第35話 パーティメンバーの応募

 ロアミア教団の騒動から一週間が過ぎ、アルとレネオは日常に戻っていた。


 ジャンの話によれば、ロアミア教団の二人は恐喝と違法薬物の販売のため牢獄に送られたそうだが、その入手ルートが解明されず、調査は引き続き行われていた。

 ただ、冒険者ギルドとしての調査クエストはランクCに設定され、アル達の出番になることはなかった。


「妙におまえらはロアミア教団に興味あったみたいだが、もう手を引くことだな。危険な裏組織との関係も噂されてるし、手に負えるもんじゃなさそうだ」

「ああ、そうだな……」


 ジャンの忠告に、アルがあまりにも素直に返事するので、ジャンとレネオは思わず顔を見合わせた。


「なんだアル、今日は謙虚じゃねえか」

「そういうわけじゃねえよ。ただ、ジャンのおっちゃんの言う通り、俺たちなんかじゃどうしようもないってだけだ」


 アルはまだ悔しさを引きずっていた。

 運悪く負けたわけではなく、明らかに実力差で負けた。今の自分たちでは役に立たないことを思い知らされた。

 もっと強くならないと、アルにそう強く思わせる出来事だった。


「そうそう。そういえばな――――」

 ジャンが話題を変え、画面の操作をし始めたかと思うと、


「ほら。お前らのパーティメンバー募集、応募が一件あったぜ」

 と画面を二人に向けた。


「うそ、マジで!!」

「ホントですか!?」

 待ちに待ったというか、募集してたのを少し忘れかけてたぐらいなので、突然の知らせにアル達は驚いた。


 二人は食い入るように画面を見ると、応募者の情報が載っていた。


 シーフ レベル10 16歳

 僧侶 レベル10 16歳


「レベル10? 16歳?」

 アルが反応に困ったような表情で言った。


「はっは。おまえらとほぼ同時期に登録した新人だ。シーフと僧侶、組み合わせとしては最高だろ?」


 アルとレネオは自分たちのことを棚に上げ、そのレベルと年齢に頼りなさを感じていた。

 応募してくるのは、自分たちよりレベルが上の冒険者だと勝手に想像していたのだ。


「僕らみたいに、レベル10から始める冒険者もいたんですね」

 レネオも戸惑いながら言った。


「まあな。おまえらみたいなのも中にはいるってことよ。というか他はその二人しか俺も知らねえがな」

 ジャンの笑い声がギルド内に轟いた。


 アル達が目指しているのはウォルテミスダンジョン。

 自分たちと同程度の冒険者が二人増えたところで、どうにかなりそうか必死で想像していた。


「どうしよっか、アル」

「そうだなあ、まさかレベル10とはな」


 二人が悩んでる様子を見て、

「おまえら言っとくけど、レベル11とパーティを組んでくれる冒険者を探すのは難しいぞ。普通は同じようなレベルでパーティを組むが、レベル11ぐらいで活動しているのは俺でもあまり見かけないからな」

 と釘を刺さすように言った。


「やっぱりそうですよね……」

「ああ。もうすぐ冒険者学園の卒業生が登録に来る季節だが、最初からレベル14~16ぐらいだしな」

「そんな高いのか……」


 アルとレネオは改めて、自分たちは厳しい環境で冒険者を始めたんだなと感じた。


「どうすんだ? OKなら明日の朝に待ち合わせできるよう手配するぜ」


「なんだよ、答えは一つしかないんだろ?」

「だよね」

 アル達は決心がついた顔でジャンを見た。


「いいんだな?」

「ああ、その二人とパーティ組むぜ!」


「よしきた。ウォルテミスダンジョンの探索も、もう一度受領にしておくぞ!」

「お願いします!」


 今日は何のクエストもしないことを決め、明日の準備のために二人は冒険者ギルドを出た。


 道具屋で松明を買った帰り道、レネオは新パーティを想像し、

「戦士、魔法使い、シーフ、僧侶。バランスのいいパーティだね」

 と歩きながら呟いた。


「そうだな。念のため薬草と回復薬は持っていくが、僧侶がいれば足りなくなることはなさそうだ」

 アルは、ロアミア教団に倒された時、生まれて初めて体験した回復魔法を思い出していた。


「そうだよね。前衛もアル一人じゃなくなるのが大きいね。アルが盾で防いでる間に素早く攻撃してくれそうだし。攻撃力が高いシーフだといいね」


 アルは盾装備の戦士のため、両手持ちの剣や斧装備より攻撃力が劣っていた。

 そのためメインの攻撃はレネオの魔法に頼ることになっていたので、MPの消費が激しく、長期戦が難しかった。


 レベルのことを差し引いても、シーフと僧侶の加入は大きな意味がありそうだ。

 長年に渡り一緒に過ごしてきたアルとレネオのような、息の合った連携をとるのはすぐには無理かもしれないが、それぞれが役割を分担して戦えば、きっと今までより強くなれる。

 二人はそう確信していた。


「それに、二人とも僕らと同じ歳みたいだし、友達になれるかもね」

「おお、たしかにそうだ!」


 村を旅立ってから、今までずっと出会ってきたのは年上の人たちで、世話になるばかりだった。

 ここへきて、初めて自分たちと対等な相手に、アル達は新しい仲間との出会いを期待した。


「16歳の二人って、俺たちみたいに幼馴染とかかもな」

「うん。どこかの村の男の子二人が、冒険を夢見て旅立ってきたのかも」

 違う村からやってきたアルとレネオ。そんなイメージを持つと、明日待ち合わせするのが楽しみになってきた。


「よし、明日は四人でダンジョン探索だ! 気合入ってきたあ!」

 アルは突然走り出した。


「急に走らないでよ!」

 レネオも嬉しそうにアルを追いかけた。



 翌朝、待ち合わせ場所は冒険者ギルドの中だった。

 中にテーブルと椅子が置いてあり、冒険者が座っているのをよく見掛けていたが、こういう待ち合わせとして使うことを初めて知った。


 アル達は、ジャンに指定されたテーブルにつき、新しい仲間を待っていた。


「やあ、あんたらがアルとレネオかい? 今日はよろしくな」


 間もなく新メンバーはやってきた。

 アルとレネオは声を掛けてきた相手を見ると、そこには二人の少女が立っていた。

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