第42話 4ぴーフラグ

「「「えええっ!? 魔王軍の部隊が校外学習に出た生徒を襲撃しようとしている!?」」」


「ああ。そういうタレコミだ」



 例のマスターさんから聞いた話みたいだけど、セカイくんのその言葉に驚きつつも、私は正直全然ピンと来なかった。

 だって、確かに人類と魔王軍は戦争しているけど、まだ学生の私たちを襲うだなんて……


「現在、聖勇者たちはロートルになっているが、まだ現役。それよりも、次代を担う勇者候補たちを抹殺した方が楽だし、後々効いてくる……ってことなんだろうな」

「そ、そんな……それじゃぁ、ラヴリィちゃんやブレスツお姉ちゃんは!?」

「抹殺、捕虜……人質……それに、若い女で容姿が良ければ色々と使い道もあるだろうしな……」

「ッ!?」


 こればかりは私もゾッとした。

 だって、そんなの私たちにとってはこれまで全くの無縁の世界での出来事だったから。

 確かにお父さんたちは戦争に出て戦ったりしていたけど、家に帰ってきたときには『そういう空気』を持ち込んだりしなかった。

 だから私も……


「セカイ、その……マスターさんの言葉は信用できるのですか?」

「…………」

「もし、それが本当なのだとしたら、今出発したばかりの上級生をすぐに引き返すように、先生や帝国兵、それにお父様たちに知らせないと……」

「そう……なんだろうけど……」

「セカイ?」


 事は一刻を争う。


「何やってるの、セカイくん! もうみんな馬で移動しちゃってるし、早くなんとかしないと……」


 ならば早く皆に知らせた方がいい。

 だけど、セカイくんは難しそうな顔をしている。

 それは……


「困ったことに……マスターに関しては全く信用できねーんだよ」

「は?」

「マスターはよく嘘をつく。普段からそういう奴だ。だからこそ、どうしても疑いから入っちまう。ようするに、相手がそれで頭抱えて迷っている姿を見るのが好きな奴なんだ」


 え!? なにそれ!? マスターって人はセカイくんの友達じゃないの? 

 

「実際俺はこの国に来てから何度も騙された……なぁ、アネスト。もし、教師や帝国兵やお前らの父親たちを動かして……この情報が誤報だったらどうなる?」

「え? そ……それは……」


 どうなるか? 先生どころか帝国兵やら魔法騎士やら勇者のお父さんたちやらが動いたら、それはもう大ごとだよ。

 つまり、そこまでやって誤報だったら……


「こっぴのどく叱られるだろうが……それだけならまだいい。だが、下手したら……」


 退学? このとき、多分みんながそう思った。


「そんな!? でも、もし本当だった場合はラヴリィやブレスツ姉さんが……ダーリン! じゃぁ、どうすればいいの?」


 誤報だったら退学。でも、本当だったら……


「ねえ、セカイくん! そのマスターさんにどうしてもって、お願いできないの?」

「ムリだ。こいつにお願いしたところで、そうやって答えた言葉が本当かどうかも分からねえんだし……」

「そ、そんな……」

「まぁ、しかしだからこそ……こいつは……はぁ……」

「ん?」


 そのとき、セカイくんが心底めんどくさそうに溜息を吐いた。何か考えが?

 すると……



「敵は魔王軍の一個隊……まぁ、数としては大したことねぇだろうし、そこまでの大物もいないだろうし……ようするに、本当かどうかは俺の目で判断してこい。何かあれば自分で何とかしてこい……そういうことなんだろうな……」


「「「ッッ!!??」」」



 一瞬、何のことか分からなかったけど、すぐに意味が分かった。

 それはつまり、


「じゃぁ、セカイくんが!?」

「ああ。俺がちょっくら、そのヲークレイブの森とやらに行って確かめてくる」

「ッ!?」


 セカイくんはめんどくさそうに、だけど一切恐怖とか無さそうにそう言った。

 なんでそんなあっさり言えるの?

 確かにセカイくんは将来魔法軍と戦うって言ってたけど、私たちはまだ学生。それなのに、魔王軍がいるかもしれないところにワザワザ……


「わ、私も行きます、セカイ!」

「私も行くわよ、ダーリン!」


 ううん、そうだよね。私たちも……だって、ひょっとしたらラヴリィちゃんやブレスツお姉ちゃんに何かあるかもしれないんだもん。

 私たちが何とかしないと……


「いや、流石にまだな……アネストとディーはここに残ってくれ。俺らが戻らなければ、大人たちに報告してくれ」

「え!? セカイ!?」

「お前らの素質は分かったが、まだまだ未熟な専門職……まだ使い物にならねぇだろうし、人質にでもなる方がメンドクセー」

「そんな……ダーリン」

 

 うん、でもこれが正しい判断なのかもしれない。

 セカイくんは強い。一方で私たちは……ん? あれ? 私は?


「だが、シャイニ。お前はついてこい」

「……は!?」

「え?! な、なん!?」

「ちょ、どうしてよ、ダーリン!?」


 え!? 私だけ? え? なんで? いやがらせ!?

 いや、最初はラヴリィちゃんたちのピンチを助けに皆で行こうって思ってたけど、アネストちゃんとディーちゃんがお留守番になるんだったら、できれば私もお留守番した方が……


「そのヲークレイブの森とやらの場所が俺には分からねえし……お前はいざとなったら、その足で逃げ回ることができる」

「あっ……」

「最高速度で走ったら動けなくなるって言っても、お前の速さなら五割の速度で十分魔王軍の雑兵程度、撒くことができるからな。戦いの技術も魔法も期待してないが、その速さだけは色々と使えるからな。お前も来てくれ」

「セカイくん……」


 あれ? なんだろう……なんだか……急に心が……


「お前の力が必要だ。手を貸せ」

「ッ!?」


 あっ、やばい……ヤバいこれ……なんだろう……ドキドキしてる。

 谷間の世代とか落ちこぼれとか言われてた私が……セカイくんみたいな優秀で強い人から求められて……


「へへ……そっか……私がひつよーなんだね、セカイくん」

「ああ」

「ふふ、うんうん、そっかそっか、必要か~」


 なんだろう……嬉しい……


「むぅ」

「……わ、私だって……本当なら……」


 アネストちゃんとディーちゃんが嫉妬してるけど、今ぐらいは許してよね。

 こんなこと、私だって初めてなんだから。



「よーし! それじゃぁ、私が先導するよ、セカイくん! 手加減して走ってあげるけど、ちゃんとついてきてね!」


「かっかっか、ああ……頼んだぞ」


「うんっ!」



 なんだろう。生まれて初めて戦争とかすごい危険なものに足を踏み入れるっていうのに……なんだか……

 何でもできる気がしてきた。


「うぅ、シャイニ……気を付けてください。何かあったらすぐに逃げるのですよ?」

「シャイニ……絶対に帰って来なさいよ」

「うん、分かってるって!」


 心配してくれる二人のためにも……



「この戦いが終わったら私たち、セカイくんと初エッチで4ぴーするんだもんね!」


「「ええ」」


「こらこら」



 でも、私がこんなこと言っちゃったからだろうな……



「あのなぁ、お前……そういうこと言うやつってたいてい叶わないんだぞ? この戦いが終われば結婚とか、そういうの……」


「えっ、そうなの!?」



 これは、私の所為なのかもしれない。








 呆れるセカイくんの言う通り、私のこの言葉が果たされることはなかった。






 だって……















 初エッチは4ぴーじゃなくて、もう少し人数が多くなっちゃうから♡







――あとがき――


今日はもう暇でしょ? だから、今日は二話投稿です。

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