第13話 打算な友達

「ま、それにそもそも人間と魔王軍は睨み合ってるけど、なんだかんだで近年はそんな大きな戦争もあるって感じじゃないし、魔王軍だってあまり戦争を仕掛けてこないじゃない。それなのにそれに備えろなんて言われてもって感じだしね」


 私たちの話を聞いて頭を抱えているセカイくん。

 私たちにガッカリしたというよりは、何か悩んでいる感じ?


「あの……ところで……」

「ん?」

「あなた自身はどうして魔王軍と戦おうと?」

「……え?」


 すると、そんなセカイくんにアネストちゃんが質問した。


「あ、単純な興味本位で……教室で平和のために戦おうとかおっしゃってましたけど……本心ではありませんよね?」


 うん、アネストちゃんの言う通り、私もそれは気になっていた。


「うん、だよね。セカイくんはどうして戦うの?」

「そうよ。あんたも話しなさいよ」


 セカイくんはすごく強いのかもしれない。

 でも、悪いけど世のため人のために……って感じには見えないし……



「お、俺が魔王軍と戦うのは……は……こ、この世界をマモリタインダ! ヒトリハミンナノタメニ、ミンナハヒトリノタメニ、ソシテエガオノタメニ、アイトユウキガダイスキナンダ!」


「「「ダウト」」」


「ぐぬぁ!? なぜ!?」



 いやいやいやいや、もう完全に棒読みじゃん。

 それを信じろって、頭悪い私でもナイナイ。


「いやぁ、バレバレだし」

「嘘が下手なのですね……」

「うっさんくさいわよ。で? 本当の理由は何なの? 英雄になってモテたいとか?」


 なんか「まずい」みたいな顔して言葉に詰まるセカイくん。

 とりあえず、今のでセカイくんは魔王軍と戦うとか意識高いけど、世界の平和とかそういうことのために戦おうとしている訳じゃないって分かった。


「お、俺が……戦うのは……」

「うんうん……」

「ど……どうしてもブッ殺……倒したい奴らがいるからだ」


 いま、「ぶっ殺す」って言おうとしなかった?

 でも、あのセカイくんが……なんだろう……ものすごくその言葉に熱がこもっている……でも……なんだか少し寂しそうな切なそうな……

 

「なによそれ……知ってる人でも魔王軍に殺されたの?」

「ん? まぁ……一応……親父を殺さ――」

「えっ!?」


 えっ!? お父さんが殺され? え? なんか、すごいサラリと言われたけど……


「え? あ、あなた、パパが……殺されたの?」

「あ、いや、まぁ、そうだけど……」


 魔王軍に知り合いが殺された。今の世の中で珍しくないと言ったらそれまでだけど……でも、私……クラスメートで魔王軍に家族が殺されたなんて人は初めて……


「申し訳ありません。気軽に聞いていいことではなかったですね……そうですか……」

「ご、ごめん……私も……悪かったわ」


 アネストちゃんもディーちゃんも驚いたみたい。うん、そういうことがあったんなら、……うん……セカイくんが魔王軍と戦う理由……なんとなく分かったかも。

 特にディーちゃんはパパ大好きっ子だから、セカイくんにはもうお父さんがいなくて、しかも殺されてるだなんていうのを知って、それを無暗に聞いちゃったことにすごく申し訳なさそうにしている。


「いや、あの、別にそんな気にするんじゃねぇよ……珍しくねーだろ、そんなの。気を使われる方が返ってメンドクセーから……」

「セカイ……」

「でもよ、今の時代は他人事じゃねえってことだ。今までの魔王軍はそこまで地上に対して貪欲じゃなかったとしても、今後の魔王軍は狂ったように戦争してくる可能性が……あるかもしれないわけだしよ」

