大決戦! ボクは男だ!!!!【2-1】

 一人。

 独りではない。

 先日朝美と出掛けた喫茶店の横の空き地。より具体的に言うならセソダの空間に真昼は一人立っていた。だが不安は無い。目視は出来ないが近くに仲間が控えており、何時でも駆け付けてくれるからだ。

 今の真昼はタテヤマを誘き寄せるための囮だった。少しばかり精力を垂れ流していれば察しの良い標的が来ると信じて、だ。無論真昼の精器を持つ他の人物が来ることも考えられるが、ターゲット以外の接近は夜兎の配下が対応してくれる手筈となっている。

 暑くもなければ寒くもない世界で立ち尽くす。そうして三十分が経過し集中力が切れてきた時、今回のターゲットの影が遠目で確認出来た。


 来た!


 落ち着いた足取りで着実に近付いてくる。

 真昼は戸惑うことなくただただ首から下げたアクセサリーを握りしめ、敵が近くに寄ってくるのを待った。


「これはこれはこんにちわ、我が主人。まさかまたお会い出来るとは夢にも思いませんでした」


 優雅な仕草でタテヤマが高らかに挨拶を繰り広げる。巨漢でありながらも動作は滑らか。犯罪者でなければ教えを乞いたいと思えるくらい節々の所作が綺麗だった。


「ボクは正直会いたくはなかったよ」

「では何故私に誘い出したのですか。あのような甘い匂いが漂えば否応にも接触したくなりますが」


 真昼の精力を『甘い匂い』と例えたタテヤマに、つい樹液に群がるカブトムシを連想してしまう。しかしただちに馬鹿な想像を霧散させる。


「主人の精器を分けて貰う手段が無い私には会う理由がありません。しかし勘違いしないで貰いたいのですが、またお話することが出来嬉しく思っています」

「……ボクには会わないといけない理由があるんだ。ボクはお前を止めないといけないから」

「何を? 何故?」


 当然の疑問のようにのたまう。人ではあっても考え方は全く違う生き物なのだとはっきり分からされる答えだ。


「お前がこれから起こす殺人を止めるためだ。ボクはボクの力を使って悪事を働くことを決して許さない」

「悪事……?」


 首を傾げるタテヤマ。自身の行いの善悪を分かっていない心からの仕草を見て、真昼はそっと溜息を吐いた。


「……もういい分かった。話は終わり」


 悪いことを悪いことと認識していない人間に何を言っても無駄だ。相手のみならず自分の為にもならない。理解出来ない人の思想を感じ取るのは無意味だ。


「よく分かりませんが、結局我が主人はどうされるのですか?」

「お前を倒す……!」

「そうですか」


 残念そうにタテヤマが呟く。だが、視線は決して真昼を離さなかった。


「我が主人。私は貴方様を壊す気はありません。その上で一つ聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」

「……何?」


 真昼の眉が僅かに上がる。


「主人は自分の行いが正しいと思っていますか?」

「……思うよ」

「何故?」


 そんなことは決まっている。


「ボクがボク自身を信じているから」

「そうですか。良い答えです」


 話に区切りが付く。

 その後、真昼は正面の相手から目を逸らさずに高らかに叫んだ。


「ウィルフェース、リンクアップ!!」


 呪文と共に真昼の姿が瞬時に、より可愛らしくなる。この間は変身出来なかったが、今回は見事に成功した。一回変身出来なかっただけだというのに、身に纏う煌びやかな衣装も、輝きや美しさ増した長い髪も何故か懐かしく思えた。

 初めて彼の変貌振りを見てもタテヤマに驚く様子はない。それどころかますます冷静になっているように感じられた。


「ブリッツネーデル!」


 光の弾を二つ召喚し何時でも発射出来るように漂わせる。

 戦闘に備える真昼とは対称的にタテヤマは動かない。真昼の目には構えすら取らずにただ突っ立っているように見えた。

 相手の行動が予測出来ない。

 だがそれは行動しない理由にはならない。


「いけっ!」


 弾を標的に向けて発射する。真っ直ぐな軌道を描いて空気を切り裂いていく。


「…………」


 タテヤマが至極つまらなそうに襲い来る弾を掴もうとする。弾のスピードや威力を瞬時に計算、そして自身の防御力を元に掴めると判断したのだろう。指で包み込むタイミングも完璧──のように見えた。


「んんっ!?」


 光の弾が直角に曲がりタテヤマの足元を穿ち破裂する。

 地面が砕ける音を残しながら巻きあがる粉塵。真昼とタテヤマとの間に埃のスクリーンが出来上がる。


「はああああああああああっっっっ!!」「せいっ!!」


 そして間髪入れずに二人の乱入者が左右の側面から攻撃を繰り出した。

 巨斧と大剣の重い一撃が鼓膜を切り裂くような金属音を奏でる。が、それは同時に防がれたことを示す知らせでもあった。


「この私を舐めないで貰えるかな」


 夕と朝美の渾身の斬撃を両腕で受け止めた巨漢が腕を振るい二人を飛ばそうとする。

 だが、少女達の反応も早い。夕は敵の勢いを借り空中で後方に一回転して体勢を立て直し、朝美は前方への勢いそのままに前宙しながら敵を飛び越した。


「相変わらず硬い!」

「貴女方は先日のカスではないですか! わざわざ私に殺されに来るとは愚かの一言ですね」

「勝手に言ってろ馬鹿!」


 着地して反転した朝美が両手で横になぎ払う。更に後ろから夕が相方を越えて縦に叩き斬ろうとする。


「その程度では!」


 しかしタテヤマの反応も早い。朝美の攻撃を跳躍して回避すると、勢いが乗りきる前に刃に腕を当て夕の顔面にカウンターを入れる──はずだった。


「んんっ!?」


 反撃で放った拳は急ブレーキを掛けたように止まる。当たるはずだったパンチを止めるしかない状況に巨漢の顔が激しく歪んだ。


「何故! なぜぇぇっ!!」


 タテヤマが怒りと困惑に満ちた叫びを放つ。

 それもそのはず。夕と敵との間に真昼は滑り込んだのだ。それもわざわざ胸に直撃がいくように。

 放てば主人の命が危うい。至極真っ当な思考が彼の身体を硬直させたのだ。


「つぅ!?」


 隙を見逃さないとばかりにアタッカーの二人が連撃を加えていく。稚拙なコンビネーションの隙間を狙ってタテヤマも応戦しようとするが、攻撃は全て真昼が上手く間に入ることによって防がれていく。

 タテヤマの高過ぎる防御力に対して、こちらは真昼が肉壁になることで対抗する。相手の制約の穴をつくようで決して胸を張れる作戦ではないが効果はてきめんだったようだ。


「ふざけるな……ふざけるなぁぁぁぁ!!」


 怒りが空気に乗って三人を包む。しかし急造コンビは怯むこと無くお構いなしに武器を振るった。


 優勢。決めては無いが有利にことを進められている。正直上手く行きすぎている気もするけど、ボク達は進むしかないんだ。


 真昼は冷静に壁役を務めつつも、作戦がバレないように敵の瞳に集中した。

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