第5話
「おやすみさーちゃん」
部屋に着いた頃には半分以上寝ていた咲百合をベットに寝かしつけて寝顔を見ながら怒涛の1日を振り返る。
今朝まで内心もう咲百合を施設に預けてどこか住み込みの仕事を探さないとダメかなと思っていたところだったのに、咲百合と離れたくないばかりに所持金もほぼ無くなるまでズルズルして途方に暮れていたら不思議な光に包まれ、この世界のサンクート様に異世界転移を頼まれ何故かさっそく料理に終われて一日が終わるという本当に色々あった1日だったわ。
でも本当に食べ物関係は残念な世界でサンクート様が嘆かれるのも仕方が無いと思う。
それでもこうして穏やかな気持ちで咲百合の寝顔を眺めることができているのはサンクート様のお陰なのだ。
日本にいた時は無神論者だったけれど、サンクート様には祈ってもいいのかもしれないわね。
夜中に教会に行く訳にも行かないし、何処にいるかは分からないので窓から見える綺麗な月に向かって手を合わせ感謝を心の中で伝えた。
「さてと!明日の朝ごはんの仕込みをしちゃおうかしら。」
実はさっきの厨房で明日の朝ごはん用にパンをスライスしておき、調理器具からボウルのようなものを借りてきていたの。
そこにこれまた買っておいた卵、ミルク、砂糖は見つからなかったので蜂蜜を混ぜた液体にパンを浸して時間経過を操作出来るアイテムBOXを使ってみる。
さっきのフライドポテトもこれを使えばよかったけれどもバタバタしててすっかり忘れていたわ。
試しに10分経過させて取り出してみるとしっかりパンに液が染み込んでいたので時間経過の無いアイテムBOXに移し替えてから、日本から持ってきているジャージに着替えて咲百合の寝ているベットへ私も入った途端疲れていたみたいであっという間に寝てしまったのだった。
窓にカーテンが無いせいか、朝日が眩しくて目が覚めた。
しばらくは見慣れない部屋にびっくりして思わず隣の咲百合を確認したりしてしまったがスグに日本ではなかったことを思い出しそっとため息をついてしまう。
「ままぁ、おはよぉ」
「さーちゃんおはよう起こしちゃったかな?」
私が起きたことで咲百合も目が覚めてしまったらしい。
「ううんへーき、おなかすいたぁ」
ココ最近はあまりお金が無いのをなんとかくわかっていたのかお腹すかせていてもあまり言ってこなかったので、昨日今日と自分の気持ちが言えるようになってきているのはいい傾向だと思う。
「そうだね、昨日のご飯食べたお部屋に行ってまたママがサーちゃんの食べれるものを作ってあげるね。」
「うん!ままのごはんスキ!」
正直、結婚するまではあまり料理は好きではなく作らなかったのだが咲百合の為に料理をして喜んで貰えるようになってからはそれなりに作るようになっていたので簡単なものならレシピサイトを愛用して作れるようになっていた。
食堂に入ると昨日のメンバーが待ってましたと言わんばかりにみんな揃っていた。
「すまんが、また朝ごはんもお嬢ちゃんに作るんだろ?ついでいいから昨日のお客さんが作って欲しいそうなんだよ。」
「えっと…たいしたもので無いのでも良ければ…それと、甘いのもが嫌いな方は居ますか?」
「甘いもの!?アタイ大好き!」
やっぱり女の子は好きな子多いよね。
「私も甘いものは好きですから是非お願いします。」
ここにいる皆さんは甘いものは好き見たいなのでパンとミルク、卵は厨房にあったので急ぎ卵液にパンを浸してアイテムBOXで時間経過させる。
コンロいっぱいにフライパンをおき一気に焼いていくが、フライ返しがなかった。
オタマと木ベラはあるんだけれどもフライ返しってモノを考える人はいなかったみたい。
焼き目が付いたら仕方が無いので木ベラで何とかひっくり返して焼き、お皿に盛り付けたら蜂蜜垂らしておじいちゃんに運んでもらいもう一度コンロいっぱいに焼いていく。
