第15話 悪魔の力

 都内某所にある教会。

 礼拝堂では祈りを捧げる神父が居た。

 彼は懸命に祈りを捧げていた。

 そして、祈りを捧げ終えた彼は深刻な表情で天を仰ぐ。

 「悪魔の力を度々・・・感じる」

 彼はここ最近、感じる事に悩んでいた。

 彼が口にする悪魔の力とは、人ならざる力の事である。

 無論、これまで、彼がそれを感じた事など無い。

 しかし、彼は若い頃に教会の総本山である教皇領にて、厳しい修行を経て、神父になった経緯がある。その際に教え込まれたのが悪魔についてであった。

 如何に敬虔な教徒であっても、悪魔となれば、心の底からその存在を信じる者は少ない。しかしながら、かつて、魔女狩りまで行った彼等は悪魔を酷く恐れていた。

 そして、悪魔の力とされる力を操る魔女の存在を恐れた。

 悪魔の力は神の奇跡と相対する力であり、それは信徒にとって、許すべき存在では無かった。

 

 そんな事を思われているとは露知らず、アリスは今日もみのり相手に魔法を見せていた。

 「ふふふ。魔法陣によって、更に魔力を多く集める事に成功したわ」

 魔法陣の上で炎が上がり、スタンドに置かれたフラスコの底を熱している。

 みのりがボコボコと沸騰したお湯をフラスコからカップへと注ぐ。

 「インスタントコーヒーの出来上がりです」

 みのりがカップを差し出すとアリスは満足気にそれを受け取る。

 「湯を注ぐだけでコーヒーが出来る。まさに魔法!」

 アリスはスティック砂糖を二本をカップに流し込み、匙でグルグルとかき回す。

 「このコーヒーは実に美味しい。最初は苦いだけかと思ったけど、飲み慣れると実に美味しいわ」

 アリスはみのりが持って来たお菓子をつまみながら大笑いをする。

 「でも、炎は最初の頃に比べて、かなり長い時間、燃えているようになりましたね」

 みのりは消え掛けの炎を見ながら言う。

 「そうだな。実に苦労したよ。お湯が湧かせる程にするのに魔法陣をどれだけ書き換えた事やら」

 「そんなに大変だったんですか?」

 「あぁ、私の知る限りの魔法陣は全てダメだったよ。やっぱり理が違うからまったく作動しないようだ。試しにこの世界の文字や数字、言葉を利用して出来たのがこれだ。やはり、魔法陣などは一から研究しないとダメねぇ」

 「そうなんですかぁ。でも、お湯が湧かせるだけ便利になったじゃないですか?」

 「この世界ならお湯を沸かすのはボタン一つで済むわよ」

 「確かにそうですけど」

 アリスのもっともな意見にみのりは照れ笑いをする。

 魔法よりも科学が遥かに便利さで上回る。

 アリスはそれを痛感しつつも、今更、魔法を止める事も無いので、こうして、魔法の研究を新たに続ける事にした。

 「ねぇねぇ。アリスさんは将来、どうすつつもりなんですか?」

 みのりはコーヒーを飲みながらアリスに尋ねる。それにアリスは少し困惑する。

 「うむ・・・それは最近、私も少し不安になってきた事なんだよねぇ」

 「不安?」

 「そう・・・不老不死では無くなったわけだから・・・多分、このまま、年老いて、死ぬんだろうなぁとは思うんだ。それに・・・この世界では頼れるのはあやつしか居ない。いつまでも居候ってわけにはいかんとすれば・・・何かしら働かねばならないのだろうなぁと」

 「おぉ・・・高校を出たら働くのですか?」

 「みのりは働かないのか?」

 「私は大学に進学かな。この学校は進学校だし」

 「大学?それは?」

 「大学は高校より上の学校だよ。研究したりもするんだよ」

 「研究だと?」

 「そうそう。色々な大学や学部があって、専門的な研究などをしてるんだよ」

 「ほぉ・・・この学校でも高い教育を施していると思っていたのに、更に上があるとは・・・さすがだな。それは私でも行けるのか?」

 「試験に受かればいけますよ」

 「むぅ・・・とても、興味がある。帰ったら隆に相談をしよう」

 「そうですね。でも何を学びたいのですか?」

 「魔法と言いたいところだが、この世界には無いからな。そうだな。科学関係が良いな」

 「じゃあ、理工系ですね」

 「理工系?」

 「科学者とか医者とかの分野ですよ」

 「なるほど・・・医者か。それは言いな。実におもしろい」

 「だけど、かなり勉強しないといけませんよ?」

 「そ、そうなのか?」

 一瞬、アリスの表情が強張る。

 「えぇ・・・うちの学校でも医学部とかだと上位じゃないと・・・」

 「むぅ・・・まともにテストをまだ、受けてないからな。ちょっと・・・勉強をしっかりとやらねばならんか」

 アリスは自らの知識がまだ、足りてないと自覚している為、テストに対して、自信が無かった。

 「中間試験まであと1ヵ月です。頑張りましょう!」

 「そうかぁ!中間試験があるのかぁあああ!」

 アリスは少し、絶望しそうだった。


 その頃、校門の前に一人の男が佇んでいた。

 「ここから・・・悪魔の力を感じる」

 男は校舎を眺めつつも、関係者以外立入禁止の札を前にそれ以上、踏み入れれずに居た。

 神父とは言え、全身黒づくめの男が不用意に踏み入れれば、不審者扱いになり、警察に捕まりかねない。そうなれば、上から何を言われるか解らない。下手をしたら、神職を失職するかもしれないのだ。

 彼はとても気になりながらも、その場を後にするしかないと決めて、苦悶の表情で立ち去った。

 そのあと、アリスとみのりが下校する為に校門から出て来た。

 アリスはふと、トボトボと帰る神父の背中を見た。

 「ふむ・・・気のせいか・・・あの男から魔力を感じるが?」

 そう呟くとみのりも気にして、神父の背中を見た。

 「魔力?あの人もアリスと同じなのかな?」

 「ふむ・・・どうかな?気のせいかもしれないし・・・」

 「ふーん・・・じゃあ、これからバーガー食べに行かない?」

 「おっ。いいな。隆から小遣いを貰ったからな。行こう」

 二人は神父の事を忘れて、一気に駆け出して行った。

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