第2話 -Samurai Now loading-

この奇妙奇怪な板は一体なんなのか。

薄く伸びた藍色に刻まれた文字


『Now loading……』


見たこともない文字だ。

しかし、小耳にはさんだことがある。


長崎へと赴いたときに南蛮人が、このような綺麗なミミズが這いよる文字の書かれた文を携えていた。


どこか絡繰り仕掛けめいた雰囲気のあるミミズ文字。


また、突然「リーン」という聞きなれない音が鳴り響き複数の文字が羅列される。


────生命インストール完了─────

姓名:釼崎 冬真(けんざき とうま)

種族:アドラス

性別:男

職業:侍

世界線人物構築完了。

スキルビルドアップ完了。

スキルツリー生成。

スキルボード生成完了

インベントリ構築完了

能力値解析完了

装備解析完了

言語設定:日本語(山の手言葉)

魔力解析完了

魔法ツリー生成。

────魔法ボード生成失敗────


開いた口がふさがらないとはこのことを言うのだろう。

某は、今何を見せられて何をされているのか全く理解ができなかった。


刀を構えてもう一度板を斬るが斬った感触もなければ、そこに存在しているという感覚さえなかった。


もしや……


幽霊?!。


今まで斬り伏せてきた浪士や役人達の怨念が積み重なり、薄い板となって拙者に復讐をなさんとする亡霊なのか!!


となれば合点が行く。


殺したいと思って斬ってきたわけではない。


ただ、新時代を築くべくという名目で虐げられてきた人々や某の育ての親がたどった悲しい人を出したくない。

子供たちが笑って先を見通せる未来を守りたい。


そんな思いで刀を振るってきた。


しかし、ふたを開ければどうか。

昔の子供たちが多様な夢を見て育っただろ大人を斬り捨てて、己が理想を貫き、あまつさえ人の命の重みが分からなくなってしまったではないか。


つまるところ、どんなにきれいごとを並べようとも人を殺したという事実と罪状は変わらず己の過ぎた理想を押し通した屑のような人間だ。


何が活人剣だ。

人を守る護剣だ。


某は斬られて、殺されて当然の人間。


報いを受ける時が来たのであろう。

最期には、優しすぎる程のふかふかの草を座布団に正座をして首を差し出し報いを待つ。


……


『こっこー! こっこー!』


変な鳥が鳴いている。


半刻ほどすぎただろうか。

一向に拙者を裁く刃もなにも来ない。


あるのは目の前に『準備完了』と書かれ文字の部分が飛び出したように見える藍色の板だけがあった。


じゅんびかんりょう?


そうか、武士らしく。

せめてもの情けに最期くらい己の手で……


この文字が点滅しているところを摩ればいいのだろうか。


ゆっくりと文字をさする冬真。

すると、煌びやかなエフェクトと供にいくつもの板が冬真の目の前に現れ、びっくりして後ろにのけぞる。


「っなっなっな、んぁああ!?!?」

「なにごとじゃぁああ?!」


しばらくして冷静になる冬真。

ええい、ままよ!っと恐る恐る手を伸ばし板に触れた。


感触がある。

冷たいような冷たくないような、刀で斬った時の感触のなさとは裏腹にしっかりとそこに存在する板があった。


そして、ずっとついてくる板を視界のいろいろなところに移せるということがわかり装備やアイテム? といった文字を触ると違う板が現れ、板の右上に濃い青で表示された×印を触ると板が消えた。


いろいろと板を見て触って消してを繰り返していたらすべての板を消してしまい一向に現れなくなる。


「あの板……怨霊ではなかったようだ」


そして、生きている。

なにかを忘れているような気もするが、とりあえず今ある生に感謝するとしよう。


さて、ここがどこだかわからない。

懐をまさぐり財布を取り出す。


合わせて2円ほどのお金が入っていた。


一人にしてはとても多すぎる大金。

ここが日本のどこであれ宿に困ることはないだろう。


2円……

はて、こんな通貨だったか。


少しうろ覚えの記憶をたどるが思い出せない。

そして『まあ、いいか』と立ち上がる。


こうして、人斬り侍で若干小金持ちである釼崎 冬真(けんさき とうま)は今まで見たことのない手入れでも行き届いてるかのような綺麗な森の中を宛てなく歩くのだった。

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