2回目が焼けたら自分たちの分も持って食堂の席に着いたけれども先に食べていた人達が惚けていた。
「まま、おいちぃね!」
こうやって咲百合が幸せそうに食べてくれるのを見れるくらいには料理が出来るようになって良かったと思う。咲百合が産まれて離乳食を作ったりして美味しそうに食べてくれているのを見てレシピサイトを愛用して簡単なものなら色々作れるようになっていて良かったと改めて思い、異世界に来ても何とかなりそうな気がしてきた。
ちなみに昨夜口の中をやけどしたらしいお姉さんは食べ終わったお皿を恨めしそうにつついていてまだ食べ足りなさそうにしていたので咲百合が食べきれなかった分をあげたら喜んでいた。
「ユーコさんは、どちらかで料理屋をやっているのですか?」昨夜初めに声をかけてきたこの人はタスマニアさんと言って王都にも出入りしている中規模の商会の会頭さんらしい。
「いいえ、昨日田舎から出てきてこの街で仕事を探そうとしている所なんです。」
商会の会頭さんなら仕事の伝手も有りそうだし、求職中なのをアピールしてみた。
「なんと!それならば是非王都にお店を出しませんか!?お金の心配なら入りません!私が全額出資しますよ!!」
タスマニアさんの勢いが怖いくらい。
「えっと…、ここより大きな街はちょっと怖いです。それに娘も居るので目立つことはちょっと…」
サンクート様が選んでくれた街にはこの世界に慣れるまでは居たいと思うので当たり障りなく断る。
「そうですか…」なんかものすごくガッカリしているがそんなに食いつくようなことなのかしら。
「ユーコさんの料理がいつでも食べれるならいくらでも出すのに」とボソッ言わないで怖い!
「それならウチで働いてみないか?」
宿屋のご主人のキリスおじいちゃんが突然話に入ってきた。
「ここでですか?」
「そうじゃよ、正直ワシらの料理は美味しくないと言われているのは知っているんだ、ユーコさんが料理してくれたらワシらは助かるんじゃよ。」
うーん、ここなら働きやすそうだし咲百合との時間もちゃんと作れそう。
「サーユちゃんがいても大丈夫じゃよ、料理中はウチのバーさんで良かったら面倒を見るから安心して働けるじゃろ?」
うん、ここならサンクート様に言われた料理の発展の為にもなるだろうし、と言うよりそれを見越してここに来るように言われたのかもしれないし。
「キリスさん、私で良ければお願いします!」
「こちらこそありがとう、よろしく」
キリスおじいちゃんがニカッと笑ってくれるとなんだか安心する。
「くぅぅ、ユーコさんの勧誘は失敗しましたが、またここで手料理が食べれるなら絶対来なければ。」うんタスマニアさんの料理への執念が凄い…
「え!ユーコここで働くの!?」お元気なお姉さんはアンナさん、見た目通り冒険者をしていて一緒のテーブルに実は居たもう2人とパーティを組んで活動しているらしい。
「ええ、ちょうど仕事を探していたしこれも何かの縁だから。」
「やったー!コレからはここを常宿にするわ!」
「ふふふ、ごひいきに!」
ちなみにこの会話を聞いていた他のお客さんもしばらくマルルにいる人たちはみんな延泊の手続きをしていた。
私が料理をする事になったので宿の料金も変わった。
朝食のみ付きで銀貨1枚、夕飯は別で銅貨30枚になった。
私の取り分は朝ごはんを銅貨10枚夜ご飯は銅貨30枚で、材料費をソコから出して残った金額を貰えることになったのでここは腕の見せどころかしら?
とにかく職も見つかり住むところも今泊まっている部屋でしばらく寝泊まりさせてもらえることとなったのでコレで当面の心配は無くなったし頑張らないと。
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