第6話 魔法少女は勉強をする。

 翌日は日曜日。

 隆はアリスに請われて、勉強を教える事になった。

 「あいうえお」

 アリスはひらがなの読みを勉強していた。

 「そうそう」

 隆は小学生がやるようなドリルでアリスの文字を教える。

 因みにアリスの世界の文字を書いて貰ったが、何とも奇妙な文様にしか見えなかった。

 「文法も違うみたいだな」

 彼女の世界の言葉とは日本語は文法が違うようだ。彼女の世界の言葉は英語に近い文法を用いているようだ。

 「ふむ。どうやって頭の中で変換されているのか不思議だが、こうして、日本語が喋られるのは助かってはいるが・・・学習するには少々、邪魔だな」

 アリスは懸命にひらがなを書いて、文字を覚えさせている。だが、さすがに大魔法使いと呼ばれていただけあるのか、学習能力は高く、昼までにはひらがなとカタカナはほぼ、覚えて、更には簡単な文章もひらがなのみで書けるに至っていた。

 「疲れたから休憩にしよう」

 隆は背筋を伸ばしながら、アリスに尋ねる。アリスは高い集中力で慣れない字を必死に書き写していた。

 「アリスは根気があるね」

 「ふむ。昔から熱中すると他が見えなくなる質でな。しかし、異世界の言語を覚えるというのはとても新鮮だ。それにこの世界には私の世界に無い物が溢れている。どれを見ても新鮮だ。もっともっと、色々と見て回りたい」

 「ははは。まぁ、君の場合は色々と問題があるからなぁ」

 「問題?」

 「あぁ、異世界から来たから、君の戸籍とか身分を保証する物が無いんだ」

 「なるほど・・・確かに」

 「一番、困るのは病気とケガをすると、治療費がとても高くつくって事かな」

 「あぁ、治癒術を受けるには私の世界でもかなりの高額であったぞ?」

 「んんーとこっちもでもそうなんだけど、日本国民だと健康保険って言う制度があって、国が7割を肩代わりしてくれるんだ」

 「ほぉ・・・国がそこまで国民にしてくれるのか。それは面白いな」

 アリスは興味津々に聞いている。

 「だから、そういう公的な仕組みが受けられないとなると・・・任意の健康保険でも掛けないといけないのかなぁ」

 「なるほど・・・今のままでは何かあった時に危ういな。何か手を打たないといけないが・・・」

 アリスは考えるが、そんな簡単に答えが出るはずも無い。

 「まぁ、外国には戸籍も無い国だって存在するし、日本と国交がない国だと言って、役所に何とかして貰うしかないかなぁ」

 そんな楽観的な事を言いつつ、隆は昼食を作る為に立ち上がる。

 「うむ。今日は私が昼飯を作ってやろう」

 「出来るの?」

 「ははは。千年の時を生きたんだぞ?お前よりも遥かに多くの経験をしている。食事ぐらい容易い事よ」

 アリスは余裕の笑みでキッチンへと向かった。

 

 隆はアリスがどんな料理を作るかを楽しみにしながら、洗濯機を回した後、キッチンへと向かった。

 「んっ?」

 隆は冷蔵庫が開かれているのに気付く。そして、そこに蹲るアリス。

 「どうしたの?」

 気になって声を掛けるとアリスは困惑したように振り返る。

 「うむ・・・私の世界の食材はずいぶん・・・形が違ってな」

 「そ、そう・・・アリスの世界の食材がどんな形をしているかは気になるけど・・・無理なら僕がやろうか?」

 そう隆が言うと、アリスは立ち上がる。

 「ふっ・・・。バカにするな。こう見えても大魔法使いだぞ?例え、見た事の無い食材であってもそれが毒じゃないと解っているなら、しっかりと料理ぐらいしてやるわ」

 その勢いに隆は気圧されて、黙って居間へと向かった。

 

 数十分後

 「で・・・出来たぞ」

 アリスは少し恥ずかしそうに隆に言った。

 隆はその雰囲気に何かを察しつつも、食堂へと向かう。

 テーブルの上には幾つかの料理があった。

 「見事に黒焦げだけど・・・これは?」

 「肉と・・・卵と・・・野菜を・・・炒めた」

 その区別がつかぬ程に黒くなったそれを隆は眺める。

 「こっちの・・・スープは・・・飲めそうだね」

 ジャガイモやニンジンがかなり大きくゴロゴロした黄色いスープを見た。

 「そ、そうだろ。スープは自信があるんだ」

 そう言うアリスの目はどこか宙を彷徨っている。

 「あの・・・自分で料理したのって・・・どれぐらい前ですか?」

 隆は素直にアリスに尋ねる。

 「な、何の事だ・・・そ、そんなの・・・」

 アリスは何か口籠るのを見て、隆はジッとアリスを見る。

 「で・・・どれぐらい前ですか?」

 「うっ・・・」

 アリスは隆の目を見て、逃げられないと思ったのか、おずおずと答える。

 「そ、そうだな。数年・・・いや、数十年・・・ぬーと数百年ぐらい前かもしれないな。ふ、普段は私の元で働く者達が作ってくれるからなぁ」

 「なるほど・・・これからは僕が料理をします」

 隆は落胆しながら、そう呟いた。

 因みにアリスが作った料理は試しに食べた隆だったが、黒焦げだったり、火が通ってなかったり、味付けが塩が多くて、砂糖も多いなんて感じだったので、さすがに食べることは出来なかったし、アリスも同様に一口食べて、泣いていた。

 

 隆が改めて、料理を作り、昼食を取った後もアリスの勉強は続く。

 夕飯を考える時間までにはアリスはひらがなとカタカナを完全に覚えた。更に日本語の文章もある程度、読めるようになり、電子辞書を用いれば、漢字混じりの文章も何とか読めるまでになった。

 「よし・・・これなら、かなり学習が進むな」

 アリスは自信満々に成果を隆に見せる。

 「あぁ・・・だけど、まだ、知らない漢字は多いし、常識なども覚えないといけないことは山ほどあるけどね」

 隆にシレッと言われて、アリスは不満そうに頬を膨らませる。

 「解っている。これからはテレビや本を読んで、その辺をどんどん吸収する。そうすれば、すぐにこの世界で生きて行く力ぐらい、手に入る」

 「まぁ・・・そうなんだけど・・・」

 アリスがこの世界で生きて行くには色々と問題があるなと思いながら、隆はやる気を出しているアリスの為に何かをしてやろうと考えていた。

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