第3話 もう、何なの?


「もう。あなたたちは。いつから見ていたの?」


「ヒスイが服を脱ぐところから」


「バカッ。エロガキッ」


 ゴツンと2人の頭ににゲンコツが落ちる。

 正直に答えたのに痛めつけられた。

 まあ、答えなくても殴られることをしたのだが。


 それから、ヒスイの魅力に勝てず覗いてしまったと言い訳し、2人して可愛かったとか綺麗な体だった、それ程魅力のあるのが悪いのだとヒスイを褒め称えると、覗かれた事へのヒスイの怒りは徐々に収まってきたようだ。


 次々に褒め言葉を並べる2人に、今は覗きの現場を押さえたヒスイも流石に呆れ顔である。


「次からは覗かないでね。裸を見られるのって恥ずかしいのだから」


「ごめんなさい。もうしません」


 もちろん嘘である。

 性欲の権化と化した男の子2人に我慢できるはずがない。

 それで次の日からは、ヒスイの沐浴の場所から少し距離を置く。

 覗き常習犯の2人は 全く懲りていなかったのだ。


 この場からは目を凝らしてもなかなか見えない距離だ。

 厳しいがヒスイに警戒されているのでこれ以上近づくことができない。

 その分覗きに集中し、見えないところを想像して補うしかないのだ。



 こうして遠くから覗く事に毎日の日課が変更された。

 お陰で集中力と想像力がますます鍛えられていく。


 離れた所から必死にヒスイの体を凝視し、よく見えなかったところは想像力で補う日々を過ごしているのである。


 そのせいなのか、屋敷で教えてもらっている武術も魔術も急激に成長していく。

 ヒスイの裸や若い街の人たちの裸をよく覗いているらしい騎士団長は別にして、毎日指導してくれる魔術師長はシオンの成長に驚いていた。


 集中力と想像力は魔法の基本である。

 どれだけイメージが固まるかで威力が変わるのだ。

 エロの力は偉大なのである。


「今日もヒスイはエロかったなぁ。ちょっと膨らんできた胸なんか柔らかそうに育っているし、あれは俺たちにとって凶器だな。シオンは触ってみたいと思わないか?」


「もちろん触りたいが、どうやっても無理だろう?触るのが無理でも僕はもう少し近くで見たいな。でも、ヒスイは勘がいいから音消しの魔法でも近づくのは無理だろうなぁ。あの場所は他に隠れるところがないし。姿を消す魔法もあるらしいから師匠に教わろうかな?」


「そんな便利な魔法があるのか?ぜひ教わって来てくれ」


「いや、師匠に言い出すタイミングが難しいよ。だいたいいつもヒスイが師匠に同行しているから、迂闊に話すと裸を見るためだと感づかれる。もう何度も覗きをヒスイに見つかっているし、そのヒスイに僕たちは警戒されているようだからね。あれを誰にも話さないのは、ヒスイの優しさなのか僕たちの弱みを握っていたいのかわからないけど」


