夏目清十郎 秘剣鬼刺し

三田久弘

第1話 八代将軍 

八代将軍 


正徳五年(一七一五年)七代将軍家継がわずか三年で夭折。将軍継承に奔走する幕閣は揉めに揉めていた。


浅草蔵前の一角にある間宮道場。無外流の達人、間宮重蔵が開いた道場である。

旗本の子弟や大名家の藩士凡そ二百名ほどが早暁から集まり、厳しい稽古に明け暮れていた。

昼時、門前に二人の浪人が現れた。

「たのもう」

「どおれい、何用かな」

「我々間宮先生の剣名を聞き、一手ご指南を受けに参った、お取次を願いたい」

道場破りかと思いながら、門弟高橋源ノ進は見所に座る師匠の元へ

「何事か」

「恐らく道場破りかと、二名来ております」

「ふふ、凝りもせずよう来るな、通してやれ」

「はっ」

薄汚れた武者袴で現れた二人組に間宮が尋ねる

「氏名流派をお聞きしたい」

「一刀流 鏑木又兵衛」

「同じく一刀流 斎藤玄蕃」

二人とも五尺半ばか、鍛えられた体躯をしている

「得物は木太刀でよいかな」

「かまわぬ」

「中川 相手をしてやれ」

呼ばれたのは道場で五番手と評価される中川三太夫

見所横に居た夏目清十郎は怪訝な顔で師匠を見た

一刀流の遣い手と見たが、何故中川なのか

間宮はニヤリと笑い、まぁ見ておれと言わんばかりの顔であった

中川といえば、近頃めきめきと腕を上げてきたが、少々天狗になっている節もある。まさか天狗の鼻を折らせるつもりか。

「はじめっ」

鏑木が先手か、中川は堂々とした構えから間合いを取り、中段に構える

鏑木は一刀流の構え、中段から木太刀を斜めに引いた。

じりじりと間合いを詰める中川だか、鏑木の斜め木太刀の構えに、なかなか打ち込めずにいた

蝉の声が途絶えた刹那、焦れた中川が木太刀を八双に引くと同じく鏑木の木太刀が中川の胴を抜いていた

「それまで」

中川は何が起こったのか分からない様子で壁に寄りかかっていた

「見事な腕前でござるな」

「次は間宮先生かな」

「はは、その中川は当道場では五番手でな、清十郎いくか」

間宮が夏目を見て言った。早々に片付けてしまえということか

「次は四番手か、長いのう」

「夏目はうちの師範代でな。勝てば道場の看板を差し上げよう」

この言葉に鏑木と斎藤は顔を見合わせニヤリと笑った

「鏑木殿、斎藤殿、面倒だから二人一緒にかかってもらおうか」

「なに、我らの腕をなめておるか」

間宮の言葉に二人は激昂した

夏目も呆れた風で師匠を見たが間宮はニヤリと笑うのみ

「仕方ない、お二人同時にお相手しよう」

「貴様なめおって、目にもの見せてくれる」

鏑木、斎藤が夏目を囲んで構えた。二人とも一刀流斜めの構えだ。

清十郎は右手一本で木太刀を持ち、右手後ろに構えた。

無外流の構えではない。

間宮が笑った

右に鏑木、左に斎藤。腕は鏑木が上と見たか。

鏑木と斎藤が目配せをした。同時に打ち込むのであろう

間合いは一間、門弟の息遣いが聞こえる。

再び二人の目配せがあったと同時に打ち込んできた

鏑木の木太刀が顔面を斎藤の木太刀が胴を狙って打ち込む刹那、清十郎の木太刀が鏑木の喉を打ち、引いた返しで斎藤の肩口を叩いていた

鈍い音が二つ同時に聞こえた

床に倒れた二人は痛みをこらえきれず、のたうち回っていた

一瞬の出来事に門弟たちも声がでない

ただ間宮だけは笑っていた


「何をしている、二人を外に放り出さぬか」

間宮の言葉に門弟たちも我を取り戻し、倒れた二人を外に放り出した

「清十郎、奥で茶を飲まぬか」

「はっ」

門弟たちは今あった仕合に興奮冷めやらず口々に「見えたか」「いや見えなかった」と首を傾げていた


「清十郎、おぬし無外流の門弟ではなかったか」

笑みを浮かべながら間宮が問うた

「はっ、ちと試してみたくなりまして、申し訳ございません」

「干支流か」

「はい」

「見事な技よの、そういえば干支流以外にも学んだと言ったな。鞍馬流であったか。無外流も免許皆伝じゃ」

「ありがとうございます」

間宮の娘、菊が茶と菓子を運んできた

