第33話 孕み袋にはさせない

「ほぉ……聖勇者の一人か……こんな形で会えるとは予想外……だが、取り入るには好都合」


 セカイくんが笑っている。

 魔王軍を倒そうという意識高い系のセカイくんにとっては、目の前に聖勇者の一人が現れたのは嬉しいことなのかもね。

 そう、聖勇者の一人であり、現在帝国最強の魔導士とまで言われている人がいる。

 それが……

 

「ディヴィアス……なぜ封印を解除した」

「パパ……私は……その―――」

「言い訳は聞かない」


 ディーちゃんのお父さん。

 いつもはすごい優しくて、私たちのこともかわいがってくれて、ディーちゃんのことをすごく大切にしていて、だけど今は真剣に怒っている。


「はぁ……ディヴィアスちゃん……何をしているの? ママは分からないわ。あなたはとてもいい子だったのに……」

「ママ……」


 ディーちゃんのお母さんもそう。

 魔法学研究者? とかそういうのでいつも研究やらで忙しいけど、同じようにディーちゃんをすごいかわいがってて、私たちにも優しくしてくれる。

 だけど今は……


「急に力の波動を感じてね……今は君たちのお父さんたちも軍事演習中で帝都にいなかったから……私たちだけでも残っていて本当に良かった……まったく……」


 そして、私たちに対しても溜息を吐いてちょっと怒ってる……のかなぁ?


「申し訳ありません。まさかこのような―――」

「いえ、執事さんの所為ではありません。この娘たちがちょっと羽目を外し過ぎて……いいかい? このことはきちんと、君たちのお父さんたちにも報告させてもらうよ?」


 怒鳴ることはしないけど、落ち着いた口調で厳しい目で私たちをたしなめるおじさん。

 うぅ~、逆に怖い……やっぱり駄目だったのかなぁ……


「ディヴィアス。約束したはずだ。封印を解除するなと。お前の身に宿った魔力レベル90は明らかに異常。それでいて、魔力コントロールレベルが低いお前には使いこなせないどころか、わずかな暴走や暴発で何が起こるか……」


 そう、ディーちゃんの持っているものは膨大な魔力。

 だけど、それは全然コントロールできなくて、暴発しちゃったり、うまく発動できなかったりで、ディーちゃんは座学や他の運動能力とかの成績悪くないんだけど、実践魔法の成績はハッキリ言って……


「使えない武器は決して振り回してはいけない。これからもこの封印だけは絶対に解いてはならない。まったく、どうしてこんな……」

「あなたがもっとディヴィアスちゃんを見てあげないからよ」

「なに?」


 だけど、そんな時だった。

 ディーちゃんのお母さんがため息吐きながらディーちゃんのお父さんに小言を……


「お前が研究所から出ず、もっと頻繁に家に帰っていれば何も問題なかったのではないのか?」

「あら、じゃあ、あなたはどうなの? 最近、遠征もないのだからもっと帰れるはずでしょう?」

「遠征がなくてもやるべきことがあるんだ。この間も魔法騎士部隊を率いて他国との合同演習があり……」

「あら? その演習って、魔法騎士乙女部隊……若くてかわいい乙女たちを引き連れての旅行かしら?」

「だから、それは誤解だと何度も言っているだろう! ちょっと酒を飲んだりしたが、何もなかった!」


 あ、ヤバイ……ディーちゃんのお父さんとお母さん、ここがアネストちゃんの家で周りに私たちがいること忘れてるんじゃ……


「もう、やめて……パパ……ママ……わたしが……わるかっ……たから」


 そんな二人を見つめながら、ディーちゃんの目に涙が……ああ……だめ、このままじゃ……でも、他所の家の、大人の事情やら家庭の事情に首を突っ込むのって……でも、このままじゃ……



「夫婦の仲が悪いのは分かったが、男と女の喧嘩は他所でやれよ。ガキに見せるなよな」


「ッッ!!??」


「見ていて痛々しい」


 

 あっ……うそ……セ、セカイくん?


「えっと……君は初めて見るが……」

「あ、パパ、彼は……その、私たちのクラスに編入してきた―――」

「ああ、なるほど……クラスメート……」


 そして、セカイくんをジッと見るおじさんは、次の瞬間にはセカイくんを品定めするような目を。

 ああ、査定されちゃってる?


