第37話 身を守る記憶がある

「それで?この世に言い残した事はあるかしら?」


「まるで死刑を受ける受刑者みたいな扱いしないでよ!」


「私の可愛い後輩の佳純ちゃんと早苗ちゃんを毒牙にかけたのだから当然ですわ。しかもわたくしを差し置いて……」


 最後はゴニョゴニョと小声で聞こえなかったけど、やっぱり誤解されている。


 ……世の中は理不尽だらけだ。


「白鳥先輩違うんです!氷河せんぱ……メモリー先輩は私達を暴漢から助けてくれただけです!」


「ほんとです!信じてください!め、メモリー先輩は恩人です!」


 ショックから立ち直った二人がようやく助け船を出してくれる。


 こちらの様子を俯き加減にチラチラと伺いながら、目を合わせようともしないで遠慮がちなところをみると、男性が怖くなってしまったのかもしれない。


「まあ、あなた達……メモ……」


 …メモ?ついさっきの出来事だから学校に報告する詳細はメモしていないけど、僕の頭には記憶されているから心配ない。


「なにがあった!大丈夫か?」


「メモリー!ケガはない?」


 ようやく千花が男性教諭を連れて来たようだ。


「犯人はそこに転がっている他校の生徒です。やむを得ず眠ってもらいました」


「無事でなによりだった。警察にも連絡するから状況を報告出来るようにしておいてくれ」


「わかりました」


 

 その後は警察にそして学校に事情を説明して、再び生徒会メンバーのみになった。


「ところでひとつ聞いていい?いじめられっ子だったメモリーがどうやってその不良達を撃退したのよ?」


 昔から僕をよく知っている千花が疑問を投げかけてくるのも当然だった。


「おじいちゃんから教わっていた氷河流護身術で二人を守ることが出来ただけだよ」


 小学生に入る前から毎日稽古を欠かさず二人で行っていた。

  

 護身術を身につけている上、僕には完全記憶能力がある。

 この能力の応用としては、動体視力の要領で動きをコマ送りで見ることが出来る。


 相手の攻撃動作が細かく見えているなら攻撃を避けるなんて簡単な事だ。

 小さな頃からコツコツと修行して積み重ねてきたからこそ、目と体と記憶能力を連動させて動けるけど、決して楽ではなかったあの稽古のおかげである。


「ふーん……って納得出来るわけないでしょ!なんでいじめられてた時に使わなかったのよ!」


「自分の為や攻撃するための技ではない。大事な人を護るための力だからむやみに使ってはいけないと教えを受けていたんだよ」 


「でも……」


 千花はいつも僕をかばってくれていたからどんな気持ちでいるのだろう?

 なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「ごめん……今度は僕が守る番だから」


「メモリー……」


「千花……」


「ううーん!ちょっとお二人さん勝手に盛り上がらないでもらえますか?ここは神聖な生徒会室ですよ!」


 小悪魔が不満そうに抗議の声を上げてくる。

 神聖だとー?自分だってお昼ご飯を無断で食べて、デザートのチョコアイスを机にこぼした現場を白鳥さんに見つかって怒られたって聞いてるぞ。


「メモリーさま、わたくしに提案がございます!」


「うわっ!びっくりしたー。後ろから耳元で大きな声出すから驚いたよ」


「そんなの知りません!それよりも最近物騒な事件が続いているのでぜひお願いしたいのですが」


 火事が起きてその次は後輩が襲われてナーバスなのだろうか?非常にご機嫌斜めのようだ。


「僕の出来る範囲の事ならなんでも構わないよ」


「でしたら……」



 * * * *



「「「よろしくお願いします!」」」


「よろしくお願いします」


 現在、僕達は生徒会室にジャージ姿で集合している。

 いったい何をしているか?


 白鳥さんのお願いとは、今後も危険が訪れる可能性があるのでみんなに護身術を教えて欲しいとの事だった。

 いつでも傍に僕がいるわけではないので即答で了承したのだ。


「護身術は相手を打ち負かすことが目的ではなく、安全に逃げられる方法だと認識してください。力の弱い女性でもきちんとした知識と練習で身に着ければきっと役に立つはずです」


「わかりましたわ。それではまず生徒会副会長のわたくしからお願いします」


 生徒会副会長はあまり関係ないとは思うけど、先頭を切ってやる気に満ち溢れている気がする。


「それではまずは―――」


「う、後ろから抱きつかれて押さえられた時の脱出方法をお願いします!」


 く、食い気味にくるな。

 それだけ危機感を感じているのか。


「そ、それでは、ど、どうぞ……」


 ……ま、まずい。

 いい香りはするし肌は柔らかいし、これでは僕にとっては違う修行になってしまいそうだ。


 次の千花は、


「う、馬乗りになられた時の脱出方法を……」


 い、いきなり馬乗りから襲われて始まるって変じゃないのか?

 僕が最初に教えようとしてたのは、手首の捻り方とかそんなだったのに……


 その後も次々といろいろなシチュエーションを要求され、僕のメンタルは完全に破壊されていた。


「最後はようやく私の番ですね!それでは先輩、寝技を教えてください!」


「下心しか見えないからムリ」


「わたしだけなんでですかー!」


 攻撃するのが目的じゃないってあれほど言っただろ。

 

 ……あとでちゃんと護身術を教えてあげるから泣きそうな顔するなって。


 次回はこちらから技を教えていこう。

 僕の理性を抑える修行になってしまわないように……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る