第58話 ゴブリンロード戦②

「待たせたな。俺たちも参加するぜ!」

 アルパーティがゴブリンロード戦に参戦してきた。


「足手まといにならないよう、攻撃したらなるべく距離を取れよ!」

 ハーマンがアルとエリーに声を掛けた。


(なんだコイツ、むかつく野郎だな)


 アルもエリーも、ハーマンの言いようが気に食わなかったが、相手にはせず戦いに集中することにした。


「はは」

 そんな様子を、ジーンはニヤニヤしながら見ていた。



 アル達が参戦したことにより、戦況が一変した。


 さすがのゴブリンロードも、相手の数が増えることで対処が間に合わなくなり、攻撃を受ける回数が増えてきた。

 とくに魔法や弓矢への反応が遅れ、徐々にダメージが蓄積していっている。


「よし、アル君たちが来て流れが変わったね!」

「そうだな。しかもやつら、意外と考えて戦ってやがる。俺たちの動きに合わせて攻撃してるようだぜ」


「うん、学園で教わったわけでもないのに、大したもんだね」

 ジーンもハーマンも、アル達の戦いぶりに驚いていた。


 ただ、当のアル達はそんな余裕があったわけではなかった。

 ゴブリンロードを目の前にしてその存在感に圧倒され、攻撃を当ててもまったく手応えを感じない。


(くそっ。盾戦士は攻撃力重視じゃねえって言っても、さすがに悔しいぜ……)


 アルは、ダメージをあまり与えていないことに歯痒さを感じていた。

 アルの武器はショートソード+1。もともと装備していたショートソードに、魔鉱石を使って魔法付与をし、攻撃力を上げた剣だ。


 それでもこの巨体のモンスターには通用していない。

 与ダメージが見えるわけではなかったが、低いダメージしか与えてないことは感覚で分かった。


 エリーも、いつものように戦えていないことを実感していた。

 普段は、モンスターの攻撃をほとんど避けることができるので、相手のふところに入り倒すまで攻撃している。


 しかしゴブリンロード相手に、そうはいかなかった。

 一発でも喰らえば致命傷になりかねないので、攻撃を当てるたびに一度距離を置くことを余儀なくされていた。


 アルとエリーは、ゴブリンロードの気を逸らすためだけの役割に、居たたまれない気持ちになっていた。


 それでも集団戦においては大事な役割だと、ジーン達は理解していた。

 攻撃力なぞレベルが上がり、武器を変えればいくらでも強くなる。それよりも各自が役割を果たすことのほうが、遥かに重要なことだと。


「そろそろだな」

 ハーマンはジーンに目線を送ると、槍を構えなおし、

「疾風突きぃぃぃぃっ!!」

 と叫びエクストラスキル攻撃を発動させた。


 今まで一番強力な一撃がゴブリンロードを捉えると、

「みんな、範囲攻撃に備えてっ!」

 ジーンが全員に合図を送った。


 アルが盾を構え防御態勢に入ると、その後ろにエリー、シンシア、レネオがくっつき攻撃に耐える準備をした。


 ゴブリンロードはハーマンの一撃でHPが半分を下回ると、殺意ある雄たけびを上げた。

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」


 そして両手で持ったハンマーを大きく振りかぶり、そのまま床に叩きつけた。


 ガツン!!!


 大きな音と同時に、衝撃波が部屋全体に拡がった。


 「うおぉぉぉ!」

 アルは声をかき消されながらも、かつて感じたことのない大きな衝撃に耐え続けた。


 自分が防御の態勢を崩すと、後ろにいる仲間の命に係わる。

 本気でそう思えるほど、強力な衝撃が全身に伝わってきた。



「みんな、大丈夫か?」

 衝撃波が収まると、辺りは埃で視界が悪くなっていた。

 アルは背中から聞こえる息遣いに安心しながら、声を掛けた。


「みんな無事だよ。でも、パーティステータス見てみて」

 レネオが一番後ろからそう答えると、アルはパーティのステータス画面を開いた。


「一発で全員半分以下か……」

 名前の表示が全員黄色になっていた。


「すぐに回復します」

 シンシアがヒールの魔法を唱えだした。


「シンシア、僕はポーション使うから、アルとエリーの回復をお願いね」

 レネオはそう言ってHP回復ポーションを荷物から取り出した。


 視界が開けるまでに、回復を急ぐ必要があった。

 範囲攻撃の二回目は、魔法のインターバルと同じですぐに打てないという話だったが、この埃が落ち着けば再戦は始まる。


 強力なゴブリンロードを相手にするため、万全な状態にして挑まなければならなかった。


「アル君たち、大丈夫かい?」

 埃の向こうからジーンの声が聞こえた。


「ああ、全員無事だ」

 アルがその声に反応する。


「お前ら、次にゴブリンロードの姿が見えたら総攻撃だ。さっきの二回目が来る前に決着をつけるぞ」

 違う方向からハーマンが言ってくる。


「ああ、分かったぜ」

 アルはハーマンに答えると、いつでも飛び出せるよう剣を構えた。



 それから緊張した時間が流れた。


 部屋を舞った埃は少しずつ減り、まずはジーンとハーマンのパーティが薄っすらと見えるようになった。

 彼らも回復を完了させ、いつでも戦えるよう構えていた。


 アルは自分の心臓の鼓動か聞こえていた。

 剣を持つ手は汗で濡れている。


 再戦を待っている間、恐怖と緊張感が全身を包んでいたが、アルはそれ以上に高揚感を感じていた。

 命懸けでの強力なモンスターとの戦い。これこそが冒険の醍醐味で、故郷の村を飛び出してまで求めた戦いだった。


(待ってろバケモノ。すぐに退治してやるぜ)

 アルは武者震いが止まらなかった。


「見えたぞぉ!!」

 ハーマンが叫ぶと、全員が突撃した。


 ゴブリンロードとの二回戦が開始された。

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