第22話 背中に追いつけない

「流石に俺も呆れちまったぜ! とにかく、そのクソみたいな伝統を潰すには学校側に働きかけるしかねえ。っていうか、一番悪いのはそういう状況を作り出している教師だ! 教師は何とも思わねえのか!」


「それは……多分……先生方も認識はしているかもだけど……」



 食堂で立ち上がって大声上げるセカイくん。

 またまたみんなからの注目を一斉に集めちゃった。


「うわ……シャイニちゃん……何かあったの?」


 そのとき、クラスメートの女の子が不安そうに聞いてきた。

 だよね、平和な食堂でいきなりこんなのビックリしちゃうよね。


「わわ、『スパイナ』ちゃん、何でもないよ!」

「……だいじょうぶ?」

「だいじょうぶだいじょうぶ! それよりご飯食べてどこか行こうとしてなかった?」

「あ、う、うん。奨学金のことで『エンコーウ校長先生』に呼び出されてて……」

「そうなんだー、早く行った方がいいんじゃない?」

「う、うん。そ、それじゃぁ……」


 そう言って、スパイナちゃんを急いで退避させた。

 引っ込み思案で大人しくて人畜無害なあの子を危険な目に合わせちゃダメだもんね。

 ただ、私がそんなことをしている間に……



「ええい、イライラする! ちょっと教師に一言文句言いに行ってやる!」


「「「「「えっっ!!??」」」」」


 

 なんか、思い立ったらすぐ行動みたいな感じで走り出すセカイくん。

 教師に一言文句……ってまさか!


「ちょ、セカイくん!?」

「セカイ、あなたまさか……職員室に!?」

「待ちなさいよ、それはシャレにならないわ!」

「待ちなさい、セカイくん!」

「あらあらあら~」


 まずい。セカイくんは職員室に殴り込む気なんだ。

 流石にそんなことしちゃったら、怒られるどころか、停学……退学?

 分からないけど止めないと……って、速いよぉ!


「ちょ、だから、はあ、はあ……」

「嘘……でしょ?」

「あいつ……」

 

 そのとき、セカイくんを追いかける私たち五人は、その背を見ながらドンドン離される距離、そしてスピードの違いにハッとさせられた。


「まったく追いつけないわ! な、なんなの、彼のあのスピード、そして身のこなしは!?」

「……あらあら~……先生たちよりも~……というより、魔法騎士団の方たちよりひょっとしたら~」


 谷間の世代と言われている私たち。でも、それでも勇者の娘として、身体能力だけなら人より自信ある。

 私なんて筆記や頭はダメだけど、身のこなしなら負けない自信あるもん。

 だけど、今の私よりは……


「よくよく考えればセカイくん……編入試験でも……」


 編入生がすごいってことは分かっていた。

 でも、この二日間の間では、セカイくんという人物の印象ばかりが強すぎて、そんなことをすっかり忘れていた。

 私たちの中で一番強くて、たぶんこの学校でもトップクラスのラヴリィちゃんも力の差を感じて顔が強張っている。


「セカイくんって、本当に何者なの?」


 ううん。そんなことは分かっている。

 セカイくんが何者?

 魔王軍を倒そうとしている人。

 そして、本気なんだ。

 本来、聖勇者の家系である私たちが抱かなきゃいけない野望と、持たなきゃならない力を兼ね備えて、そして野望を実現するために今も走って……


「オラァ、先生よぉ!」

「わわ、な、なんだ、セカイくん、いきなり――――――わぁ!?」


 って、そんなシリアスに考え込んでいる間にもセカイくんはとっくに職員室にたどり着いて……ヤバいよぉ!


「ちょ、あああああ!?」

「お、おやめなさい、セカイ!」

「あんた、退学になるわよ!」


 随分と遅れてたどり着いた私たちが目撃した光景。



「課題もテストも使い回し。生徒が先輩たちからレポートも過去のテスト問題も入手して落第避けて……そんな教育でいいと思ってんのかぁ、あああん??」


「ひ、ひぃ、な、なにを……」



 それは、セカイくんが私たちの担任でもある先生の胸倉掴んで暴れている姿……あっ……だめだ……これ退学だよ……先生はもう涙目で……他の先生たちも怯えて腰抜かして震えて……あ……嗚呼……

 

「か……勝手なこと言うなああああ!」


 ……ん?



「子供が生意気なこと言うんじゃない! お、お前が思っているほど、教師もそんな楽な仕事じゃないんだ。三十人以上の生徒を毎年入れ替わりで抱え、更には保護者からのクレームにも対応したり、落第者を出せば自分の査定にも響くし――」


「………………」


「「「「「……………………………………」」」」」



 なんか……先生が開き直って逆切れしちゃった……



「さらに教師は休みも少なくて激務の割には給料だって少ないんだぞ! 精神的にも追いつめられるし……こんな割の悪い仕事でこれ以上どうしろって言うんだ!」


「……………………あ……いや……なんか……すんません……」



 うわぁ……なんか……見てはいけない大人の嘆きを見てしまった気がする。

 っていうか、セカイくんも流石に唖然としちゃって普通に謝っちゃってるよ。

 でも、そこでアッサリ引き下がらないのがセカイくん。



「ええい、生徒を導く教職員のモチベーションが低くて、それが教育に影響を及ぼされるってんなら……まずは教職員の給料を倍にしろ! 福利厚生を充実させろってんだ! よ~し、ならば校長に直談判だ!」


「「「「「は……はぁ!!??」」」」」


「うおおおおおおおお、校長室はどこだぁぁぁぁぁ!!」


「「「「「なんでそうなるの!!??」」」」」


 

 って、また行っちゃったよ、セカイくん!? 