「ほぅ……身に纏う雰囲気が常人とは違うな……君は」

「どうも」

「ただ、どうして娘たちが封印を外したかは知らないが君も災難だったね。保護者として君に謝罪を―――」

「いいや、別にいいっすよ? おかげでいいもん見られたし……」

「ん?」

「勇者を目指す目指さないはべつにして……ちゃんと将来有望な娘さんじゃないすか。編入当初は意識の低さに愕然としたが、今は嬉しい限りなんすよ」


 そのとき、セカイくんの言葉と浮かべた笑みが、また私たちの心をギュッとした。


「セカイくん……」

「セカイ……」

「……セカイ……」


 ただ、そのとき……


「……むっ」


 おじさんが一瞬だけ怪訝な顔を浮かべたのが分かった。

 それはたぶん、私はどうかは分からないけど、アネストちゃんとディーちゃんが乙女の顔をして惚けたからだ。

 すると、おじさんは……



「そう言ってもらえるのはありがたいが……この娘たちは将来勇者になる気はなくてね」


「ああ、そうみたいすけど―――」


「それに、危険で持て余すスキルを戦場に投げるのも忍びない。だから親としては……戦争には出ず、娘たちを幸せにしてくれるにふさわしい男たちと結婚し、女としての幸せを掴んでもらいたいと思っているんだ」


「……ん……あ?」


「「「…………んん?」」」



 んん? そうなの? え? もう、勇者になんなくていいってこと? じゃあ、私たち将来好きなことを……あっ、私はサーカス団に入って、アネストちゃんはまさに女としての幸せを掴むお嫁さんになって、ディーちゃんはケーキ屋さんに……



「それで丁度今日、夜に時間を取って娘たちに見合いの相談をするところだったんだよ」


「「「……うぇっ!?」」」


「帝国だけでなく、他国も含めた魔法騎士のエリート、有力貴族など世界各地からふさわしい男たちを見繕って、順に見合いをさせようと思っているんだよ」



 え? お、お見合い? なにそれ? いや、うん、確かに珍しくないし、今までもそういう話題はあって、でも全部断って……でも……


「だから娘たちは勇者にも魔法騎士にもならず、戦う者たちを陰から支え、そして次代を担う者たちを生み、育んでもらおうと、親として考えているんだよ」


 でも、今まではあんま真剣には考えないで、お父さんたちも笑ってるだけだったけど、今のおじさんの様子はガチだ。

 そういえば今朝、家を出るときに執事のバトウラさんが言ってた、今晩お父さんたちから話があるって……このこと?


「そ、そんな、パパ! 私、そんなこと言われても……」

「あの、おじさま。それは、わ、私やシャイニにもそういう話が……」

「ああ、そうだよ。チャラーオ侯爵家の長男、ザッコカース元帥の子息、ドウテイヴァーカ家の長男……皆が将来有望で、きっとお前たちも気に入るだろう」


 どうしよう……今まで彼氏ができないことで悩んでいたし、未だにヴァージンで寂しい青春だとは思っていた……だから、将来有望で、贅沢を言えばイケメンだったりすれば別に私はいいかもしんない……って、前までなら思ってた。

 でも今は?


「パパ、わ、私、……その……しょ、将来は……」

「ディヴィアス。パパもママもお前の幸せをいつも考えているんだよ」

「うん。ディヴィアスちゃんはとってもいい子だから、ちゃんとパパとママの気持ちは分かっているでしょう?」


 ディーちゃんは不満で、でも言いたいことが言えなくてモゴモゴして……その上でディーちゃんのお父さんとお母さんはさっきまで喧嘩してたのにこの時だけは一緒になってディーちゃんの逃げ道を塞いでいるように見える。

 うん、二人とも本当にディーちゃんが好きで、大切で、本当に将来のことを考えてあげてるんだと思う。

 でも……でも……



「は~、なるほどな。ようするに、戦争では使い物にならねえ娘たちだと判断して、せめて政略結婚の孕み袋ぐらいには使おうって魂胆か……涼しい顔して意外とゲスイことを考えるんだな。聖勇者ってのは」


「「えっ!?」」


「「「ッッ!!??」」」


「才能を見る目もねぇ親の判断で才能を持て余らせるなんて、もったいねえ。そんなもったいねぇこと、俺がさせねえよ」



 なんか、あまりにも容赦ない身も蓋もないことをセカイくんがぶっこんだ!?

 いやいやいや、は、孕み袋って……言い方ヤバすぎ……

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