清十郎を見ると顔を赤らめ、茶を置きそそくさと奥へ戻っていった


道場からの帰途、日本橋に差し掛かる川辺りで両替商伊勢屋の番頭に声をかけられた

「夏目さま、いつお戻りでしたか」

「おお、吉蔵どの、昨夜戻ったが、そのまま道場にな」

「ということは、今お戻りで」

「そうなるな」と笑った

「少し、寄っていきませんか」

店に寄らせて何か頼み事でもありそうな雰囲気であったが

「いや、風呂にも入りたいし、腹も空いておるでな、屋敷に帰る」

「さようでございますか、では夕刻にでも顔をお出しいただけませぬか」

「わかり申した、ではのちほど」

伊勢屋の裏手にある屋敷の門を潜ると

「若のお帰り」と声が響く

「おかえりなさいませ」

迎えたのは楓という、清十郎の妾である

「巳之助と竜蔵は戻ったか」

「はい、昨夜戻りました」

「うむ、風呂を沸かしてくれ、腹も減っておる」

「風呂は湧いておりますので、そのままおいでください」

この時代、内湯は珍しい

江戸は火事が多かった。それ故、火の気の風呂は旗本や大名屋敷と大店に限られていた。

清十郎が住む屋敷は両替商伊勢屋の裏手にあり、元は伊勢屋の持ち物であったが、清十郎の父 酒井伊豆守が清十郎に買い与えたものであった。

酒井伊豆守は石高三千五百石の旗本で、大目付を拝命していた

風呂から上がった清十郎は楓が用意した夕餉を食した

「酒はいかがなされますか」

「いや、よい。帰る途中でな、伊勢屋の番頭に呼び止められた、顔を出して欲しいとのことであったから、夕餉を済ませて顔を出してみる」

「なんぞ頼み事でしょうか」

「であろうな、普段より世話になっている故、無碍にもできぬであろう」


「ごめん」

伊勢屋の暖簾を潜ると

「これは夏目さま、お疲れのところ、お呼びたてして申し訳ございません、ささ中へお通りください」

番頭の先導で奥座敷へ通された

伊勢屋の主 吉右衛門が待っていた

「夏目さま、御用旅のお戻り早々にお呼びたてして申し訳けございません」

「何やら困り事でもありましたか」

「はい、近頃浅草界隈で盗賊が跋扈しているのはご存知でしょうか」

「道場が蔵前にあるでな、聞いておる」

「我ら商家でも盗賊に対して策を講じなければなりませぬ」

「それぞれ浪人を雇って寝ずの番をさせていると聞いておるが」

「さようで、しかしその浪人も腕は確かな者も少なく盗賊が現れると一目散に逃げてる始末でして」

「それはまた食い逃げ同然であるな。それで相談とは」

「はい、用心棒を雇いたいところですが、先程のような有様で、何か良い手立ては無いものかと」

「ふむ」

四半時黙視していた清十郎が

「伊勢屋、この辺りの町割り絵図面はあるか」と問うた

吉蔵に吉右衛門が促すと、町割り絵図面が出された

伊勢屋を挟んで東西に五丁あまり、大店十五軒があった

「伊勢屋、東は河内屋から西は丹波屋十丁あまりある」

「さようで」

「南に三丁」

「はい」

「この一帯を我が配下で結界を敷いてやろうか」

「どういうことで」

「結界を敷いて盗賊が現れたら捕縛してやるのよ」

「できますので」

「できる、が当然金がかかる」

「いかほど必要でしょうか」

「結界を敷くのに十人、捕縛用に十人。二十人が毎夜寝ずの番であるからな」

「それ相応の金子ですな」

「うむ、月にニ百両といったところか」

「ニ百両、大金でございます」

「用心棒一人に一晩一分が相場であろう」

「はい」

「二人雇って二日で一両、月に十五両であろう」

「はい」

「大店十五軒が月に十五両出せばいくらになる」

「ニ百ニ十五両でございます」

「であろう、それより安いではないか。盗賊が来たら逃げ出す用心棒より頼りになるぞ」

「確かに、明日にでも一帯のお店と相談してみます」

「拙者もな、配下を使うとなれば父上の許しもいるでな」


屋敷に戻ると実家の用人寅之助が待っていた

「寅之助、何事か 旅から戻ったばかりでまた旅に出ろではないだろうな」

「いいえ、若、明日城下がりで殿がお寄りになられます」

