動画日記 40010103

「4001年1月3日。天気は雪。

 吹雪くほどではないが積もるなって感じ。

 雪は別段嫌いじゃなかったが、積もるとマサル達の作業効率が落ちるから、今はあんまり見たくない。


 さて、今日は昨日言ったように施設紹介と行こう。

 

 まずは、俺の部屋。いつもの場所だ。

 いつもって言ってもまだ3日目か……とにかくここで昨日も一昨日も動画をとってる。

 まずここは2階なんだが、まあプライベート空間って感じ。


 じゃあ、移動しよう。さて、画像を俺の視点に切り替えてと。

 どう? 俺もアンドロイドだからね。こういうことも出来る訳よ。

 FPSみたいで良いだろ? 画面酔いには気をつけて。

 

 でー、そう。俺の部屋から。

 この部屋は2階というかロフトというか、部屋の中にこんな感じで階段とエスカレーターがある造りだ。

 2階がトイレと風呂を除いて20畳。1階が倍の40畳。

 中々豪華だろ?


 2階はプライベートスペースでこうしてキングサイズのベッドがデンと置いてある。

 ベッドの横のごちゃごちゃとしたこの装置は俺のメンテ装置。

 わざわざメンテの場所に行くのも面倒くさいから、前にマサルに持って来て貰った。

 寝てる間にやって貰う方が楽だからね。


 あとはクローゼットとワークデスク。おっと物騒な物が映ってしまった。

 これはここを見つける前に自衛隊の施設からパクった熱線銃。

 ここにも一応自衛用にいくつか備えられてるらしいけど、長い時間一緒に戦ったからかな、なんとなく相棒感があって使うときはコイツを愛用している。


 生前使われていたソードオフショットガンってやつにフォルムが似てる気がするけど、どうかな? イケてるだろ?

 

 さて次、スィン、カーテンを頼む」


『了解』


「こうすると1階からこのスペースは見えなくなる。スィンに頼まなくても手で引けるけどね。

 ここの施設はあらゆる場所がこうして音声指示で動くようになってる。

 持ち主の鬼堂ってお人はかなりの面倒くさがり屋だったのかな? まあいいけど。

 あそうそう、ここは因みに本来その鬼堂個人の部屋だったんだ。

 利用客には家族連れも多いからね。独りで生きるには広いけど、家族で生きるには……少なくとも金持ち達には手狭だろ?


 でこっちがトイレで、こっちがバスルームだ。

 バスルームの横には洗濯機も備えられてるけど、鬼堂が自分で洗う気があったとは思えんね。

 地下には何体か性交可能でメイドなアンドロイドが眠ってるし、というかここを乗っ取ったときにボロボロにされたメイドロイドの残骸がそこら辺に落っこちてたから、多分そう言うことなんだろうね。


 後はこの壁に埋まってるやつ。

 つまみとドリンクを扱ってる自販機……まあ買うのに金は要らないけど。

 コイツの中身の供給や部屋の掃除はスィンがやっている。正確にはスィンの手脚たるロボット達。生体組織のないロボットは自我を持たないからね。

 おかげで毎日を快適に過ごせているよ。


 じゃあ、階段を降りてみよう。

 階段の横にはこんな感じで御一人様エスカレーターが備わってるが、俺は使わない派だ。

 狭いし、部屋にエスカレーターはこう……気分が出ない。


 下は見ての通りリビングルームって奴だ。

 客が来たときも一応想定してたんだろうね。フカフカのソファが必要以上に置いてある。

 テーブルなんかも高そうだ。そもそもこの部屋の照明、ほら、シャンデリアだし。

 こっちのばかでかいモニタも客全員が見えるようにって気遣いだろうな、多分。

 あとは……トイレがいくつかと自販機がやっぱり2階と同じようにある位だ。


 では、部屋の外に出ようか。いつもは手で開けちゃうんだけど、スィン、扉を頼む」


『了解』


「部屋を出るとまず見えるのは中庭。見ての通り居住区は円形に出来ていて外周を部屋が、通路を挟んで内側をこうしてみどりのエリアにしている。植物も変異しているので中には人を襲うようになった植物もあるらしいが、幸いここにはない。


 他の部屋も中々豪華で7LDKの部屋が100部屋。下の階層に5LDKの部屋が200部屋。

 とまあ、ランクって奴がある。うん、世知辛いね


 次は食堂でも行こうか。

 コイツは俺の愛車のバギー“AWAKEN SHEEP”。


 バイクと違って安定感があって、車ほど幅が要らない。オフロードにも強いし、山道を走るにはコイツが一番だ。

 と思って整備室から出したんだけど、思いの他外出ないんだよね。

 今では施設内移動用のカートと化してる。

 