「そうか。でも、魅力的な魔法だ。是非とも教わりたいねその魔法。誰か詳しい者はいないかな」


 今日の覗きについて2人で話し合う。

 この反省会までが日課なのだ。




 ヒスイの沐浴が終わり、服を着て去った後にコソコソと家に戻る。

 案の定、今日も母がお冠だった。


「毎日毎日勝手に家を抜け出して。今日は、先生が1時間も待っているのよ」


 今日は、算術の勉強予定だった。

 時間よりも早めに来てくれる先生には申し訳ないが、自分にはエロの方が重要だ。


「奥さま。もう、その辺で許してあげてください。坊っちゃまもわかっていると思いますよ」


 僕に優しい給仕長が援護してくれる。

 あとでお礼にお菓子でも分けてあげよう。


 無事に算術の勉強を終え、夕食になる。

 料理を食べ終えると父から新発表があった。


「ヒスイがとなり村の村長との婚姻が決まった。シオンが魔術訓練する相手ができるのも来週いっぱいだな」


「えっ。父上、それは本当ですか?隣村の村長って結構な歳ですよね」


「そうだな。村長は再婚だから仕方ないだろう?親子以上に歳が離れているが、その分可愛がってくれるのでヒスイも懐いている。それにヒスイにとっては、いい話じゃないか」


 確かにとなり村は、新たに鉄鉱石の鉱山が見つかり急激に発展したので、活気に満ちている。


 増えた人口はこの街に匹敵するくらいだ。

 もう村とは呼べない状況なのである。


 ヒスイは11歳になったばかり。

 生理があれば十分に子どもが産める歳なのだ。


 人の命の軽いこの世界では、10歳で結婚する事も普通にある。


 次の日、いつもどおりに訓練の時間がきた。

 今日は、騎士団長も魔術師長も不在なので、子どもだけでの訓練予定だ。

 昨日の話について、せっかくだからヒスイに確認したら、事実だった。


「ヒスイ。父から聞いたのだけど、もう魔法を僕に教えられなくなるんだってね」


「そう。いつかは話さないといけないと思っていたけど知ってしまったのね。私、この街の隣にある村の村長と結婚するの」


 この話を初めて聞いたコオタは、驚いている。


「えっ。ヒスイ。本当か?」


「仕方ないじゃない。親が決めた事だから」


「でも、隣の村長ってお前の父親よりも歳だろ。それにハゲ親父だぞ。いいのか?」


 コオタが食いついてくる。


「うん。今まで男の人と付き合った事なかったのは残念だけど、初めてなのにいろいろと優しくしてくれたよ。もう何回かお泊まりしたし」


「そうかぁ。ヒスイはもう経験済みなんだな」


 僕には何のことかわからなかったが、コオタはかなりのショックを受けていた。

 コオタとしては、歳下のヒスイに気があったのだろう。

 何であんなオヤジハゲなんかと下を向いたままブツブツいっている。

 こんなにポンコツな状態のコオタなら、しばらくは使い物にならないだろう。

 これでは訓練どころではないし、仕方がないので放っておこうと思った。




 それから数日間、覗きは中止となったというか、ヒスイが川に現れなかった。

 もう、村長のところで暮らし始めたのかもしれない。


 コオタは未だに傷心中である。

 復活にはまだ時間がかかりそうだ。

 それでも僕は、毎日の訓練ノルマはなんとかこなしている。

 ちゃんと訓練をやっておかないとヒスイがきた時にからかわれそうなのが嫌だ。





 そして週末。

 コオタとヒスイが久しぶりに顔を合わせ、騎士団長と魔術師長の立会いのもと、模擬戦が行われた。

 親の前では流石にコオタも惚けていない。

 手に持つ木剣の動きがいつもより鋭いのだ。


 ヒスイは、慣れた魔法については詠唱すらしなくても魔法を発動する。

 この2人を相手にするのも今日が最後だ。

 コオタは大丈夫だが、明日からヒスイは来なくなるのだ。

 それを思うと、少し寂しくなる。




 僕はこの2人みたいに奥義を覚えるような厳しい訓練は受けていない。

 武術と魔法はどちらも身を守る事を重点に教わってきた。

 その事に気がついたのは最近だったのだが、今思うと、領主となる者への配慮だったのだろうと思う。


 そのような事をツラツラと考えていると、そこに慌てた兵士が飛び込んできた。


「騎士団長。大変です。となりのスズタカ領からの宣戦布告です。」


 兵士が役所から緊急で飛び込んできた時には、すでに遠くに火の手が上がっていた。

 となりの領主スズタカは、欲深く、前からこの領地の肥沃な土地を狙っていたのだ。

 今までも何かと理由をつけ嫌がらせをしてきていたのだが、このように攻め込んできたことは今までなかった。


 家に戻ると領主である父は、すでに戦場に向かった後だった。

 母が僕を待ち構えている。


「お父様からの命令です。よく聞きなさい。コオタとヒスイは、この子を護って王都に向かい国王に保護してもらいなさい」


 伝言でなく命令なのは、今、かなり切迫した状況なのだと知る。


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