「それみろ、また何かあったな。まぁ良いか、こちらも用事がある」

用件だけ伝えると寅之助は戻っていった


楓か酒を持って書院に入ってきた

「若、伊勢屋はどのような用向きでしたか」

「仔細は決まってから伝えるが、ここら一帯の用心棒をやるやもしれぬ」

「え、用心棒を」


翌日、下城した酒井伊豆守が籠に乗って日本橋伊勢屋の裏手に来た

「殿様の御成である」

玄関で出迎えた清十郎は

「父上、早いお運びで」

「清十郎、丹波では難儀をかけたな。若年寄 佐々木丹波守どのの頼みとあれば仕方ない。万事上手くいったか」

「はい、話を鵜呑みにはできませず、真偽を確かめた上で丹波守さまのお指図通りに」

「それは重畳」

「ところで本日は何事で」

「うむ、家継様が夭折されて次の将軍に誰をと揉めていたのは存じておろう」

「はぁ、噂話には聞いております」

「お主は政には興味がないからのう。次の将軍に紀州藩主 吉宗様が決まった」

「左様ですか」

「尾張家の横槍もあったがの、これで安心と思いきや、ここに来て不穏な動きが聞こえてきた」

「と言いますと」

「吉宗様の江戸入城を阻もうとする尾張家の動きじゃ」

「はぁ、将軍とはそんなになりたいものですかね。城に入ったら気儘に出ることすら出来ず、籠の鳥ではないですか」

「はは、それでも天下の将軍じゃ、諸国を牛耳ることができる」

「それがしには向きませぬな」

「まぁ良い。それでだ、尾張家としても江戸入国を阻むとすれば、領内では不味い。尾張家のやったこととは言えぬからの」

「はぁ」

「狙いは六郷の渡しあたりと踏んでおる」

「それで」

「配下を率いて影警護をやってもらいたい。何としても尾張家の策謀を止めねばならぬからの」

「いつ頃のことで」

「予定では七日後の十八日と思われる」

「わかり申した、父上、一つお願いがございます」

「なんだ」

「実はここ一帯の商家から用心棒を頼まれまして」

「用心棒だと。またおかしなことを。何をするのだ」

「はい、配下ニ十人で結界を敷き、盗賊どもを捕縛します」

「いくらで受けた」

「月にニ百両」

「はっはっは。面白い。干支組の鍛錬にもなろう。じゃが人手は足りるのか」

「干支の里から呼び寄せようかと」

「なるほど、許す。好きにせい」


翌日、伊勢屋がやってきた

「若さまはおいでか」

「はい、中へどうぞ」

書院に通された伊勢屋はキョロキョロと落ち着かない。清十郎が部屋に入るなり

「夏目さま、お店と話し合いまして決まりました。よろしくお願いします」

「早いな、まぁ良いか。楓」

「はい」

「里に繋ぎを出してニ十人ほど呼んでくれ。仔細は書状に。急ぐ」

「はい」と応えた楓は、裏の長屋にいた巳之助に仔細を伝えた

「ニ十人か、急ぐのだな。これより走る」

干支組忍び十二組の六番組頭の巳之助にとって、里への十ニ里は指呼の間。

その日の夕刻には着いていた。


干支の郷 武蔵国の山中にある隠れ郷である。干支組の頭領は干支右エ衛門

「頭領、清十郎さまからの書状を持ってまいりました」

「なに、ふむニ十人な。手練が良いとあるな。陣五郎はおるか」

「はい、ここに」

「手練をニ十人集めよ。清十郎若さまからの依頼じゃ」

「承知、いつ出立いたしますか」

「すぐにとある。急げ」

「はっ」


「清十郎若さまからのお呼びだ。行きたい者はおるか。ニ十人じゃ」

と呼びかけると、我も我もと五十人ほどが手を上げた。

「まったく、清十郎若さまとなると皆行きたがるで困るわい」と笑いながら、手練をニ十人集めた。


「巳之助と共に江戸へ走れ」


翌朝、清十郎の屋敷に着いた一行は清十郎の話を聞いていた

「この絵図面を見よ。ここからここまで、河内屋から丹波屋までの一帯に結界を張る」

「結界を張ってどうなさるので」

「近頃、江戸市中に盗賊が跋扈しておってな。大店が揃っている日本橋界隈も狙われておる。伊勢屋から頼まれて干支組で日本橋界隈に来た盗賊どもを捕縛しようと考えたのじゃ」

