魔法使いの空飛ぶ学園

総督琉

一年生編

第1話 魔法の世界

 魔法とは何だ?

 戦うための武器、人を護るための盾、誰かを癒すための光、

 答えは様々だが、私は魔法とはこんなものだと思っている。

 ーーそれはファンタジーにだけ存在する偉大なる夢であり、人がこの先一生手に入れることがでいないであろう希望。

 まあ人それぞれに意見がある。だから私はこれ以上話すことはしないでおこう。

 ではこれより、少年少女による「魔法とは何か?」を問う授業を始めよう。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「イージス。もうすぐ学校が始まるよ」


 二階でなる鬱陶しいまでの目覚ましの音に腹を立て、一階のキッチンで料理をしている母は眠っている僕に大声で怒鳴った。一階からでも、二階にいる僕には十分すぎるほどに良い目覚ましだった。


 僕は蛙が跳ねるようにして飛び起き、アロハのような服の上から、とある学園の制服である黒いローブを身に付け、一階へと足を走らせる。


「ちょっとイージス。いつまで寝てるの?」


 怒りが交じった母の言葉に、僕は寝癖を手でなぞるようにして整えた。

 観葉植物のようにリビングの端に置かれた机へと足を進め、大きなあくびをしながら背もたれのある椅子に座る。


「『走れ、料理ランニングディッシュ』」


 母が皿に乗った料理に向かって杖を調味料のように振りかざすと、皿は宙を浮き、僕がいる机にコトンと音を立てて置かれた。

 そう。僕がいる世界には、魔法があった。

 だからこそ皿は浮き、料理がとても良い臭いを放っている。胃袋を掴み取られたような感覚に陥り、僕は料理に食らいつく。


 分厚いながらもふわふわ食感が残るパン、その上に無造作に置かれた半熟卵との組み合わせが僕の食欲を注ぎ、一分もしない内に食べ終わった。

 一回腹を優しく叩き、僕は時計に目を移す。短針は8の少し手前で止まり、長身は10の丁度ど真ん中で静止していた。


「もう8時!?どうして起こしてくれなかったんだ?」


「起こしたわよ。だけどイージスは全然起きないんだから。もしやとは思うけど、入学式で遅刻するのはあなたが初めてじゃないの?」


 冗談交じりに談笑をする母の話に口角を緩め、僕は急いで玄関へと向かう。昨日買ったばかりのスニーカーを自慢げに履き、家を出る。

 扉のすぐ横に立て掛けてある僕と同じくらいの身長のほうきを手に取り、そのほうきに僕はまたがった。


「ちょっとイージス」


 ほうきにまたがった状態で振り返り、玄関の扉を押さえている母の顔を見る。


「何?」


「いってらっしゃい」


「いってきます」


 笑顔で見送られ、僕は笑顔で空を飛ぶ。

 ほうきが鳥のように空を駆け、僕は初めて空を飛ぶ。


「ひゃっほー」


 空を飛んだ快感に身を震え上がらせ、僕は今まで育ってきた小さな村を上から見下ろす。

 一軒一軒が行列のように並べられ、朝早くから公園で遊んでいる子供たちを笑顔で見つめると、その子供たちが手を振ってきた。


「おーい。魔法使いさーん」


 僕は笑顔で振り返す。


「ばいばーい」


 おっと。そんなことを言っている場合ではなかった。

 朝の8時まで学校につかなければ、入学式が始まってしまう。そんなことになれば、僕は遅刻ということになる。


 初めて乗るほうきの感覚に酔いながらも、僕はほうきをひたすら空へと進める。だが初めて乗るせいで、あまりスピードが出ない。教科書や動画で見ただけで、実際に乗るのは今日が初めて。

 くそ、こんなことならほうきの練習をしておけば良かった。

 後悔にさいなまれ、成功者の努力の必要性を身に染みて感じる。


 ため息に支配されていると、どこかからか、雷鳴にような轟音が聞こえてくる。


「まさか……!?」


 背後を見ると、ものすごい速度で空を覆い尽くさんとする雷雲が迫ってきているのが見えた。


「はははっ……。終わったーー」

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