第8話 勇者の娘たち

「い~や~、驚いたな~。編入試験の合格者は一人。しかもその一人が試験官の人たち相手に……そんなことできる人がいるの!?」


「恐ろしい話です。年齢が16歳とのことで私たちと同じ学年のようですが、実力的には既に帝国兵……中でも上級クラスの力を持っているということでしょう……」


「なにそれ……何でそんな奴が今になるまで出てこなかったのよ……」



 大勢の集まる食堂で、私たちの話題は例の編入生でいっぱいだった。

 私たちが全員がかりでようやくクリアできたような試験を、誰の協力もなく一人でクリアした……しかもそれが私たちと同じ歳なんて信じられない。


 

「男の子かな~、女の子かな~、男の子だったらカッコいい人がいいかな~。ねぇ、アネストちゃんとディーちゃんはどっちがいい?」


「別にどちらでも……ただ、共に刺激し合い切磋琢磨できるような人であれば……」


「あーはいはい、そういうつまんない回答いらないからね。っていうか、そうじゃないでしょ~、もう、わっかんないかな~? 男の子で~、カッコいい人だったら~、甘酸っぱいラブな青春展開とかになるんじゃない?」


「なっ、な!? シャイニ、ふしだらです! 私たちは学生の身! 恋愛などにうつつを抜かしている場合ではなく、そんなことしている暇があれば魔法や剣の上達に励んだ方が良いのです!」


「いやいやいやいや、学生だからこそ恋愛にうつつを抜かさないと~。分かってる? ビッチとか言われた私たち……今日まで彼氏できたことないんだよ? 他のクラスでもなんか、今度からのオリエンテーションの班決めの流れでカップルとかあるみたいなんだよ!?」


「必要ありません! 学生のうちに恋愛なんかして……妊娠したらどうするのですか?!」


「いやいやいや、展開すっ飛ばしすぎだし!?」



 あらら、本当にアネストちゃんはこういう話題はダメだなあ~。

 っていうか声大きすぎ、テーブル勢いよく叩きすぎ、皆の注目集まってるじゃん。

 本当はえっちい話に興味津々なくせに……


「まったく……で? ディーちゃんは?」

「別に興味ないし……」

「か~、これだから~……あっ、あれかな? 私に彼氏できないのって、いつも一緒に居るアネストちゃんとディーちゃんがそんなんだから、その流れで私も?」

「人の所為にしないでよ。私、ちゃんと告白とかされたことはあるんだから。受け入れたことも受け入れる気もないけど」

「ええええ!? そうなの? そんなの知らないよー! 誰? 誰に告られたの?」

「声が大きい! それに私だけじゃなく、アネストだって先輩とかに呼び出されたりして……」

「ぬえええええええ、本当!? なんで?! 裏切り者おおおおお!」


 何それ私知らない! 何で二人は告られたことあんの? 私、そういう経験ないんだけど! いや、別に今は誰か気になる人とかいるわけじゃないけどさぁ……


「シャイニ、いつまで騒いでいるのです! それよりも私たちはもっと気を引き締めねばならないんですよ?」

「えぇ~、なんでよ~、もう私、十分やるだけのことはやってんじゃ~ん」

「……はぁ? あなた……はぁ、何も分かっていないのですね」


 あれ? なんか急にアネストちゃんが頭を抱えて溜息……ディーちゃんも何だか憂鬱そうな顔をしてる。

 どうしたんだろ?


「まったく、騒がしいわよ。元気なのは結構だけどね」

「あらあら、シャイニちゃんも相変わらずですね~」


 おっと~、そこで来たのは爆乳美人のお二人さん!