「なるほど、それは面白い」

「勿論ただではない。一月二百両入るからの。お主らにも一人頭三両を与える」

「おお、三両とは豪勢な」

「残りは干支組のために貯めておく。まず十人で結界を張れ、残りの者は合図とともに捕縛できるよう中程におるように」

「ははっ」

「今宵から始めるゆえ、体を休めておくように」


「楓、組頭は何人おる」

「全員揃っております」

「呼んでくれ」

「はい」

奥からぞろぞろと十二名が書院に入ってきた。

干支組とはその名のごとく子組から亥組までの十二組。

各組頭の下に小頭二名、小頭の下に三名の忍びがいて、総勢百八人の忍び集団であった。

「若さま、何事かございましたか」

まとめ役の子組組頭、子之助が問うた。

「父上からな、ちと面倒な頼まれ事じゃ」

「殿様からの頼まれ事で面倒ではないものはございません」

一同が笑った。

「八代将軍が決まったらしいが、皆聞いておるか」

「なんでも紀州の吉宗公とか」

「巳之助、よう知っておるのう」

「世間の噂を集めるのも我らの役目と存じておりもうす」

「ふっ、であるな。それでじゃ、父上の申すには吉宗公の将軍就任に邪魔が入ると言う」

「それはまさか尾張」

「そのまさからしい、吉宗公の江戸入りが十ハ日、江戸に入る前に襲撃を企てているようだ」

「それで、どうせよと」

「尾張一党が襲うとすれば六郷の渡し。そこで影警護をなし、無事に江戸入りを果たしていただく」

一同が黙り込んだ。

子之助が問うた

「尾張家が襲撃を企てるとすれば、尾張公の御側御用を務める御土居下組かと」

「さよう、手強いな。あやつらも忍び。しかし、襲撃となると多勢では来るまい。凡そ五十か」

「六郷の渡しか、渡る前に襲撃ですな」

「左様、渡る前だな。六郷神社あたりは林が多い。潜むには格好の場所であろう」

「林の周りを先に囲みますか」

「先手を打つには、先に潜むしかないの。ちと早いが明日より潜伏の手立てを行う」

「人数は」

「すべての組で行く。事は将軍の影警護。失敗は許されぬゆえな」

「ははっ」


時は享保元年八月十ハ日

吉宗公と同行する家臣四十名。尾張家の不穏な動きがあるというのに、余りにも少ない行列であった。

東海道を東に、じきに六郷神社に差し掛かるところで動きがあった。

静かに、行列へ近づく御土居下組、その数五十名。

丘の上から見て取った清十郎一行も、静かに御土居下組を囲みつつあった。


御土居下組の目は吉宗公に向かっている。それ故清十郎たちの動きが見えなかった。

吉宗公一行が六郷神社を抜けたあたりで御土居下組が襲いかかった。

不意を突かれた吉宗一行は、吉宗を守るに必死である。

清十郎の合図で干支組百八人が御土居下組に襲いかかる。

吉宗一行は何か起こっているのか分からぬ様子であったが、襲って来た集団に向かう集団を見た。

馬に乗った侍が吉宗公の籠に近づいてきた。

近習たちが慌てて籠を囲み、侍に刃を向ける。

「お待ちあれ、我ら吉宗公を守らんと影警護をしておった者でござる。襲撃者は我らが抑える。各々方は吉宗公を六郷の渡しへ」

籠が開き、吉宗が顔を出した。

