第7話 知らない部屋

 目を覚ましたのは、やはりあの時の病院のベッド。ではなかった。僕が目を覚ました場所は、初めて見る場所であった。

 桜模様がプリントされた壁紙が周囲全方向に張り付けてあり、一面に桜模様が吹き荒れている。畳の床を見ると、桜の花びらが散らばっている。

 和室のような部屋の中心に置かれた布団、端には窓ではなく突き抜けの庭が広がっているばかりである。


「ここは……」


 何食わぬ思いでそう呟いた。

 その呟きを聞いたようで、頭の方で正座していた和の着物を着た女性が優しく僕の顔を覗く。


「ようやく起きたのですね。イージス殿」


 大人びた女性ーー彼女の唇は見とれてしまうくらいに魅力的な赤色をしており、その赤に吸い込まれそうな程に透き通っている。


『美しい』


 彼女にはその言葉が良く似合う。

 僕が彼女をずっと見ていると、彼女は顔を赤らめて笑った。


「そんなに見られると困ります」


「ご、ごめん」


 僕が目線を慌てて逸らすと同時に、サンダー先輩やアニー、アリシア先生が襖を開けてこの部屋へと入ってきた。

 僕と彼女が顔を赤らめているのを見て、アリシア先生の顔はにやつく。


「おやおや。青春していたとこ悪いな」


 アリシア先生は冗談交じりに言った。

 彼女はアリシア先生へと火の玉を放つが、アリシア先生はそれを容易く凍らせた。


「すまんすまん。それよりイージス、もうケガは大丈夫なのか?」


「はい。折れていたはずの足もちゃんと動きます」


「そうか。ではもう特訓を開始しても大丈夫だな」


「速!」


「まあまあ、魔法剣士の見学をしたら、またすぐ他の職業の見学もするのだろ。だったらなるべく速く魔法剣士の心得を教えた方が良いんじゃないか?」


 確かにアリシア先生の意見は一理あるな。


「では先生、一日だけ休みをください。確か今日は百年に一度開かれる、三十日にも渡る原初魔法祭げんしょまほうさいがあります。その一日目に、どうしても訪れたいのです」


 原初魔法祭は魔法の始まりを祝う祭りだ。

 それは魔法学園、ならびに魔法学園に附属している病院や商店街などを巻き込んで行われる一大祭りだ。

 どうしても僕はその祭りの初日に参加したい理由があった。


「お願いします」


「そうだなー。良いけど、その代わり明日は二日分の修行をしてもらうぞ」


「解ってますよ」


 こうして僕は祭りへと足を赴くこととなった。

 年に一度、三十日にも及ぶ祭りが開かれようとする中で、五人の魔法使いは悪人面をし、ダンジョンへと赴いた。


「ダークさん。あの時の新入生ですけど、どうやらここダンジョンで戦龍と戦って、ボロボロになって帰ってきたそうですよ」


「へえ。でもあの戦龍と戦えるほどの実力を持っているのか。それはまたサンドバッグにしたいな」


 ダークという少年はいっそう悪い笑みを浮かべ、杖を片手に振り回す。


「ダークさん。これからどこへ向かうんですか?」


「そんなの決まっているだろ。《戦龍の眠り家》だよ」

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