第22話 ここからが大事なところだ


「よろしいですか ナイトさま。いえ、シオンさま。少しお話ししておきたい事があるのですが」


「あなたは、確かカズマさんでしたね。先ほどあなたがここに住んで僕を指導してくれるように領主にお願いしたところなのですよ」


「あっ。俺の事はカズマと呼んでください。本当ならお頭と呼ぶべきかもしませんが、本当の身分を隠すのと人目もありますので、ナイトと呼ぶことをお許しいただけますか 」


「その事なのですが、僕はあなたを師匠と呼ぶ事の許可を取ろうとしていたのですよ」


 と笑い合った。

 お互いが同じようなことを考えていたようだ。





「確かに、カズマとナイトよりも師匠とナイトの関係の方が自然に感じるなぁ。そういう事にしよう」


「それでは、これから師匠と呼びますね」


「じゃあ、それでお願いしよう。俺も敬語をやめてナイトと呼ぶからな。では話を始めるとしよう。すぐ終わりますから領主様も一緒に聞いてください。」


 かしこまったカズマが話し始める。


「あの事件の時にまだ13歳だったこの俺は、この村の事について知っている事は少ない。けれども、この村の長が隣の領主である事は村人全員が知っている事だった。そして、この村に暮らしていた者は、暗部として長を影で支えてきた。この村の技術は、呪術と暗殺なのだよ」


「それは領主の敵となる者を排除していたという事ですか?」


「それほどの事でもない。わかっているとは思うが、隣の領主は特に国の中で目立つ立場になかったからな。それに領地が辺境と呼ばれる国の端っこだから敵となる者が現れる方が珍しい。今思えば、領主は実力があるのにわざとそうしていたようだがな。この村に住む住人の力を使えば王都など陥落させるのは簡単だっただろうし」


「そうしなかった理由を知っていますか?」


「いや、領主を含め、この村全てが目立たないように気を使っていた。だから他の村などとはあまり接触を持たなかったのさ。俺は暗殺専門の家系に生まれたので呪術はほとんど知らない。村人の中で誰が何をできるのかさえ一部を除いては誰にも知らされなかったし、知ろうともしなかった。それが当たり前の村だったのだ」


「それで。あなたは暗殺についてどの程度できるのですか?」


「あの事件の時に俺は成人したばかりだったから、まだ暗殺技術も秘術となる所までは教わっていなかった。もし、暗殺秘術を知っていたら俺がスズタカとエトウを殺っている。今の俺はスズタカに近づく事さえ出来なかった。だから今回の事は悔やまれてならない。運命が少しだけでも味方してくれたならこんな悲しい事にならなかったはずなのだからな。ナイト。俺の事は少しだけ武術に秀でていると思って貰えばいい」


 カズマが急に真剣になる。






「ここからが大事なところだ。俺も聞きかじった内容だから詳しくは無いのだが。隣の領主であった村の長には特徴があるそうだ。ナイトは自覚していないみたいだが、俺は一目で納得した」


 ここで大きく息を吸う。

 そして向きを変えて領主へ尋ねた。


「領主様。いろいろあったにしても、ここまで自分がナイトに対して立ち入るなど不思議でないですか?今までそんな事はなかったし、これからもナイト以外ならありえない事だと思いませんか?」


 カズマが領主に疑問をぶつける。


「言われてみれば、確かに。たとえ愛する娘から真剣に頼まれても、人に対してこんなに親身にならないだろうな」


「そうです。この村の長となる者には、魅了の力があるのです。それをナイトには意識してもらわなければなりません。今までは与えられるばかりだったのでしょうけど、これからは意識してその力を使い、相手から奪う事も覚えなければならないのです」


「人格者であるナイトでなかったなら、恐ろしい事態になりそうな力だな。例え人を超えた力を得ても、1人でできる事には限りがあるが、そんな者たちを味方にする事ができる能力なのだからな。だからこそ高い教育を施していたのだろう」


「領地を治める領主様であればわかるでしょう。誰もがナイトに一旦魅了されれば命をも捧げるのさえ苦にならないのですから。ただ、村にいた頃、魅了にも種類があると教わりました」


