第6話 炭鉱の戦い

「椎名お頭!」

「茉莉お頭ぁ!」


 部下たちが様々な呼び名で女性のことを呼んでいると、美桜と琴葉が好かれているわねと言った。その言葉を聞いた女性は、ありがたいねと返す。


「お前たち! 私はここで死ぬ! 後は任せたよ!」


 女性がそう部下たちに叫ぶと、死なないでと叫ぶ。美桜と琴音は殺さないわよと驚いた顔で返す。


「え? 殺さないの? なんで?」

「なんでって……水郷村の人たちを解放してくれればそれでいいわよ」

「そうか……お前たちが勝者だから言うことを聞くさ。 それにその村のやつらにはもう関わらないよ」

「ありがとう。 そう言ってくれてありがたいわ」


 美桜がそう言うと、女性の氷を解かした。氷が解けたことを確認した女性は、土柱の発動を止めて、地面に戻っていく。美桜と琴葉は伊織のもとに駆けよると、怪我はしていないかと聞いた。


「大丈夫だよ……武器はどこかに飛んでいちゃったけどね……」

「武器よりあなたが無事ならそれでいいわよ……」

「ありがとう!」

「ほら立ってください!」


 伊織が琴葉の手を掴んで立ち上がった瞬間、伊織たちがいる場所に火球が数個放たれた。


「な、なに!? いきなり何なの!?」


 女性が焦っていると、部下の何人かが炭鉱の中に入ってと伊織たちに叫んだ。伊織は何が起きたんだと叫んでいると、美桜が逃げるわよと言って伊織の手を引いて炭鉱の中に入る。


「一体何なの!? 誰か攻めてきたの!?」


 女性が焦っていると、炭鉱の中にいた水郷村の人たちが怖がっていた。


「椎名だ……椎名がここにいる……殺される……」


 何人かの囚われている村人が椎名茉莉が来たことに恐怖を感じていた。


「私はもうお前たちを苦しめない! 今まで申し訳なかった!」


 茉莉がそう言いながら頭を下げると、そんなこと信じられるかと罵声が飛び交った。茉莉の部下たちがその言葉を聞いて声を荒げるも、それを茉莉がやめろと言って止めさせた。


「ですが! あいつらがお頭のことを!」

「いいんだ。 私はあいつらに負けて解放をするって決めたんだ。 それにお前たちもこんなことを続けていけるなんて思っていないだろ?」

「そうですが……」


 部下たちが俯いていると、村人たちは本当に解放されるのかと思ってきていた。美桜が村人たちに向けて私たちが解放しに来ましたと言い、そこにいる椎名さんに勝負で勝ったので、あなたたちは自由ですと声を上げた。


 その声を聞いた村人たちは持っていたシャベルなどを地面に捨てて喜んだ。自由や辛い労働をしなくていいんだとも言っており、傷だらけの身体を擦っている老人たちもいた。炭鉱内部で村人たちが喜んでいると、炭鉱内部に若い男たちの声が響いた。


「ここの炭鉱と労働力を貰うぞ!」


 複数の男たちが様々な武器を持って炭鉱の中に入ってくる。茉莉やその部下たち、そして美桜たちが警戒をしていると、美桜側が態勢を整える前に攻撃を仕掛けてきた。


「とっとと攻めるぞー! ここを明け渡せ!」


 槍や斧を持った若い男が、茉莉の部下たちと戦い始める。伊織は武器を持っていないので、近くに落ちていたシャベルを持って戦おうとしていた。茉莉は土壁を出現させて村人たちを守ろうとしており、美桜と琴葉は茉莉の部下に混じって応戦を始めた。


「私たちが村人を守るわ! あなたたちは応戦をして!」

「わかった! あんたら死ぬなよ!」

「誰に行ってるのよ! あなたたちのお頭を倒したのよ!」


 美桜は微笑すると、飛んでくる様々な魔法を防御魔法で防いでいた。琴葉は魔法を扱える人間がこんなにも多数いるなんてと呟くと、美桜にもしかしたら北方連合の人間かもしれません。美桜に琴葉が言うと、美桜はその可能性もあるわねと返す。二人は怒涛の攻撃を押されながらも防いでいると、一度攻撃が止まった。


