特区令嬢誘拐事件に関する調査報告書 後書き

 この記録を公開するに踏み切ったのには二つの理由がある。

 一つは最近の私は経済的にひどく困窮した状態にあるということ。そしてもう一つは久我山氏殺害の容疑者たる横井恵美子氏の初公判が終了したということである。

 今回の事件には狂言誘拐と殺人の二つの側面があったわけだが、皮肉にもその後世間で話題に上がったのは誘拐事件の方ばかりであった。都民は唐突に振り込まれる金に喜び、その点は中条京子氏の思惑通りであったのだが、しかしその陰で憐れむべき少女が一人いたことを、我々は忘れてはならないのではなかろうか。

 そんなことを猫目石に話したら、彼女はひどく機嫌の悪そうな表情を浮かべた。まったく優しさの微塵もない。

 そしてもう一つ付け加えるとすればこの記録を公開するにあたって関係者の許可はきちんととっているということである。猫目石や横井氏は誘拐事件の真相を公開こそしなかったものの、張本人である京子氏はしばらくしてからきちんと両親にことのあらましを報告したというのだった。だからこの件は中条家はもちろん、公判を受けている横井氏にも許諾していただいた上で公開していることなのである。

 唯一公開に最後まで反対していたのは犬吠埼氏で、警察組織の失態だと、自らのことを嘆いていた。猫目石にも反対されるかと思ったが、しかし存外乗り気であることに、私は驚いた。きっと読者諸君にも近いうちにまた別の事件のことをお話することができるだろう。現にこの記録をまとめている最中にも、ゴジラの咆哮を加工した着信音が鳴り響いているのだから。

 それでは、今回の事件記録を発表するにあたって協力してくれた全ての人物に感謝をして、今回のところは綴じようと思う。次にお話しするのもきっとまた奇妙な事件になることだろう。

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