 気を取り直して、この中庭のさらに内側にあるのが食堂だ。じゃあ、出発しようか」




「さて着きました、と。ドームみたいな場所だろ? 照明は当然シャンデリアだ。


 入って直ぐのここでメニューを言えば出てくる。飯はさっき食ったばっかりだから注文は……アイスコーヒーを。」


『アイスコーヒーを一つですね?』


「ああ」


『承りました』


「とまあ、結局受付から料理までスィンがこなしてるわけだけど。ちなみに、俺のおすすめは『厚肉鯛の鱗焼き』。鱗がパリパリで美味いんだよ。

 5センチ厚の鯛のステーキとか俺が人間だった頃のやつらは食べたことないだろうな。当然骨なしだ。


 肉の培養技術が進化してあらゆる肉が形も大きさも自由自在だ。

 電気による刺激で筋肉の固さも調整出来る。

 で、えーと人間として生きてた頃はウン万円の牛肉が贅沢だったけど、アンドロイドになった頃はそういう高級肉文化は消え、美味い肉は誰もが口に出来るようになってた。


 じゃあ、金持ち達は何に手を出すかって、その結果が俺達みたいなプライベートアンドロイドって訳。


 あとはここの食事事情。

 施設の食料は、この更に地下にある都市型農場施設で野菜が、培養工場で肉が生産されてる。

 その材料に海水が必要で更に地下に行くと、太平洋に繋がるトンネルがあって、これを通して海水を汲み上げてる。

 もっと下の階層に地下熱発電施設、この施設が永久に動く為の心臓が建設されてる。


 地下の発電施設で生み出されたエネルギーで動くロボット達というかこの施設が1個のロボットみたいなもんだがね。

 それを、同じエネルギーで稼働するAI、スィンが制御して、この施設は成り立ってるってわけ。


 次は……そうだなちょっと外に出ようか」




「どう? 外だ。

 昨日もトリィの映像で見せたけど、改めて。緑が深いね。

 ここはシェルターの外部区画。俺は単純に“タワー”って呼んでる。でその屋上だ。

 要人達は最悪の場合に備えて、脱出も考えていたんだろうな。


 来たときはプライベートヘリが腐るほどあったんだけど、邪魔だったから片付けた。


 今あるのはコイツだけ。“DRAN22”。 

 ドローンの旋回性と戦闘機の速度を併せ持つ、空の帝王だ。

 アメリカの主力機で、日本にもやっと数台設置されたばかりの最新機……2000年弱も前の機体を最新機と呼ぶ空しさよ……

 

 翼を4枚持ち、長い首のような砲身を先頭に備え、後ろに長く尻尾が伸びるこの姿がドラゴンに似ている……ってことで、ドランなんて名前が付いたらしい……似てるか?

 バルカンが腕っぽく突き出た配置なのは狙っているのかもな。


 兵装は熱線バルカンと大型自動照準熱線砲、そして機体前部中央に突き出す大型電磁加速砲。

 なんでここににあるのかって? ここに来る前に頂戴してきたからだ。

 寧ろ早々にコイツを手に入れたから、ここを見つけて生き残ることもできたって訳。


 メンテナンスプログラムをインストールすればメンテはスィンがやってくれる。

 起動する機会もないから宝の持ち腐れ感半端ないけど。


 野ざらしって訳にはいかないからいつもはあの倉庫の中に入ってるんだけど、今日はこのために出した。というわけでドラン、君の出番は終わりだ。


 次、屋上中央のデカい高機能アンテナは、最近では天気予想位にしか使っていないけど、トリィからの映像データや“RABBIT”の受信、“MOUSE”発信機能も備えたシェルターを支える立派な設備だ。

 RABBITっていうのは早い話が集音機で……あー……その辺の話は別に良いか。


 うん、今日はこんなもんかな。ではまた明日」




-ブツン-




「うーん」


『どうかなさいましたか? マスター』


「いや、最後のくだりさ。誰がこれ視る想定なんだって改めて考えちゃって」


『新しい知的生命体がこの世界に生まれ、この動画が視聴され、内容を理解される可能性は0.01%です』


「いやそれゼロじゃね? いや、お前に言ったってしょうがないけどな。解ってやってたし。はぁ……何か虚しくなってきたな」


『如何致しましょう? マスター』


「んー……よし、これで気分転換は無理、ということが解ったということにしよう。明日からは何か別のこと考えるわ」


『マスターがそう仰ったとき実際に何かを考えた実績は---』


「スィン、シャラップ!!」

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