第7話 屍

そういえばとエイダは他にも重要なことを書き忘れていたことを思い出した。朝食や自己紹介に気を取られ思わず忘れていたことだ。


「ここってどこなんですか?」


当然の疑問だった。今までこのことを気に留めなかったエイダ自身がおかしいくらいに、それくらい混乱していたのだろう。


「敬語もじゃなくても大丈夫だぜ。ここは俺たちの組織の隠れ家さ。結界が貼ってあるから安心してくれ。」


「え、あ、はい、そうなん・・・だ」


思わずそうなんですかと言ってしまいそうになる。彼なりの距離の詰め方なのだろうがエイダにとって敬語を使わない会話というのは村の子供を相手にする以外ほとんどしてこなかったため。突然のタメ口というやつに戸惑ってしまう。


「おっとすまねぇ。俺の悪い癖だ22にもなって未だにズケズケとガキみたいに踏み込んじまう。そうだよな人によって喋りやすい会話の形つーものはあるものな。」


「う、ううんそんなことない。タメ口で喋ることあんまりなかったから。こういう話し方憧れてたよドンキホーテ。」


「ほう!そうかい!そりゃよかったぜ!」


ドンキホーテは上機嫌で他に聞きたいことはあるかいと柔らかい笑みを浮かべながら言った。それならとエイダは1番気になることを聞いた。


「これから私のことを保護してくれる組織って、何?」


ずっと聞きたいことだった。あまりにも様々なことが起こりずっと忘れていたのだ。


「ああ済まない。1番大事な事のなのに、いうのを忘れていたな、俺たちの組織の名前は秘密結社「黒い羊」っていうんだ。秘密結社は自称だけどな。知られているといえば知られているし、知られていないといえば知られていない中途半端な組織でなー、目的は人類の平和を守る事で、邪神が封印された遺跡の調査の支援とかドラゴンとの和平交渉を手伝ったりとか色々してるんだ。俺も遍歴の騎士の仕事と被ることがあるから、手伝ってたらいつのまにか構成員になっちまってた。」


ハハとドンキホーテは笑った。遍歴の騎士、その職業にはエイダにも覚えがあった。そもそも騎士になるには血筋が重視されるものであり大体の場合貴族などがなるものだ。しかし、遍歴の騎士つまり旅を許された騎士になるのは血筋は関係ない。遍歴の騎士は実力さえ優れていれば冒険者からでもなることができる。しかし礼儀作法のテストや、武勲の有無を問われ。また遍歴の騎士になった後も。冒険者ギルドの治安維持や初心者支援、各地の善良なる人々の抱えてる問題の解決など様々な面倒ごとを押し付けられるため、なろうとする者は少なかった。


「おそらくなんだが、うちのボスを君のお母さんが頼ってきたということは、なんらかの理由があるはずなんだ。こんなことを聞くのは心苦しいが何か問題について思い当たったりすることはあるかい?話せる範囲でいいんだ。」


「母さんは何も書かなかったの?」


「ああ。」


なぜ、とエイダの心の中に疑問符がつく、なぜ母は私を保護するように頼んだのか。そもそもエイミーは本当の母ではないことをエイダは知っていた。13歳の時につまり死んでしまう前に話してくれたのだ。突然のことだったので驚いてしまったがそれでもエイミーを母と慕ったていた。もしかしたら、自分の出生に何かあるのか。エイダはそう考えた。しかし出生のことなどエイミーは話したがらなかった。まるで隠すように、エイダからその話をされるたびに遠ざけてきたのだ。最後の時ですらそのことは触れなかった。


「最後・・・」


エイダはどうしてか母の最後の言葉を思い出していた。「あなたの夢のこともあの人なら力になってくれるでしょう。」思い出した。夢だ。あの不思議な夢

エイダは長年不可思議な夢を見続けていた。透き通る。ガラスばりの家に立方体の巨大な柱に、馬のいない馬車、あの世界は本当は自分の生まれた場所だったのではないか。エイダは見るたびにそう思っていた。


「あの・・・」


「もしかしたらなんだけど」


エイダは夢のことを話した。これが何かのきっかけなのかもしれないと思ったからだ。

ドンキホーテはこの突拍子も無い夢の話を猫のアレン先生と共に真剣に聞いていた。


「もしかしたらエイダ、君は使者かもしれねぇな。」


「知っておるのかドンキホーテ?わしは皆目見当もつかん話しじゃったぞ」


「先生ェ、しらねぇのか今巷で流行してるんだ使者モノつまり別の世界から輪廻転生してきたものたちが活躍の娯楽小説がよ。」


娯楽小説の話かい!思わずエイダとアレン先生はずっこけそうになる。


「いやふざけてないぜ!実際確認されてんだ!神の使者は2000年前から皮切りにこの世が混乱している時か人々の切なる願いが天に届いた時に現れると言われているんだ!」


「娯楽小説にのう」


「事実に基づいたやつだってあらぁ!とにかくいたんだよ昔には神様から力を授けられそれを現世の人々ために振るう神の使者がよ。」


にわかには信じられないことだった。しかしエイダにはあの夢の世界が実は実在する別の世界だというのは妙に納得できた。

そしてドンキホーテとアレン先生が醜い口論をしている時だ窓が何者かに叩かれた。


「もうきたのか速いのぅ」


「アレン先生まだ話は終わってねぇぞ!」


「うるさいぞドンキホーテ、早朝に出した隼が帰ってきたんじゃ。」


「隼?」


エイダは疑問を投げかける。


「見るか?わしはな動物を使役する魔法が使える。それを利用してな黒い羊達のリーダーにメッセージを送っておいたんじゃよ。」


思ったより早かったがなそう言ってアレン先生と好奇心に駆られたエイダは隼に近づいた。



最初に異変に気付いたのはアレン先生だ。隼の体に致命傷があった。


先ほどまでは羽に隠れて気づかなかったが明らかに死にいたる傷であった。


この隼は死んでいる。死んでるが動いているのだ。


その隼は突然アレン先生に襲いかかった、しかしアレン先生は異常にいち早く気付いていたためかその場にいた誰よりも早く反応しその隼を再び殺した。いや正確には動ける体の部位が残らぬよう消し炭にしてしまったのである。


「先生!」


ドンキホーテが叫ぶ。ネクロマンサーだ。死体を操る

魔法使いが襲いにきたのだ。おそらくエイダを狙って。


「ドンキホーテ急ぎ体制を整えろ!おそらく隼を利用し結界を抜けおった!」


ふとエイダは何か違和感を感じ外を見てしまった。先ほどまでの花畑の他に何かがある。


黒い波だ。黒い液体の大きな波がこちらに向かってきている。その液体の中には無数の白骨化死体とまだ肉の付いている腐りかけの死体がまるで魚影のごとく蠢いていた。


その巨大な波はエイダ達のいる家を一気飲み込んでしまった。


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