「……そう……かな」

「とにかく……あ~、ちょっと作戦を変え……じゃなくて、もうこの話は無しにしようぜ。ほら、さっさとメシ食おうぜ」

「……うん……そうね」


 気にするな……気まずそうな空気を嫌がってそう気遣ってくれたセカイくん。

 そんな姿に胸がちょっとキューっとなった。

 あのアネストちゃんとディーちゃんも微笑んで頷いている。

 あはは、教室ではメチャクチャ言い合ったのに……セカイくんかぁ……


「ねぇ、セカイくん!」

「ん?」

「あのさ、一緒に魔王軍と戦うってのはアレだけど……友達になろうよ! ね?」

「……え?」

「それでさ、来月行われる『合成魔法発表会』に向けたグループワーク……うん、一緒にやらない?」


 そう言えば、男の子と友達になろうって言ったの初めてかも。

 でも、気付けば私はそう言っていた。


「そ……そうですね。セカイくんもクラスに入ったばかりで班に入りづらいでしょうし、私たちと一緒に組みましょう。ディーもいいですか?」

「あら、男子が苦手なアネストが反対しないなんて珍しいわね。まぁ、仕方ないし……セカイ、組んであげるわよ」


 うん、アネストちゃんもディーちゃんも賛成してくれたみたい。

 すると、セカイくんは……


「……え? 合成魔法発表? なんだそれ?」


 おっと、セカイくんはまだ先生から何も聞かされてなかったのかな?



「うん、合成魔法発表会は私たちの学年になると毎年行われる恒例行事で、複数の人たちで班を組んで、協力し合って一つの魔法を完成させる……その発表会があるの」


「属性、攻撃系や補助系に関わらず、テーマは自由。全員同時に炎魔法を放って巨大な火炎を作ったり、または雷や風など異なる属性同士を組み合わせたり……」


「それを来月の発表会で、先生や先輩たち……そして帝国兵の人たちが点数審査をするの」


「ッ!?」


 

 一つの班のメンバーは三人~四人。つまり三人以上で協力し合って魔法を一つ放つ。

 そして、先輩や大人の人たちにも見てもらう。

 私たちの学年でも結構大きなイベントの一つだ。



「帝国兵も見るのか……」


「うん。さらに、クラス対抗の面もあってね……班ごとに発表して点数をつけられ、その平均点が一番高かったクラスは王宮で姫様から表彰されるんだ~」


「なに、姫ってことは……帝国の王族にか?!」


「そういうこと」


 

 おっ、なんかセカイくんの目の色が変わった?

 意識高い系のセカイくんには、結構やる気が出る話だったのかな?

 まぁ、私たちは内心はそれほどでも……それにお姫様って……あの『色々と残念なあの人』だから、表彰にもありがたみがな~


「いや、でもこれは……ぶつぶつ……どうする……いや、だがしかし大衆に名を知られ、信頼を勝ち取るにはいい機会……それに……この魔法学校の生徒のレベルも把握できるし……ぶつぶつ……よし!」


 なに? なんかすごいブツブツ言って悩んでる? 今の流れで友達になる勢いじゃないの?

 照れてるのかな……?

 でも、セカイくんはすぐに目を光らせて……


「ああ、よろしくな! 皆で気合入れて、クラス優勝目指して頑張るぞ!」

「お、おお、よろしくね♪ ……うぇ!? ゆうしょう?!」

「お? 鐘が鳴った、さっさと戻るぞ!」

「ま、待ってください、セカイくん! その話なんですが―――」


 なんかよく分かんないけど頷いてくれた。

 けど、これは……どうなっちゃうかなぁ?

 

 クラス優勝……そう言われても皆は……


 アネストちゃんもディーちゃんも慌てて止めようとしたけど、セカイくんは熱い顔して行っちゃった。


 地方から出てきて今の帝都の若者の状況をまるで知らないと思われるセカイくんは……


 私たちの世代に対する『ゆるい教育、ゆるい世代、ゆるい精神』の『三ゆる』を知らないんだろうな……




――あとがき――

昨日、本話を投稿せずに間違って次の話を投稿しておりました。話が繋がってなくて申し訳ないです。

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