第39話 脅された記憶がある

「お前と出会った時から一緒にいた千花に一目惚れしちまってさ……」


 大沢の話が聞きたいけどその気持ちを抑えて浩一の言葉に耳を傾ける。


「それは知っていたよ」


「バレバレだよな。俺さ自惚れとかじゃなく小学校、中学校とまあまあモテていたんだよ。運動神経にも自信があったし顔だってそれなりに整ってるつもりだし」


 まあまあどころか実際はかなりモテていた。

 中学生の頃にはバレンタインデーが来ると、紙袋を持参してきて嫌味な奴だと思ったぐらいだし。

 ちなみに僕は千花から手作りチョコレートが1つだけ……


「自慢かよ。僕なんかまったくモテなくて羨ましかった」


「俺の方こそメモリーが羨ましかったよ。どんなにモテてもどんなにチヤホヤされても千花だけはいつもメモリーだけを見ていたから」


「そんなに想っていたのにどうして好きな相手にあんな事をさせたんだよ」


 今でも千花は苦しんでいる。

 僕に引け目を感じているんだ。

 自分の意思で僕を押したわけでもないのに……


「メモリーが小説を書くようになって、中学3年の時に書籍化が決まって千花の喜ぶ顔を見たら……自分の事のように嬉しそうに話す千花を見ていたら、気付いちまったんだよ。俺には1%の可能性もないんだって。そして卒業式の日にお前らは付き合いだした……」


「だからって!」


「分かってる!俺が一番分かってる……。でも一緒にいるとこを見るだけで胸が苦しくて悔しくて。なんで俺じゃダメなんだ?俺の方が相応しいだろ?ってずっと思ってた。そしたらお前はあっさりと俺を超えていきやがった。小説は大ヒットだしアニメや映画にまでなって、シンガーソングライター?ふざけんなって思ったよ。かなわねーじゃねーか……」


「僕だって簡単にここまできたわけじゃない!書いても書いても見向きもされなくて……それでも諦めずに何本も何本も作品を書いてようやく努力が実を結んだんだ!」


 誰にだって挫折やどうにもならない事なんていくらでもあるんだ。

 そこで諦めるか、それでも前に進むか、決めるのは自分自身だ。


「だよな……。お前はいつだって一生懸命だった。小説にしても勉強にしても千花に対しても。なのに俺の歪んだ心はいつしかお前ら二人を恨むようになっていた。なんで同じ学校に来てまでイチャイチャするとこを見せられなきゃいけないんだって。どうして俺まで同じ高校に誘ったんだよって」


「親友だから。きっかけは千花に近づくためかもしれない。それでもいじめられてるのを助けてくれて、その後はいろんな話をしたり遊んだり泣いたり笑ったり……あんなのバカな浩一が演技で出来るわけないだろ」


 気付けば僕も浩一も涙を流していた。


 一緒に過ごしてきたあの時間は、紛れもなく僕達にとっていい思い出だから……


「バカはひでーな」


「だって僕が勉強を教えなきゃ、バカじゃないか」


「それもそうだな。メモリー、今まで本当にすまなかった。編集者の人にも千花にも許されない事をして本当にごめん」


「簡単には許せることじゃないけど、償いとしてまずは協力してくれないか?浩一だってきっと助けが必要なはずだ」


「……分かった。この話をしたら俺は警察に行こうと思う」


「警察に行くときには僕も一緒に行くから」


 浩一が前に進む覚悟が出来たのなら……誰にだってやり直すチャンスはあるはずだ。


「その時は頼む」


 一呼吸して再び浩一が口を開く。


「俺はずっと大沢に脅されている。生徒会選挙の前から……」


 千花や小悪魔を脅していた浩一もまた大沢に脅迫されていた。

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