「なんなの? 攻撃がやんだ?」


 美桜が村人たちを見ながらなぜ攻撃が止まったのか疑問に感じていると、炭鉱の入り口に北方連合所属の一国である北海公国の兵士一人出てきた。


「私は北海公国の公国騎士、第二部隊長である豪徳寺武である!」


 豪徳寺武と名乗ったその男は、筋肉質のガッチリとした体型をし、眉間に皺を寄せている短髪の眼力がある顔をしていた。


「北海公国!? なんで北方大陸の奥地にある国の兵士がここにいるの!? 既にこの辺りまで進軍をしているの!?」


 美桜が驚いて声を上げると、その声を聞いた豪徳寺は美桜を睨みつける。


「私たちは遠征をし、拠点を築くために来ただけだ。 一部の兵士が野盗の真似事をしているがそれは許容してもらおうか」


 豪徳寺は紺色と黒色の軍服に付いた土埃を払っていると、茉莉がふざけるなと叫ぶ。


「他国の人間が勝手に荒らしてんじゃねえよ!」


 茉莉のその叫びを聞いた豪徳寺は、知らないなと答えた。


「弱いやつが負ける! それだけだ! それに、これは戦争をしている!」


 腕を組みながら返答をした豪徳寺は、一人の部下に命じて戦斧を受け取る。何度も手で握っている豪徳寺は、一気に力を込めて地面に戦斧を叩きつけた。


「うおおお!」


 その掛け声とともに地面に叩きつけた戦斧によって地面が大きく陥没してしまった。その地面への衝撃と、地面を陥没させるほどの力を持つ豪徳寺を見て、勝てないとその場にいる全員が悟った。美桜は琴葉に危険な敵ねと小さな声で言うと、琴葉が逃げましょうと言う。


「逃げたいけど、村人の人たちが……どうすれば……」


 美桜が豪徳寺と村人を交互に見ていると、茉莉が鋼矢で攻撃を始めていた。


「好きになんてさせないわ! 北方大陸に帰りなさい!」


 鋼矢を連続で放つと、豪徳寺は戦斧で軽々と防いでいた。その光景を見た美桜は茉莉に近づいて一緒に攻撃をしましょうと提案をする。


「行けるの? 合わせられる?」

「当然! 皆を守るためよ!」


美桜が茉莉の左肩を軽く叩くと、茉莉が行くよと声に力を入れた。


「氷縛!」


 美桜が発動した魔法は豪徳寺の両腕と両足を氷で拘束して動きを止めた。茉莉はその隙に鋼矢で矢を一本、勢いよく放った。その矢は豪徳寺の額に向けて真っ直ぐ飛んでいく。


「これで倒れろ!」

「いけー!」


 美桜と茉莉が倒れろと言っていると、豪徳寺は不敵に微笑んだ。


「そんな攻撃程度で俺が殺せるわけないだろう!」


 豪徳寺は瞬時に氷を砕いて両手で矢を掴んだ。そしてそのまま掴んだ矢を茉莉に向けて投げ返した。


「茉莉さん!」


 茉莉が魔法を解除しようとしていたが、間に合わないので美桜が氷壁を発動して鋼矢を防ごうとした。しかし、豪徳寺の力が籠っている鋼矢はもの氷壁を貫通して美桜の左肩に刺さった。


「ぐぅ……まさか貫通するなんて!」

「大丈夫かい!? 誰か治癒が出来る人いる!?」


 茉莉が叫んで誰かいるか聞くと、村人の中にいた少女が出来ますと名乗り出てくれた。


「本当かい!? 出来るなら頼むよ!」


 茉莉の言葉を聞いた少女は、美桜の怪我の場所に両手を当てて何かを呟いた。すると、両手から淡い光が溢れて美桜の怪我が少しずつ治り始めた。美桜の怪我が治り始めていると、豪徳寺がもう終わりかとその場にいる全員い話し始めた。豪徳寺の部下と戦っていた茉莉の部下たちの殆どが地面に伏して負けていた。


「お前の部下は弱いな。 戦闘員じゃないな? ただの武器を持っただけの人間だな? それじゃ俺の部下に敵うわけがない」


 茉莉はその言葉を聞いて、そうだよと小さく呟く。美桜はその言葉を聞いて、茉莉の顔を見ると、茉莉は歯を喰いしばって悔しそうにしている。


「どうすればいいの……この状況をどう打破すれば……」

「必ずどこかに突破口があるはずよ!」


 美桜が茉莉の背中を叩くと、少女が美桜の怪我が治ったよと小さな声で呟いた。


「ありがとう! 助かったわ!」


 美桜が治療してくれた少女の頭を優しく撫でた。少女は眼を閉じて気持ちいいと呟くと、美桜と茉莉が下がっていてと同時に言った。


「さて、行きますか!」

「そうね! 打破するわよ!」


 二人が声を揃えて豪徳寺と対峙しようとした瞬間、炭鉱の中に多数の白色を基調とした軍服を着ている軍人が入って来た。その軍人の中の一人の男を見た豪徳寺は何故ここにいると炭鉱の入り口を向いて声を上げた。


「何故ここにいる! 鳳凰院武蔵!」


 鳳凰院武蔵と呼ばれた男性は耳にかかる長さをしており、細い眼鏡をかけていた。その男性は細身の身体をしていて、一目見ると強そうには見えない。しかし、その落ち着いた佇まいや左右の腰に帯刀している二本の刀が静かなる強さを示していた。


「豪徳寺か。 お前がここにいるってことは、既に西邦大陸にまで進軍しているということか」


 武蔵がそうかと顎を右手で触っていると、部下たちに敵を掃討するぞ声をかけた。掃討という言葉を聞いた豪徳寺は部下を死なせるわけにはいかないと思い、戦斧に風の魔力を纏わせて武蔵のいる出口に向けて戦斧を地面に叩きつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る