第27話 豊穣祭へ向けて


 師匠のお陰で、本当の神社の場所がわかったのだが、ずっと放置してあったので荒れているだろうと、1人で神社の整備に訪れたシオン。

 師匠は、1人で狩に出かけている。

 里のみんなもそれぞれ仕事が割り振りされて、余ったシオンと師匠は概ね肉の調達係、すなわち狩人なのである。



 神社に奉納する鹿はまた後日捕まえる事にして、今回は里のみんなの食卓に並んだ。

 里の決定で、奉納は正式な豊穣祭りとして行う事になる。

 豊作を願う祭りだ。


 神主は、領主が手配してくれるのだが、シオンの領地から派遣して貰うのだ。

 寂れた神社を復旧するからと、隣の領地に神主の移住を打診した所簡単に許可が下りたのだ。


 神主の仕事は、生産を伴わないので領地の税収に影響が無い。

 その為の厄介払いとして考えたらしい。


 シオンの放っている式神の調査によると、神主の移住についてのこちらの領主からの補償金が決め手になったようだ。


 この件について表立って向こうの領主が動くことは無かったのだが、領主様々である。




 シオンが山の中腹まで登りながら道の草を刈って整備していくと、平らな場所にぶつかった。


 広場の奥には台座らしき平たい石と大きな石柱が立っている。

 建物らしき物は一切無かったが、周りの様子が師匠に聞いた通りだったのでここが神社跡地で間違いないであろう。


 ここに人が入らない間に生えてきた木を切り倒し、草を刈って土地を整える。

 切り倒した木の切り株は放置したが、腰を屈めて作業するので地面から少し高めに切った結果、簡易な椅子として使うことが出来るのは偶然の産物だ。


 難を言えば、この椅子の配置が滅茶苦茶なことである。




 その夜、シオンは夢を見た。

 昼間見た神社の広場で舞を舞うお爺さん。


 舞といっても剣舞である。


(あの剣は・・・)


 シオンはあの剣に見覚えがある。

 神社のしきたりは知らないが、何となくあの剣は重要なのだと感じたのだ。

 飾りの無いシンプルな物であるのだが、領主である父がいつも大事そうに磨いていた。


 その剣は人を斬る物ではないらしく、手入れが済むと倉庫に仕舞われる。

 高価そうなケースに入れず倉庫で剥き出しに置いてあるのは、防犯を兼ねての事だろう。




 朝、シオンが目を覚ますとそんな事を覚えていた。

 師匠との日課の朝練を終えると、紙を用意してシオンは新たな式神作りを始める。


 今回作ろうとしているのは鳥とネズミだ。

 ネズミを作り鳥に運ばせてあの剣を探すつもりなのであるが、果たして上手くいくのだろうか。


 式神はシオンの思い通りの働きをしたので、結果は充分なものだった。

 当然の事なのだが、これで満足する時点で、シオンはまだまだという事である。

 式神が侵入した屋敷は改築され、シオンが住んでいた頃と随分と変わっていたが地下倉庫はそのままだったし、倉庫内にあるはずの剣も棚の上に埃をかぶって放置されている。

 飾りも無く刃の無い剣が重要だと誰も思わなかったのが幸いしたようだ。


(あとは、どうやってこちらに運ぶかだなぁ)


 式神に重いものを持たせるのは、今のシオンの術レベルでは無理であるが、シオンが『うーむ』と考えていると、頭の中にスッと浮かんだことがある。


 式神を基準として自分の場所を入れ替える術である。

 式神を使った転移といってもいいだろう。

 上手くいけば、倉庫に移動して剣を取って帰ってこられるのだ。


(素晴らしい。前もって式神さえ放っておけば何処へでも行けるぞ)


 シオンはそう思ったのだが、先ずは術の確認である。

 使えなければどうにもならないし、使い勝手もわからないので、最初に近距離での実験だ。





 シオンが確認用に数種類の式神を作り、数メートル先に置いて術の実験をしたところ、式神の種類による制限は無いようだったし、問題なく式神とシオンの位置が変わることがわかった。


 次に確認するのは術の影響する距離であるが、一々移動して式神を置いてくるのは効率が悪いので、鳥の式神を飛ばして利用する事にした。

 初めは100メートルから始めて、数キロごとに確認しているが、流石に距離が伸びると次回の術を発動するまでの空白時間が必要なのだと判明した。


 異動先は式神の視覚によって確認できるので、魔術よる転移と違って確認済みの安全な場所に移動できる事は大きなアドバンテージである。

 それに、持ち物の重さが増えるほど回復に時間がかかるという事実もわかったので、軽くするために出来るだけ持ち物を減らす必要がある。



 もし、シオンの領地まで跳んだとしたら、また回復して術が使えるようになるまで帰れないのだ。

 ネズミに化けた式神によって、刀の置いてある倉庫に人が来るのは確率的にも低いとわかっているのだが、それでも最悪の状況を想定しておかなければならないと思う。

 もし、見つかりでもしたら、いくらシオンの実力が上がっているとしても対処不可能だ。


(うーん。術を連続使用できないのがネックだなぁ。誰かに会うかもしれないから次に使えるようになるまで倉庫から出るわけにもいかないし・・・。他に使える手はないのだろうか)


 シオンが悩んでいるが、今のところ他に思いつく方法は無いので、地道にスキルアップしてこの術度を上げていくしか無いのだと思う。

 それだけの価値がこの術にはあるのだ。


 試しにこの里から刀の置いてある倉庫までの直線距離と同じ距離で試してみたところ、再度術が使えるまでになるには約半日かかる事が判明した。

 持ち物などで移動対象が重くなれば、それだけ術の再発動に時間が必要になるのだが、刀の重さくらいなら気になるほどの変化はなかった。

 もし、屋敷に居る敵に見つからないにしても、半日の間狭い地下倉庫内に潜むのは、生理的現象もあるし精神的にも厳しいので、特訓開始だ。





 里の開発に関しては、シオンが望む形をみんなが共有したので任せていても順調に進んでいる。

 最も、ここまで丸投げできるようになるまでに、地図上で意見を戦わせ、それが落ち着いたら里が完成した模型を作って問題点を洗い出し、再度協議するという気が遠くなるような作業をしてきたのだ。

 仮設集会所の真ん中に、この模型がドーン!と置いてあり、誰が見てもこの里の将来が丸わかりである。


 この里の将来の可視化によって、ここの開発者たちみんなが意思を共有することが出来たので、バラバラに作業しても効率がいい。

 今は、急ピッチで道や上下水道、温泉水の配管作業が進んでいるし、それに合わせて農地開発や建物の建築も並行して行っている。


 開発が進むにつれて里が、いや街が形成されていく。

 建物は、公共的な物や戦略的な物を先に手がけているので、完成が楽しみである。





 シオンは、師匠に無理を言って狩の仕事を免除してもらい、移動訓練をひたすらに1週間ほど繰り返した。

 近距離移動を繰り返す事から始め、経験を積めば術の再発動までの時間が短縮される事も確認したので、それからだんだんと距離を伸ばしている。

 危険は伴うが、この術を使えば敵の大将の寝首をかくなど容易い作業なのだが、それは今回やるべきでは無いのだ。



 今は、あの地下倉庫との往復は1時間ほどで可能だろう。

 もう少し訓練してもこれ以上は時間が縮まりそうになかったので、誰もが寝静まった深夜に実行する事にした。













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