「どんな種類なのだ 」


「ナイトよ。よく聞いてくれ。例えばだが、可愛い子犬に出会ったとする。

『可愛い。飼いたい』と思った時点で子犬に魅了されているのだ。だから何かがあれば、この子犬のためにしてあげたいとは思うだろうが、それは子犬が自分の管理下にあっての事。子犬の下についたわけではない。これが今の君の状態なのだ」


「つまり魅了は、魅了された者に対して自分を投げ出すか、自分の物にするかの2とおりが存在するという事なのだな」


「そうです。だからこそ自分が優れている点を強調しなければなりません。魅力的なだけではダメなのです。それに世の中には魅了に対して強い妬みを持つ者も存在するのです。それはナイトにとってマイナスになります。この村の者はそれを排除する事を専門にしてきたのです」


「それで、僕はどうしたらいい?」


「まずは、自分を知ることからだと思う。自分のできること、自分に不足していることを知ることから。俺が昔聞いた長の特徴は、自己の分析に長けていたということだからな」


「それはもう把握しているとしたら?ここに来てから自分の事を色々考えることもあったんだよ」


「えっ?」


 カズマは驚いた。

 この人物はすでに自分の考えのはるか先にいると。

 実際は、自称神の導きによるものだが、それを話すわけにはいかない。


「すみません。俺はまだまだ未熟でした。あなたを弟子として指導できる立場ではありません」


「ごめんなさい。意地悪したつもりはないのだけど。僕が知りたいのは、師匠の持つ技術と、この土地がどのようなものかなのさ。僕自身の事じゃない。そこはちゃんと把握しているよ。だからこそ、ここに留まっているのさ」


「そうですね。それなら俺と拳を交えるしかないでしょう。言葉でならなんとでもなりますから」


「そうだね。僕の実力も知って欲しいし、何より余興としても盛り上がるだろうし」


 そう言ってナイトはニシシと笑って領主を見つめた。

 彼に戦闘狂の素質があるのだろうか。


「わかったよ。仕方ない奴らだ。いろんな面を見せてくれるわ。それに乗ってしまう、俺もどうかしているのだろうな」


 領主は、重い腰を上げた。

 広場の中央に戻った領主が声高らかに宣言する。


「さあ、みんな聞いてくれ。ナイトから提案があったので、ここで余興を行う。余興は模擬戦だ。先ほどカズマが参加の意思を示したのだが、他にもいるか?武術に魔術、殺さなければなんでもありだ。でもあまり大ケガさせるなよ。それに余興だから褒美を期待しても何も出ないからな」


「はい。それでいいです。参加します」


「おっ。俺も」


 酒が回っているためか、領主の護衛たちはこぞって参加を申し出た。

 千鳥足の者もいる。


「お前たちなあ。少しは遠慮したらどうだ」


 領主は呆れ顔だが、楽しみにしているのは間違いない。

 剣は危ないので木の棒が剣代わりだ。


 審判は希望者が行う事となった。

 くじ引き順で次々と試合が行われる。


 やはり、酔っ払いは威勢だけ。

 ヨロヨロしながら戦っている。


 だが、それも面白い。

 観客ははやし立て、場を盛り上げる。


 ナイトの番が来た。

 観客が静まる。


 みんなナイトの対戦に興味があるのだ。

 相手は魔術師であり、護衛として2番目に強いらしい。

 遠距離魔法を得意としている。


「はじめっ」


 審判の合図とともに閃光が走り、その眩さに目がくらむ。

 魔術師は事前に詠唱していたようだ。


 光の消えた後、ナイトは元の場所に居なかった。

 ナイトは一瞬にして魔術師の元に移動して倒したらしい。

 気を失った魔術師が足元に倒れている。


「何が起こった?全く見えなかったぞ」


 ザワザワとする観客たち。

 ナイトの動きが見えたのは数人。


 魔法で自分の素早さを上げた上、そのスピードで一撃を加えたのだ。

 熟練魔術師が気絶するのも無理はなかった。










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