 しかも追いつけな……校長室!?


「オルァァ、校長いるかぁぁぁ!? なんだぁ? 鍵締まって……ぶっ壊すぞ!」 


 セカイくん、君は後先を考えないのかい!?

 何で君にはそんなことができて、許されちゃうの!? 



「ひ!? な、なんじゃ、いきなり!? くっ、スパイナくん、急いで服の乱れを整えて飲み込みなさい! あぁ、ワシのパンツはどこに……」


「オルアアアアア、校長うぅぅ! 先生方の給料を倍にしろオオオオオ!! 教育のクオリティがどんどん下がって、結果的に魔法騎士の弱体化……戦争の敗北、人類の絶滅に繋がるってこと認識してんのかぁぁあ!? つーか、人類の盟主とか言われている帝国がなんて体たらくだ! お前ら、本当に魔王軍にぶっ殺されるぞ!? 明日にでも攻撃とか来たらどうすんだよ!」


「ふぁっ!? こ、こほん……なんだね、君はいきなり! ワシは今、生徒の面談をしとるのだが……」



 セカイくんに追いついて校長室に入ると、厳しい顔をした校長先生と、そういえば校長先生に呼び出されてたって言ってたスパイナちゃんがいた。

 あ~、スパイナちゃん口元を抑えて涙目で怯えてるや……可哀想に……もう、セカイくんってば……



「それにしても君は編入生の子じゃったな? いきなり現れて何を言っておるんだ。それに給料の件をワシに言われても……教職員の給料は国から基準が定められておって……査定による上下はあれど、限度額は……」


「なら、教員に給料払ってのはどこだ? 国か? よし、皇帝に直接俺が言いに行ってや―――」


「「「ストップストップストーーーープ! なんかもう、どんどん話がとんでもないことになっちゃってるから一旦落ち着いて!!」」」



 もはや暴走が止まらないセカイくん。流石にここで歯止めをかけないとと、私もアネストちゃんもラヴリィちゃんも、走り出そうとするセカイくんの腰にしがみつく。


「はあ……はあ……あらあら~、なかなかエネルギー溢れる子ですね~」

「まったく、疲れるし世話を焼かせるし……セカイってば落ち着きないんだから……ふふふ……」

「あら~? ディーちゃん、何だか機嫌よさそうですね~」

「え? そ、そんなことないわよ!」

「うふふふ~、たしかにセカイくんは面白いですから、自然と笑ってしまいますね~」

「そうかしらね……でも、確かに初めてね。おふざけ天然一直線のシャイニ、真面目一直線のアネストとラヴリィ、私たちはあの三人の誰かがたまに暴走して他のみんなが止める……そんな感じだったのに、あの三人が一斉に一人の男を止めるんだから……ちょっとおかしくて」

「そうですね~。それに、入学してから一番濃い昼休みでしたね~」


 ディーちゃんもブレスツお姉ちゃんもノンキに笑ってるけど、結構危ないからね!?


「くそ、どうなってんだよ帝国ってやつは……ん?」


 と、そのときだった。

 セカイくんが部屋の隅を見て……ん? なんだろう……布切れ?


「あれは男物のパンツ……ほう……それにこの臭い……ふむふむ」


 それになに? なんか、スパイナちゃんをジッと見たり、部屋のにおいをクンクンかいだり……かと思えば、セカイくんは急にニタリとすごい悪い笑顔を浮かべて……


「アネスト。お前らは一旦部屋から出ろ」

「は? セカイ、何を言っているのですか!?」

「安心しろ。もう暴走しねぇから。俺はただ校長と……その女と三人で話をしたいだけだ」

「え?」


 なんでスパイナちゃんまで?! 


「ダメだよ、セカイくん! スパイナちゃん……ほら、涙目じゃん! 怖がってるよ!?」

「ほぅ……そうか……じゃあ、聖勇者の娘たち同席で色々とナニがあったか聞くけど……校長、構わねえか?」

「ッ!?」


 次の瞬間、校長先生もスパイナちゃんもビクッとして……え? なんで?


「いや、構わんぞ。シャイニくんやラヴリィーアくんたちは教室へ戻ってなさい!」

「え? でも……」

「いやいや、いいから戻っているのじゃ!」


 校長先生が何か焦った顔して……え? 本当に何なの? 分からない。


 ただ、一つ言えることは、この後の話し合いで何かがあったということ。








――あとがき――


二十話けっこうすぐに超えるものですね。

ここからまた、ヒロインたち、学校、人間たちを色々と変えて行きたいと思いますし、エロも極めて上品な範囲で怒られない程度にぶっこんでいきたいと思います。


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