第16話 見返り

 アネストちゃん自身はどうなのか?

 それは結構重要なことだと思う。

 ううん、私たちもアネストちゃんの将来なりたいものは分かってるけど、だからって魔法騎士団のこととか授業のことはテキトーでいいとかそういう意識は……


「私も、どうせやるならば……魔法騎士についても、己をもっと高めたいとは……しかし……」


 本当はアネストちゃんももっとやりたいんだと思う。

 でも、私たちはこんなんだし、それにクラスの子たちから浮いちゃうからあまりその意識を表に出したりはしないようになってる。

 たまに私がだらけたりテキトーなことをやって怒ることはあっても、最終的に人に対して強要したりしない。

 でも、アネストちゃんの本心は……



「やりてぇなら人の目なんざ気にしないでやれよバカ! 周りから浮くだ? 軋轢だ? 本気でやってる奴と溝を作ろうとする奴なんかに嫌われたっていいだろうが! むしろ、そんな奴に好かれていても何のメリットもねぇんだからよ!」


「ぅ、せ、セカイ……くん……」


「だが、とりあえず一人はまだマシな奴が居てくれて良かったぜ……ブルー」


 

 そんなアネストちゃんを一喝してメチャクチャなことを言うセカイくん。

 さすがにアネストちゃんもポカンとしている。

 そんな中でセカイくんはさらに……



「いいか、ブルー! 俺はとっととのし上がりてぇ。そのためには今回のイベントはアッと言わせてぇ。やる気のねえカス共に足を引っ張られるわけにもいかねぇ。そこで……テメエがクラスの先頭に立ってカス共のケツを叩いて引っ張ってやれ」


「…………は?」


「本当は俺がやりたいところだが、こういうのは今日来たばかりの俺がいきなり一人で威張っても、周りもついてこないだろうしな。まぁ、力づくで脅してやるのも構わねぇが、今はまだ悪評は……じゃなくて、友達作りに来たわけじゃないが、周りから嫌われて信頼ないのもな……だからテメエがやれ。テメエも声を出せよ。俺も出すからよ」


「む、無理です! 私なんかでは……小さいころそれで……というか無理ですよ、皆をやる気にさせるだなんて! 何か見返りでも……」



 アネストちゃんを焚きつけて皆をやる気にさせようとするセカイくんだけど、私もそれは無理だと思う。

 結局私たちは、「やることで何かメリットがある」とかっていうのがないと、そういうのを頑張るって……



「見返り? なんだお前、何か報酬みたいなのが欲しいのか?」


「え?」


「よし分かった。報酬はくれてやる。報酬は……テメエが欲しいモノなんでもくれてやる! 俺のコネを使えば、この世にあるもの大抵のモノが手に入るからな」


「いえ、そ、そうではなくて……」


「そういや、テメエはムッツリだったな……よし、とびきりエロい本とかを―――」


「はぁ!? ちょ、何を……っていうか、そうではなくて! とにかく、無理なんです!」



 アネストちゃんはそう言って逃げ出すように走って……あっ……



「あっ……シャイニ……ディー……ッ!」


「あっ……」



 当然、屋上の扉で覗き見てた私たちとバッタリ鉢合わせ。

 一瞬戸惑ったアネストちゃんだけど、そのまま私たちを通り過ぎてそのまま行っちゃった。



「おい、ブルー! ったく……ん? なんだお前らいたのか?」


「あ、あははは……いや~……」


「まぁいい。丁度良かった。お前らに聞きたいことがあってな」


 

 そして、セカイくんにも気づかれた。

 だけど、盗み聞きしていた私たちに対してセカイくんは怒るでもなく、むしろ丁度いいと……


「ブルーは俺の予想ではかなりのムッツリと見た。エロいものとか結構好きだろ?」


 って、何を聞いてんのこの人は!?



「いやいやいや、まぁ……うん……嫌いじゃないと思うし、私からぶん取ったエッチ本を隠し持ってるけど……」


「ほうほう……なら大量のアイテムをプレゼントしてやるか。で、ジャンルは何がいいと思う?」


「そ、それは知らないよ! 新婚さんモノとかじゃない?! っていうか、大量って……アネストちゃん、そんなに自分の部屋に隠せないと思うけど……」


「隠す……? なるほど、よし時空間魔法でも教えてやるか。いつでもアイテムを召喚できるように……。そしてブツは……マスター、応答せよ!」


「はぁ?」



 勢いよく聞かれたから思わず答えちゃったけど……大量のアイテム? えっちぃやつ? なにそれ、私もちょっと興味あるから見せて欲しいかも……っていうか、マスター?

 なんか、セカイくんが急に指を頭に当てて……この感じ……誰かと念話している?


「おう、後で俺の所へ転送してくれ! エロ本と……よし、光景を記録する『メモリー魔水晶』を利用したアレ……『アダルトメモリー魔水晶』もたのむ!」


 え、メモリー魔水晶? それって結構高価なものじゃなかったっけ?

 風景、更には人の姿、言葉や声を水晶に記録させていつでも見ることが出来る。

 人によってはそれで遺言を残したりとか……でも、希少で結構高いのに、セカイくんってそんなのを簡単に入手できるの?


「ちょ……ちょっと待ちなさいよ!」


 そこで、もはやどうなっているのか分からず呆然としていた私の隣で、ディーちゃんが声を上げた。


「なんだよ、お前もスケベなものに興味あるのか?」

「違うわよ! そうじゃなくて……あなた、本気でアネストにクラスを仕切らせて引っ張らせようとしているの?」

「あん?」

「言ってたでしょ? あの子……小さいころそれでトラウマが……」

「はぁ? そんなもん、俺が知るかよ。つーか、ガキの頃のトラウマを今まで引きずって、『己を高めたい』っていう本心を我慢してどうすんだよ」

「そ、それは……そうだけど……」


 アネストちゃんは本当につらかったんだ。だけど、セカイくんは「そんなの知るか」と一蹴しちゃった。

 でも、それは自分勝手な意見だけではない。

 アネストちゃんの本音を引きずり出したうえでの言葉。


「校則は破るためにあるが、トラウマは克服するためにあるんだよ」


 うん、分かってる。トラウマを引きずって本心を我慢するのはよくないよね。

 正論だよ。分かってる。

 でも、正しいからって、できないこともある。

 それが、私たちゆるい世代だもん……



「でも、それで……またアネストが傷ついたり……クラスメートから……その……」


「はぁ? そうなったら、俺が全力で力貸してやらぁ。いざとなったら、俺が守ってやるさ……将来あいつと一緒に魔王軍と戦うかもしれねーんだからな」


「……っ……」



 もちろん……もし、アネストちゃんに何かあったら、私もディーちゃんも全力で守る。

 でも、できれば何も問題が起きないようにして欲しいという気持ちもある。

 一方でセカイくんは、問題が起きても問題ない……そんな力が籠っている……なんだろう……



「……セカイ……」



 ディーちゃんも何か感じたんだろう。

 なんか、セカイくん……頼もしいって感じちゃった。

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