「影警護とな。その方名は何と言う」

「大目付 酒井伊豆守の配下 夏目清十郎と申します」

「大義である」

吉宗一行は、清十郎と干支組に守られながら六郷の渡しを渡り、無事江戸入りした。

御土居下組の死者は二十人ほど。襲撃失敗とみるや、さっさと引き上げていった。


「怪我人はおるか」

「清十郎さま、全員無事でごさる」

「そうか、良かった。役目は終わった、引き上げるぞ」


二日後、江戸城謁見の間には老中以下幕閣が揃っていた。

筆頭老中 阿部豊後守正喬が

「上様、無事のご入城恐悦至極に存じます」

「まぁ、無事とも言えなかったがの」

「はぁ、何かございましたので」

「まぁ良い。そちたちの願いにより将軍に就いた訳じゃが、幕府の台所は火の車であろう」

「ご明察のとおりでございます」

「紀州では改革を行い財政は豊かになった。幕府の改革もやりたいようにやらせてもらうからの」

「はぁ、それでは我らのやる事が無くなります」

「お主らのやってきたことが火の車にしたのじゃ、黙っておれ」

幕閣一同は顔色をなしたが、言い返す言葉が見つからない。

「わしの意を汲みお主たちに伝える役ととして側用人を置くゆえ、心しておけ」

「ははぁ」

「さて、大目付酒井伊豆守はおるか」

「ここに」

「お主が伊豆守か。他の者は座を外せ。伊豆守と話がある」

酒井を残して幕閣一同が退出していった。

「伊豆守よ。大義であった。まさか襲撃されるとは思わなんだでな。しかし、良く企てを察知したの」

「大目付の職責でございますれば」

「なるほどのぅ。影警護に名を問うた、伊豆守配下の夏目清十郎と申したが、中々の手練よの」

「お褒めのお言葉ありがとう存じます」

「配下ということは、お主の家人か」

「いえ、あれは倅でございます」

「なに、倅とな。じゃが夏目と名乗ったぞ。養子にでもいったか」

「訳がございまして」

「なんじゃ、言ってみよ」

「清十郎は側室に産ませた子でございまして、その側室も産んですぐに日立ちが悪く亡くなってしまいました」

「それはまた残念な」

「はい、正室との折合いが悪く、家を出ておりまして、今は側室の旧姓を名乗っております」

「なるほどのう。しかし、良い腕をしておる。わしの側近に加えたいぐらいじゃ」

「恐れ多いことでございます。あやつは城務めには全く興味もなく、今の暮らしを楽しんでおります。」

「しかし、お主からの小遣いだけでは生きていけまい」

「私の職責の手伝いをしておりますれば」

「ん。大目付の職責を手伝っておるのか。ならば諸国探索もやっておるのか」

「はっ」

「そうか、益々側近に欲しくなったわい。ところでの、襲撃してきたのは尾張のものとみた。それも忍びの御土居下じゃ。それを抑えたお主の家人ども、あれも忍びであろう」

「はい、三河以来の家人でございまして」

「それで納得した。これからも大目付として励め」

「ははっ」

「それとの、一度その倅と話がしたい。何かの折に連れてまいれ。礼もしたい」

「ははっ」

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