。私は、この町から依頼で行く場所ぐらいしか知りませんので遠くの国の依頼を受ける傭兵がいたら話を聞けるかもしれません」


「そうか、ありがとう。少し元気がでた」


今や浪人の身、見事に武士の時代は終わりを告げ、その遺物である侍達は、ことごとく死んでいった。

どこであろうと関係はないが、これからどう生きていけば良いものか。


 リンサイテスの町へと着いた侍とフィリア。

大きな門を潜り抜け、中へと入った途端に度肝を抜かれる侍がそこにいた。


「これは……」


城壁のような大きな門潜り抜け、侍を出迎えた建物は3~4階はある西洋建築、がずらっと並ぶ通りに多くの人々行き交う活気ある町だった。


中央の大通りは馬車が行き交い。奥の大きな広場には動物や背中に羽の生えた人を象った彫刻のある噴水があった。


「ほぉおおお!! でかい!でかいぞ!! あの綺麗な建物は、いったいなんだ?! それにあれは、いかようにして水が噴き出ているのだ? う~む、とても興味深い……おお!! あの食べ物は一体なんだ! ふわっふわだぞ?!あの者たち見たことのない鎧を着た連中がおるが何者だ?!」


年甲斐もなく、興奮する田舎者にドン引きのフィリア。

馬車にゆられ町を行く二人は、リンサイテス中央広場へと向かうのだった。


「ちょっと興奮しすぎですよ! あの白い建物は、デグニス教の協会で水が出ている中央のオブジェは噴水! そしてあの屋台の食べ物はリンサイテス名物の卵を甘くしたオムレッテと言います。そして!! あの鎧を着た人たちは騎士団の方々です!!!」


「ほお……」


「気が済みました?!」


「きしだん、とはなんだ?」


「えぇ……本当に何も知らないんですね。騎士団って皇帝や貴族をお守りする人たちのことですよ。それでも、冬真さんの腕前を見ると剣に携わっている方ですよね?」


「ああ、剣術道場で幼いころより鍛錬を積み重ねてきた」


「道場?……なら、この国の皇帝直属の7人の騎士の名前くらいは聞いたことあるかと思いますが────」


にぎやかな場所の前へくるとゆっくりと馬車が止まり御者が声をかける。


「お二人さん、着きましたよ」


降りてフィリアは、御者へと向きお辞儀をした。


「ありがとうございます!」

「今回は守れず、すみませんでした……」


「いやいや、お金がないってこれだからね~」

「安全に行きたきゃもっと雇っておくのがベストだって思い知ったよ」

「お互い命拾いしたのを機にがんばろうねぇ」


「はい!」


荷台を降りて御者に挨拶を済ませ、読めない字で書かれた大きな看板を掲げている建物の前に来る。


「冬真さんは、これからどうするのですか?」


「まずは、日本へと帰る手がかりを見つけようと考えているのだが、何分初めて来た土地故、どうしたらよいか。それに……」


「それに?」


「フィリア殿が喋れたり聞こえるようになる魔法をかけてもらわないと某は、なにもできなくなってしまうでござる……」


「そうですね……私、ギルドで依頼失敗の手続きをするからちょっとまっててくださいね! そのあとで少しお話をしましょう!」


「かたじけない、承知した!」


ガラス張りの観音扉を開けて中へ入っていくフィリア。

一方冬真は、江戸や京都の街並みとは全く違った西洋の建築と行きかう人々に戸惑いながら好奇心を高鳴らせていた。


ギルドとはいったいなんなのか、依頼といっていたが傭兵という家業は頼まれた仕事をこなす職業なのか。この国は、日本にはない文化ばかりで新しい物が満ち溢れている。


そこから半時ほどしてフィリアが戻ってくる。

横には栗色の短い髪で珍しい眼鏡をかけた長身の女性がいた。


「おまたせしました!」


「その方はどなたでござるか?」


「はじめまして、冬真さん」


「彼女は、私の友達でこのギルドで依頼の受注や発注、管理をしてる受付の方ですよ!」


「うつけ?」


「おほん、私は、レイラ・アミルダと言います」

「ギルドをご利用される際はいつでもお声がけください」

「それでですね!」


目の色を変えて手を合わせたレイラという女は提案を持ち掛けてきて一通り説明を終えた。


聞いてもいまいちわからないという顔をする侍に対してレイラが要約する。


「話を整理しますと今、身寄りもなくて放浪している真のホームレス生活を余儀なくされている身元不明の男性であると判断しまして、よろしければうちで傭兵になって行かれませんか?」


ほーむれす?、相変わらず言葉の節々で単語の意味を理解することに悩まされるが、傭兵とはフィリア殿の今の家業であるはずだ。


武士である某がそんなやすやすとなれるようなものなのだろうか。


「すまぬ、拙者そんなに頭は良くない故、内容はあまり理解できていないが拙者にも傭兵が務まるのでござろうか?」


するとくすっと笑いその疑問と不安を軽く押しのける返答が返ってきた。


「ちょっとした書類と身体能力検査を受けていただければ、こちらの傭兵である証とドッグタグを差し上げます」

「これらをお持ちいただけたらパトリア皇国内のギルドでの仕事の受注が可能になりますので今のあなたにうってつけの話だと思いますよ?」


「う~む、つまり身元の保証とここと同じような場所にて仕事をもらえるということなのか?」


「そうなりますね」


なるほど、悪くない話だ。

もしも、ここで傭兵になるなどぬかそうものなら武士の誇りはどうしたがうんたらかんたらと師匠の言葉が聞こえてきそうだが、腹が減っては戦は出来ぬ。


それに日本への情報を得るにはうってつけの申し出だろう。


渡りに船とはこのことか、船が泥船でないことを祈るしかないが断る理由もない。


「その話のった!!」

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