「ハロー。ここ、いいかしら?」


 背も高く、スタイル抜群の金髪ポニーテールの美人なお姉さんでもあり、私のあこがれと同時に超嫉妬対象でもあり、神の不公平を具現化した、魔法学校主席にして生徒会長……


「ラヴリィちゃ~ん!」

「こら、幼馴染とはいえ学校では先輩を付けなさい」


 私たちの幼馴染で一個上。聖なる勇者たちの血を引く優等生のラヴリィーアちゃん。あだ名はラヴリィちゃん。


「ところで~、と~っても元気にお話していましたけど~、一体どうしたのです~?」

「聞いてえよぉ、ブレスツお姉ちゃ~ん」

「あらあら、甘えんぼさんね。よしよし」

「う~~ん、お姉ちゃんのオッパイは相変わらず最高だよぉぉもみもみむぎゅむぎゅ」

「あっ♡ もぅ~、シャイニちゃんは相変わらず甘えんぼさんですね~」


 そして、巨乳のラヴリィちゃんを更に超える神乳というか超乳というか、とにかくこんな胸に堂々と顔を埋めてぐりぐりできる私は女の子同士の特権に感謝。


「こ、こら、男子も見ているわよ!」

「シャイニ、は、は、ハレンチです!」


 柔らかの極み。まさに聖母。母性。ゴッドオッパイならぬ、ゴッパイの持ち主。

 ふわふわショートのブラウンの髪と、一歳差とは思えない柔らかくエッチいボディをもった、ちょっとおっとりした私たちのお姉ちゃんみたいな人。ブレスツお姉ちゃん。

 ラヴリィちゃんと同じ歳で、いつも私たちを可愛がってくれる大好きな人。


「あのね~、彼氏ができないな~って話」

「そうじゃないでしょう! 編入生の話です!」


 いやいや、彼氏云々の話……と思ったら、アネストちゃんの言葉に納得したように、ラヴリィちゃんとブレスツお姉ちゃんは頷いていた。


「ええ、聞いているわ。あなたたちの学年にとんでもない編入生が入るみたいね」

「はい~、なんでも大人たちは今すごく大騒ぎとのことです~」


 やっぱり噂は上の学年にも伝わってたんだ。それだけ衝撃的ってことなんだよな~……


「ラヴリィ先輩もシャイニに言ってあげてください。気を引き締める必要があると」


「そうね。特に私たちはそうでしょうね……」


「え!? なんで!? どういうこと? そりゃ、すごい編入生が来るっていうのは驚いたし興味もあるけど、それで私たちがどうのって……あ、私たちがその期待の超新星と恋に落ちるとか?! そして、優秀な血を引き入れるためにお父さんたちが私たちの誰かをその人の嫁に……あぁ、私たちは出会ったばかりの男の子に孕まさ―――」


「そうじゃな……いえ……それはそれでありえるかもしれないけれども……って、そうじゃなくて!!」



 まるで話がよく分からない。っていうか、分かってないのは私だけ? ブレスツお姉ちゃんも苦笑してるし、ディーちゃんは呆れてるし……


「あのね、シャイニ。そんなすごい人が編入してきたら、私たちが真っ先に比較されるでしょう? 勇者の子供たちと比べてどうか……って」

「あ……」

「私たちはただでさえ、女というだけで下に見られ、谷間の世代なんて呼ばれているのよ? そこで、いきなり現れた編入生にまったく比べ物にならないなんてなったら……どうなるか分かっているの?」


 そうだった。うん、そういうのは昔からあった。



「いくらあなたもディーも……ブレスツもだけど、将来は帝国兵にならないなんて言っていても、世間はそう見てはくれないわ。たとえ将来がどうであれ、今、あまりふがいないようなことをしてはいけないわ」


「ラヴリィちゃん……」


「その人と切磋琢磨して自分をもっと高めるぐらいしないとね」



 勇者の子供なのに……みたいなの……もうあんまり気にならなくなったけど、責任感の塊みたいなラヴリィちゃんとアネストちゃんはとても意識しているみたい。


「とにかく、頑張りなさいよ……って、私も他人ごとではないわね。その編入生には私も興味あるし、もし来たら紹介してね♪」

「ふふふ、とっても楽しみですね~」

「はい、互いに刺激を与え合い、共に高みを目指せる良き友になれればよいのですが」

「私はパス。メンドクサイし」


 ま、何はともあれ編入生か~、どんな人なんだろ……



「うん、でも楽しみだね。これでメチャカッコいい人で、私たち五人がベタ惚れしちゃって一人の男の子を取り合う……勇者の娘たちの熱き恋のバトル!? とかなっちゃったりしてねぇ~」


「いい加減にしてください、シャイニ! 妄想でもそんなこと許しませんよ? だいたい、五人同時に惚れるなど……そんなこと神に誓ってありえません!」


「うふふ~、あらあら~、シャイニちゃんは本当に恋をしたいお年頃ね~、でも私は五人で争うなら、その人と私たち五人で仲良く一緒になりたいですね~」


「うわ、気持ちわる。そんなのおぞましいったらないわよ、ブレスツ姉さん」


「ふふ、恋ねぇ……ま、そんな素敵なことがあるかは別にして、どんな人がくるか楽しみね」



 冗談交じりで笑ったり、真に受けて怒られたり、でもこのときは私たち五人ともまったく想像もしてなかったんだよね。

 まさか、この時の言葉が当たらずとも……でも……ということになっちゃって……それで―――






――あとがき――


本作、第六回カクヨムコン参加しております。

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